第139話 結解27(芥子川サイド)
「以上が現在までに判明していることです」
知ったのは、今朝だ。
最初に訪れたのは、驚き。次に訪れたのは、怒りを始めに綯い交ぜになった数多の感情だ。
手に納まっていたペンがパキッと割れる。
「遺体は?」
「残念ながら、回収は叶いませんでした」
その言葉が終わると、ダン‼と音が鳴るほどに強い力で
「奴に奪われた…。そういうことか?」
「消し飛んだという可能性もゼロではないかと」
話によれば、エウリッピ・デスモニアは猛火を操ることが出来るらしい。俄かに信じがたい話であるが、前回目の当たりにした戦場跡を思い出せば嘘ではないだろう。
「弦巻葵の部下は?」
「1人が行方知れずです」
「名前は?」
「九竜という少年です。あとの2人は現在抑えるべく動いている最中です」
「次の指示は、追って伝える」
「了解しました」
駆けるような会話を終えると
―勝てない。
そんなネガティブな感情が胸中をよぎる。否定しようと頭を働かせようとするが、これまでの状況が容赦なく現実という泥を塗りたてる。
裏切り者、エウリッピ・デスモニア、女王、弦巻葵。
どれも、どれの1つとして、抑えられていない。
それなのに、こちらは駒を失って、追い詰められている。
今すぐにでも叫びたい衝動に駆られ、デスクをぶん殴りそうになるも掌から発せられる痛みによって怒りに蓋がされる。
端末を手に取り、ハーツピースに連絡を入れる。
「もしもし」と淡白な声が返ってくる。
「今は…」
「1人ですよ」
芥子川の言葉に被せるようにハーツピースは答える。
「今のところは特に怪しい動きはありません。デスモニアは恐らく単独で動いています」
「委員会を動かすまでも無いということか」
「その可能性は高いと思います。しかし、奴の目としての役割を果たしている者が何処かに潜んでいるということでしょう」
「吸血鬼側からの諜報員ということか」
腑に落ちると同時に、疑問が沸く。
吸血鬼には、影の穴と匂いという決定的に人間とは異なる点がある。仮に入り込まれていれば、直ぐに気づく。その一線が薄いとなれば、人間を使っていて素知らぬ顔でこちらに潜んでいるということになる。もしかしたら、裏切り者と対面しているかもしれない。
「そちらについてはこちらで調査します。恐らくは委員会の近くに居る確率が高いでしょうからね」
「すぐに調査を始めろ」
「了解しました」
事務的なやり取りを終えるとハーツピースは通話を切った。
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