第134話 結解22(琵琶坂サイド)
胸が痛い。エウリッピに撃たれた心臓付近の傷がズキズキと酷く痛む。ベットリした血の粘り気が鬱陶しい。
指が、動く。普段通りとは言えない弱い力だ。
瞼が、開く。光ではなく、闇が真っ先に目に入る。
肌を、生温かい何かが撫でる。正体は全く分からない。
顔を上げ、その正体を知ろうとする。知って、驚愕する。
何が何だか分からない。だから、状況を理解しようと
体中に付いた傷が次々に消えていく。正確には、逆再生をするように傷が塞がっていくと表現した方が適切なほどの速度だ。
ギロリと言わんばかりに動いた
人ならざる者の瞳だ。色はそのまま。そのはずなのに、色がまるで抜けてしまっているように感じられた。体中の毛穴という毛穴から冷や汗が噴き出す。
―あれは、何だ?
理解しがたいモノ。自分がこれまでに積み上げたものすべてが、通用しないと悟れてしまうほど高度に在る存在。
風と光が収まると、
先に動いたのは、
「え?」と男の声が聞こえた直後に、兵士の胴体が倒れて頭を失った首から花瓶から水が流れるように血が滂沱と流れる。
見返り美人の如く九竜の首が動く。美しさなど欠片もない、ただ恐怖をあおるだけの動作。
「全員距離を…‼」と口を開いた矢先に
「おんのれェ‼」
大声を上げた
「な、何だよ‼あいつはぁ⁉」
兵士の一人がビーハイブを乱射する。それをあっさり回避し、攻撃してきた兵士に標的を定めたと思いきや
「ぞ、増援だ‼増援を…‼」
指示を送ろうとしていた兵士の首が、周囲にいた兵士が次々に
「はぁ…」と短く息を吐くと、
「こ、降参だ‼た、頼むから…‼」
既に戦意喪失している兵士たちは完全に浮足立ち、武器を捨てて逃げ出す。
しかし、その背中を
次々に悲鳴が、命乞いが空を飛び交い、尽くが血の海に沈んでいく。
あの日迷っていた少年はいない。残酷に、合理的に人を殺している。
芝刈り機が芝を切り捨てるように人が死んでいく。虐殺という言葉がこれほどに相応しい状況というのも存在しえないだろう。
チャプン、チャプン。
小さな音を立てながら死を振り撒く者は血の海を進む。
残った兵士は、独りだけだ。戦ったところで勝てない、逃げたところで逃げることが出来ない完全に詰みの状況だ。
「ク、クッソォ‼」
やけくそとばかりにビーハイブの銃口を向けるが抵抗も抵抗として用をなさない。銃弾は空を切り、
―終わった?
刃を一度下ろした
残ったのは、月を写す鉄臭い海と佇む
目が、合う。眦が細くなる。
心胆が底から冷えるほどの恐怖が湧き上がる。
―拙い‼
逃げなければと思いながらも四肢に力が入らない。焦燥感に駆られながらどうにか力を入れようとするも、途中で回路が切れてしまったかのように筋肉が動かない。足掻いている最中に九竜が動く。
ユラリ。腕が上がり、
血飛沫が盛大に上がり、レールガンの弾のように飛び出す。
―死ぬのかな?こんなところで…。
迫る
直視できず目を閉じる。だが、痛みは一向に体に走らない。
一撃で殺されてしまったのか。そう思いつつ、黒子は瞼を動かす。不思議なことに動き、景色が反映される。
切っ先が、真横にあった。あと少し逸れていれば、顔面を刺し貫かれていた。
直後に
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