第137話 結解25(マレーネサイド)
遡ること2時間前。
指定された場所に到着した。あとは獲物がやってくるまで待つだけだが、時間帯が夜なことに加えて何もせずに大人しく待っているというのは退屈で寒い。
メールに気づいたときは、既に夕方だった。それを筆頭に、30通ほどがボックスに保管されていることに気づいた。
慌ててメールを返すと、文章からも生々しく、メラメラと盛る業火をイメージさせる怒りを感じ取れるゾッとするメールがすぐに返ってきた。
コンビニで購入した肉まんの包を解いて口に含む。時間は随分と経過してしまったせいで冷めてしまっていてあまり美味しくない。半分程食べたところでホットの烏龍茶を開け、ゆっくりと喉に流し込む。こちらも以下同文だ。
ライトが見え、向かってくる車の全貌が見える。エウリッピのメールに添付されていた写真の物と同じものだ。
『羽狩』が使っている部隊のもの。今回は第二支部で騒ぎを起こす予定らしく、中央か第四支部から送り込まれることになるらしい。
しかし、相手が誰であろうと関係はない。全員、殺すだけ。
「やりますかねっと」
仮面を装着して、乗っていた手摺からティーチは飛び降りる。着地地点は、車の真正面になる予定だ。
ズドンッ‼とクレーターが形成されるほどの轟音を響かせ、ティーチは正面から向かってくる車のバンパーに蹴りを加える。加えられた圧力に耐えらるはずもなく、後ろに続いていた車を巻き込んでドミノ倒しになる。3台だけのためドミノというには迫力がない。
「ク、クッソ‼」と乗っていた1人が倒れた車から姿を現す。とはいえ、事故に巻き込まれたため当然のように無事ではない。銃を持った手はプルプルと震えている。更に顔は血でも抜かれたかのように青くなっていく。この姿を見れば無理からぬ話ではあるが。
煌びやかで荘厳な中華風の鎧にまず呆気にとられるだろう。その衝撃に更なる衝撃をトッピングするのが、顔だ。
止めに赤い般若の仮面。暗闇の中で、痛みに蹂躙されて鈍った頭でも恐怖を想起させられることはこの反応を見ていれば間違いない。
一言で言い表すなら、鬼。
それが宵に殺しに来たのだから、当然の反応だ。
『ごめんね。でも、仕事だからさ』
わざとらしい、誠意も罪悪感も何も籠っていない謝罪の言葉を言って弄んでいた呉鉤を握り直す。
タン‼と擬音を付けたくなるほどに軽快なステップを踏む。ガシャガシャと鎧と鎧がぶつかり合う音が鳴っているにもかかわらず、軽装だと誤解してしまうほどに軽やかだ。
銃弾が発射されるが、ティーチは羽虫でも払いのけるかのよう対処してフロントガラスに刃が触れる。
『バイバイ』と言いつつ、振り抜く。後ろに続く車諸共だ。斬鉄剣と自慢したくなるほどに綺麗に切断できた。
切り抜けると、クルッとティーチは振り向いた。直後に、破砕された車は悪魔の叫びを思わせるような大爆発を起こす。ガソリンに引火した炎は面白いぐらいに燃える。生存者がいたとしてもあっという間に火だるま。確実に死んでいる。
『おっ終いっと』
現場から速足で立ち去ると、仮面を外した。夜空になびく髪を鬱陶し気に払う。
「誰か面白い相手はいないかな?」
時折聞こえる爆音とサイレンを肴に烏龍茶を飲み、素顔を晒したマレーネは微笑んだ。
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