第136話 結解24(エウリッピサイド)

 充填が完了したことを確認すると、エウリッピは銃口を姫川へ向ける。


 現在いる場所は元居た地上から6階ほど離れた場所、最初に姫川を吹き飛ばした場所だ。この距離なら反撃してきたとしてもすぐに対応が可能だ。


 引き金を引こうとしたところで、先に姫川が仕掛けてくる。レーザービームの如き細さだ。


 現在進行形で、動きは直線。あの楯を姫川は手足の如く操って見せている様子を目の当たりにしている。途中で軌道を切り替えることが出来たとしても、不思議ではない。


 しかも、使用している楯は2つ。もし、攻撃が外れたとしても楯を1枚使うことで全てを賄うことは出来ないとしても、攻撃の大半は防ぐことが可能。

 

 対して、エウリッピはすぐに動くことは出来ない。ダイレクトにあの溶解液の一撃を受けることになる。


 心臓を狙う必要ない。心臓を貫かなくとも、肉体の重要な器官、四肢の一部。どこかを撃ったところで、あの威力なら命中した箇所を機能不全に落とすことも可能だろう。もしかしたら、腐食効果があるかもしれない。


 しかし、姫川の推測は、1つだけ的を外している。


 引き金を引き、銃口から大量の炎が放出される。向かう速度は殆ど互角で、攻撃がぶつかるまでに時間はかからない。


 ―拡散。


 セットしておいたコマンドで姫川に向かう炎に指示を送る。直後に、極太の炎が糸束を解いていくように細く分裂していく。

 一部が溶解液と接触し、蒸気を上げる。最終的に競り負けるだろうが、そんなに時間は必要ない。


 姫川の元に炎が流星群のように降り注ぎ、火柱を上げる。狙った敵を消し炭にするだけの威力があるが、今回は生け捕りが目的だ。行動不能にするだけで十分。


 煌々と燃える。群青色の炎が次々と繋がり、更に瓦礫にどんどん着火していく。崩壊していく舞台を飾り立てる装置としてはこれほどまでに美しい花もないだろう。舞う火の粉も彩を与えている。


 そろそろいいだろうと思い、エウリッピが指を鳴らすと、騒いでいた聴衆が静まり返るように炎が勢いを弱め、最後には消える。狙われた姫川は辛うじて立っている状態だ。


 共鳴リベラスを解除しつつ、エウリッピは1階に降りる。周囲は前回ほどではないにしても黒く焦げ、異臭が辺りを覆い始めている。


「勝敗は決しましたね」


 と言ったものの、重度の火傷は負っていない。スーツは熱に炙られて穴だらけ、肌も所々が赤く腫れているが。抵抗しようと思えば出来ないことはないという状態だ。


「そう、みたいだね…」


 姫川を守っていた一対の楯が床に落ちてビキビキと砕け散る。持っていた剣も同様に粉塵となって空に流れていく。


「約束通りに、身柄はいただきますね」


 胸ぐらをつかもうと手を伸ばすと、姫川の目に戦意が戻る。だが、火傷でダメージを負った手では攻撃に精彩さはない。ミゼルコルデを持った手をエウリッピは事も無げに捻り上げ、ギリギリと締め上げる。カランと音を立て床に落ちる。


「もう、勝負はついているんですよ?」


 苦悶に満ちていながらも、諦めようとしない姫川にエウリッピは冷たい言葉を投げる。


「生きてる限り、勝負は…、だ…」


「この結果を目の当たりにして?」


 抵抗ままならない姫川の首を容赦なくエウリッピは絞める。弱り切った彼女は抵抗などしようもなく、苦しそうに呻くだけだ。


「結果は何においても優先されるべきこと。君たちだって同じことでしょうに」


 グラグラと揺れるビルはもう間もなく崩れる。そろそろ脱出しないとまずい。


「来てもらいますよ。君には、聞きたいことが色々とありますから」


 姫川の体が小さく跳ね、か細い声が零れて彼女の体がダラリと垂れる。


「さて…」気を失った姫川の体を担ぐと、崩壊していくビルからエウリッピは退散しつつ、端末にメールを打ち込んだ。

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