第305話 蠱毒17(九竜サイド)
告白するなら、ここまでの道中に何があったのか覚えていない。気が付いたら、ホテルの部屋で彼女の体を腕の内に抱いていた。演劇なら滑ってしまいそうなセリフ。ただ、今の状況は、オレが辿った道はまさにその言葉通りだった。
「顔、熱いね」
馬淵の手が頬に触れる。子どもを愛でていると思わせる優しい手つき。白い手は少しだけ赤い。顔も同じ。体を突き動かしているモノが面白いぐらいに一致していると分かる。
抑える必要は、無い。もう、首輪は捨てていい。
何かが。誰かが。そう囁く。
また、唇を重ねる。舌が独立した存在のように動く。絡み合って貪って纏わる唾液を互いの口内に流し込む。熱く、粘っこい液体が全てを蕩かす。顔を離すと、名残惜しそうに、離さないでと糸を引く唾液が切れる。
「
今にもメルトダウンを起こしてしまいそうなほどに融けた顔を晒した馬淵に視界がぶれる。声が出ない。
「…いいよ」
浜辺と演出は同じだ。
理性を酔わせ、馬淵はベッドの上にわざとらしく倒れる。両手を投げ出した姿は何をされても構わないと示している。
フラフラと、甘い香りに惑わされるようにオレは馬淵へと引き寄せられる。食虫植物に食われる虫はきっとこんな感じなのだろうとどうでもいいことが頭をよぎる。
跪き、ブーツを脱がす。続けてソックスだ。少しだけスカートを捲った。
晒される白い足は無駄な肉が無く人のものではないように思えた。二度目であるにもかかわらず。
「そんなところで、いいの?」
声音からも察せられるほどに馬淵は不満を滲ませ、足を撫でようとしていたオレの手を掴むやもっと上へと導く。スカートの肌触りが気持ち良かった。
至った場所は、言うまでもない。説明をする必要もない。男なら焦がれて仕方がない場所だ。早くと急かすように馬淵は息を荒い。
「本当に…いいのか?」
今更必要な質問なのかと思えることを口にしたことに自嘲して、スカートのファスナーに手をかけようとする。指が震えて一気に下ろすことが出来ない。
「怖い?」
仰ぎ見る形になった馬淵の顔はオレよりも僅かばかりの余裕が存在しているように見えた。実際には、見えただけだった。
「…そっちもだろ?」
いざことに及ぼうとして、揃って怖気づいた。
体が震えている。その姿は兎のようで可愛らしく映る。
「こういうの初めてなんだ」
取り繕ったところで無意味と判断し、オレは自らの恥を晒す。笑われたところで不思議ではないと覚悟をするも馬淵は何の反応も示さない。いや、示してはいる。顔が限界まで茹だったタコそのものだ。
「…わたしも」
「え?」
予想の外にあった言葉にオレは面食らった。同時に自分でも分かるほどに黒いものが浮かび上がって精神を侵食していく。それを表に出さないようにオレは馬淵の顔を見つめる。
「わたし、誰とも付き合ったことないよ?」
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