第126話 結解14(九竜サイド)
グラッと姫川の体が揺れ、倒れる。赤い絵の具を零してしまったかのように血がアスファルトの上に広がっていく。
ー知らない奴が死んでいる。
死んだ姫川を目の当たりにして、真っ先に抱いた思いがそんなものだった。
フラフラと彼女に近づこうとして、肩をデスモニアが触れた。
「では、行きましょうか」
彼女は銃を仕舞い、振り返ってオートバイの元に向かう。
「
無意識に視線が姫川に惹きつけられていたオレにサイドデスモニアが声をかける。
「どれぐらい時間は必要ですか?」
少し大きめの声をかけられ、我に返った。
「…1時間ぐらいです」
自分が喋っているはずなのに、唇を動かしている感覚が無い。内側に入り込んだ何かが操作していると言われても納得してしまいそうになる。
「では、行きましょうか」
デスモニアからフルフェイスのヘルメットを渡される。
手慣れた動作でバイクを起動させると、オレは大人しく後ろに乗った。
♥
音が遠ざかる。油臭さが鼻を突き、ノイズが走っている意識が覚醒する。
手に力を入れ、少しずつ体を起こす。銃撃を受けた箇所がズキンと痛んだ。
「イタッ」と声が零れ、傷口に手を当てるとまだ血が濡れている。幸いなことに傷は塞がっていた。弾は貫通したようであまり気にする必要はないだろう。
パッパッと体についた埃を最低限払うと端末を取り出す。特にディスプレイに罅は見られず、電源を入れると正常に動くことが確認できた。
「もしもし?」と先に言葉を出す。
「おう‼そっちの首尾はどうなったァ⁉」
「うっさい」
鼓膜を破らんばかりの勢いで大声を出す
「で?そっちはどうなったァ⁉」
苦言を呈しても
「悪いけど、逃げられた」
「はぁ⁉何やってんだ手前ぇ‼」
ブチギレ気味の声で端末がぶっ壊れてしまうのではないかと思った。咄嗟に耳を塞いだ。空気が可視出来るならならきっとビリビリと揺れているだろう。
「吸血鬼が居たんだよ」
話の片手間に腰に手鏡を取り出すと顔の確認を始める。特に大きな傷はないが、髪は所々が撥ねている。
「そいつぁ、穏やかじゃねぇな」
さっきまでの大音量が少し落ちる。
「穏やかじゃないよ。この案件」
シュシュを解き、ブラシで髪を梳く。
「連中はここに来るってことか?」
「
「こっちに来るまでどれぐらい時間が必要になる?」
「1時間ぐらいで戻るよ。多分、あいつらと同じぐらいでぶつかるんじゃないかな?」
髪を整え終わると、姫川は「フゥ…」と短く息を吐いた。
「今日は本気でやるから、何かあったらよろしくね」
少し間が出来る。『本気』という言葉に向こう側で緊張が走っていることが伺える。
「了解だぁ。こっちのことは心配するなよぉ」
間延びしたような、剣呑な声が返ってくる。取り繕ったような雰囲気は否めない。
「じゃ、頼んだよ」
通話を切り、姫川は自分の姿を確認する。
「よし」と自分自身の姿が整え終えたことを確認すると、手鏡とブラシをポーチに仕舞う。
鍵を取り出し、姫川は駐車場へ駆け出した。
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