第282話 破戒26(真理サイド)
全部が全部消し飛んだ。大嵐が吹きすさんだと証言したところで過言ではないだろう程の暴威が吸血鬼をかっさらう様子を
「うっは‼何なんすかぁ⁉」
肝が据わっているのかと突っ込んでいいのかと思えるほどの勢いで
「敵でないことを祈るばかりだね。これ以上の仕事はごめん被りたいよ」
薄っすらと汗が滲む額を拭って
―違う。
ドクンと心臓が強く跳ねる。自分はアレを知っている。巻き起こしている元凶が如何なるものであるのか、知っている。知っている、はずだ。
しかし、その狂乱の暴威は確実な存在感を伴って近づいてくる。相対する吸血鬼は迫る脅威を目の当たりにしても足を止めない。遮っていた壁が崩壊するということを理解していないのか進む足は途絶えない。穴が出来るのは、時間の問題だ。この絶望的でひっくり返しようが無かった状況をひっくり返すことが出来る唯一のチャンス。
自分がすべきことは、この状況を切り抜けたこのあと。一向に解決のしようがない最大の問題が道を塞いでいる。
指揮官は、既に存在していない。狙うなら頭から潰すというのが定石だ。あの吸血鬼がそんな基本中の基本でミスを犯すとは思えない。
次に、今現在迫っているモノの存在。想像通りならば、アレは敵味方の区別が出来るとは到底思えない。もし、想像が当たってしまったら戦力の立て直しは一切不可能になる。生きて帰れるのは、何人になるのか分からない。
どちらにしても、この場に留まることは危険極まりない。ただ、あの吸血鬼が敢えて穴を設けて誘い込みを仕掛けている可能性も否定は出来ない。周囲の安全性は自分の目で確かめる以外は他なしと真理は立ち上がって前に立つ昼間に声をかける。彼も眼前に迫る正体不明の暴威を前にして猫のように総身を奮い立たせている。
「ごめん。ちょっとだけ外す」
「は?」
真理の申し出に昼間は呆気に取られている。
「単独行動は避けるべきと思うが…。どうするつもりだ?」
昼間に変わって金崎が問う。背後では今も銅金が機関銃をがなり立てて敵を屠っては死体の量産に励んでいる。
「今すぐにこの場から離れたほうがいいです」
「つまり、アレが何なのか、君は知っているのか?」
自分を見据える目は、まるで鷹。しっかりと語るべきことを語らなければ許しはしないと物語っている。
「知っているか否かは別としても、アレは無視できるモノではないかと」
自分でも驚くほどに堂々と、淡々と嘘を貫く。いつかの自分が目の当たりにすれば目くじらを立てる光景。
「つまり、尻尾を巻けというわけか」
ジッと真理を見つめる目は強さが増す。この状況で己の持ち場を離れると発言したのだから疑うのも無理はない。
「仕方ないか…」
金崎は頭をポリポリと掻き、続けて昼間へと目を向ける。
「2人で行動をするように。こちらは我々が引き受ける。何かあったらすぐに戻れ」
「了解しました」
有無を言わさぬ圧力に負けないほどに芯の通った声で真理は返す。
「では、行き給え」
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