第378話 臨界7(アンドレスサイド)

 生きるべきか死ぬべきか。そんな一文がアンドレスの頭を過る。自分が、自分たちが直面しているのは間違いなくこの問題だ。薄氷を踏むがごとくという言葉すら生ぬるく思える。今置かれているのは何処にあるか分からないクレバスを恐れながら進む行軍に等しい。


 しかし、はっきりしていることが一つだけある。「破滅」だ。その結末を受け入れるなどアンドレスには到底容認できることではない。例え、自分が泥を被ることになろうとも。


「ええ、そうよ。全部は私個人の意思よ」


 煙管の灰をトンと受け皿に落とす。


『独断専行というのは私個人としては感心しないね。それにアポも無しにいきなりこうして電話をかけてくるというのは無礼にもほどがあるとは思わないかな?』


 通話相手は言葉こそ棘があるがあくまでも側だけだ。感情は心底どうだっていいと物語っている。


「その無礼については謝罪するわ。申し訳ないわね。さて、話を始めましょうか」


 早々に会話を切り上げるとアンドレスは通話相手に付け入る隙間を見せないように前のめりになっていると分かりながらも話を進める。


「エウリッピ・デスモニアを始めに『降伏したら』私たちを生かすことを約束してほしいのよ」


『…もう一度、言ってもらえるかな?』


 初めて感情らしい感情が電話越しの声に宿った。


「エウリッピ・デスモニアを始めに降伏した者たちの命を始めに危害を加えないことを約束してほしいと言ったのよ」


『大分都合のいいことを言っている自覚はあるかな?』


「手土産を用意している。そう言ってもこっちにとってばかり都合のいい話かどうかを判断したところで遅くはないんじゃないかしら?」


 アンドレスは今にも通話を切ろうかという雰囲気をわざとらしく放出しているのをあっさりと振り払うとペースを握るべく会話の糸口を強引に繋ぐ。


「あの聖女、人間の力だけで破壊できると思ってる?」


『出来るだろうね』


「出来ないって断言しておくわ」


 すかさずに反論を挟み込む。ここまで来ればカードを切るべきだろうとアンドレスは動く。


「あれは正攻法で倒すことは不可能だと予め宣言しておくわ。そのうえで、アレをどうやって倒せばいいか教える」

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