第128話 結解16(九竜サイド)
夜道をひたすらバイクを走らせているうちに第二支部が見えた。
バイクの初騎乗はとても爽快感のある経験だった。相乗りがデスモニアという吸血鬼ということが手放しで喜べないが。
加えて、後ろに乗っていて見える彼女の背中は、どうしても
道半ばでバイクが止まった。第二支部まではまだ距離がある。端末で確認すると距離は15分ほどだ。バイクはどうするのかと思いきや、デスモニアは堂々と路面駐車を選んだ。
座席から降り、デスモニアはヘルメットを取る。内に封じ込められていたワインレッドの髪が空に翻る。オレもヘルメットを外して後に続く。
「ここから先は歩きになります。足が壊されるのは困りますからね」
デスモニアは第二支部までの道順が全て頭に入っているのか端末を起動させずに続く道を真っ直ぐに進む。
「手を組むと決めた以上はそちらの手札を教えろ」
「嫌ですよ」
にべもなくデスモニアはオレの言葉を容赦なく切り捨てる。余りにも自然な流れで聞き逃してしまうところだった。
「酷い話だな」
「誤解されてしまいそうですから言っておきますけど、全てが終わったら教えるという意味ですよ」
「何処までが終わったら、だ?」
信用が一切ならないデスモニアから言質を取るべくオレは言葉を続ける。
「今日、これから行う戦いが終わったらですよ。これで満足ですか?」
「ああ」と返し、引き下がる。
本当の事を言うのなら、知りたいことは山ほどある。
吸血鬼と委員会の関係。恐らくは何らかの取引があったと思われるが、そのテーブルに乗せられた物。更に葵の行方とあの日彼女を打ち負かした存在。
これは確信に迫る内容のためデスモニアは答えない。しかも、それらを知るための行程として行われるこれからの戦いは、オレを逃げられなくするための軛だ。選択肢が初めから存在しなかったとはいえ、良いように踊らされている。
「1つだけ教えてもらいたい」
「答えられる範囲でなら」
オレの問いに返事をしつつ、デスモニアは銃をチェックしている。
「何故オレを選んだ?他にも話を持ち掛けられる奴は居たはずだ」
「君のチームメイトの事ですか?それとも、他のチームすべてを含めてですか?」
「全部だ」
「では、1つずつ疑問に答えましょう」
これはデスモニアにとって別に重要な話ではなかったらしい。ハンドガンの確認作業を終えると、彼女は説明を始める。
「繰り返しになりますけどね。君を選んだのは、単純に感情論で動くタイプの人間ではないと話を聞いて判断できたからです。他に訴えたところで、話を聞くまでもなく一蹴されてしまうでしょうから」
「当然の反応だな。しかし、買い被りも甚だしいな」
「君を過大評価しすぎていると?」
「ああ。オレはそもそも入ってから日が浅い。人間と吸血鬼の因縁、組織の起源や歴史。知らないことだらけだ。それに、目の前で先輩を殺されている」
「そうでしたね」
何を言わんとしているのか理解したらしくデスモニアは納得の言葉を口にするが、直後に「だから?」と否定の言葉を口にする。
「話し合いをするなら、論理的な人間のほうがいいでしょう?そもそも、感情論でしか物事を判断できない人間はテーブルに付こうとすらしない。君は先輩が死んで悲しい、悔しい、殺した奴が憎いという想いを胸に抱きつつも、ここに居る。それが何よりの証左です」
「それが買い被りというものだ。…今、お前が携えているオレの刀が手元にあれば斬りかかってる」
「しないということは分かってますよ。目を見て、声を聞いていれば分かります」
「おだてても木には登らない」
「結構ですよ。私はそんな頼み事はしませんから」
「アンタにとって都合のいい駒。それにオレは選ばれたということか」
オレの言葉に、デスモニアは「フフっ」と忍び笑いを上げる。
「互いにとって、納得のいく結末を手に入れたい。それなら、自分の思い通りに事を運んでくれそうな存在を探すのは当然でしょう?互いにとって願うことが近ければ近いほどに上手くいく確率は高い」
つまり、吸血鬼たちにとっても、戦いをしたくない理由があるということになる。だが、それは吸血鬼の在り方に相反する。
「聞かれることになると思うので先に答えておきましょう」
前置きをして、デスモニアは話を続ける。
「私は争いごとが基本的に嫌いなんですよ。得るものが何もない。物資も戦士も意味なく減っていく。しなくても良かった戦いによって」
「嘘はもう少し説得力のある話にしたらどうだ?」
「面白いことを言うのですね。君は私の何を知っているのですか?人間を殺すことしか能のない怪物、人間を超える理解の及ばない存在。それだけでしょう?」
否定の言葉をぶつけるオレにデスモニアは冷たく言葉を返す。
「人間ならまだしも吸血鬼を理解不能と考えるのは不思議じゃない。こうやって話をしている今も、アンタが何を考え、何を望み、何を抱えてこの戦いに挑んでいるのか皆目見当もつかない」
「知ろうともしない相手のことを分かろうとは出来ないですよ。歩み寄る姿勢を一切見せないとなれば尚の事ね」
言葉は続けられる。
「根底にあるものは同じですよ。平和を確かに望んでいる」
「平和?」とオレは鼻で笑った。そんな失礼な態度に対しても、デスモニアは歯牙にもかけない。
「別に構わないですよ。こんな矛盾しているとしか言いようのない言葉を口にして不思議に思わない方が可笑しい」
「自分が素っ頓狂なことを口にしている自覚はあるらしいな」
「いつだって矛盾はありますよ。人も私たちも。平和を願いながら頭の片隅では血と闘争を渇望している」
「実にお前たちらしい理屈だな」
吐き捨て、オレはデスモニアの前へ出た。
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