第79話 底辺12(吸血鬼サイド)
楽しむためなら手段を選ぶ必要などない。それがルイ・ポルリルーの持論だ。
合理的な行動をとることもあれば、全くと言っていいほどに非合理的な行動をとることもある。今回のパターンは後者のお手本ともいえる言い例だろう。
「何故、3日以内に動かなかったんですか?」
眉間に皺を寄せてエウリッピが詰め寄ってくる。言い分は最もだ。だが、本音を言うなら、どうでもいい。興味がない。
ルイ・ポルリルーという存在にとっては、愉しみにならない存在は全て些事。
「希望だったでしょう?カルナ・アラトーマを潰すというのは?」
「ええ。今も変わっていません。ですが、少しだけ形が変わりました」
マスクを取り、椅子に腰を下ろす。お楽しみの真っ最中だったが、それ以上の愉しみが出来たせいか前ほど熱が入らない。
備え付けのグラスにブランデーを2人分注ぎ、1つをエウリッピに差し出す。
「どういうことですか?」
エウリッピも向かい合うように座る。
話を促され、ルイは一口だけ口に含む。
「全力の彼女を潰したくなった…ということです」
「らしくないことを願うようになりましたね」
エウリッピが言うことは間違っていない。
「前回の戦い…見てしまったんですよ」
思い出すだけで筋肉が、骨が、魂が揺れる。震える。
悪魔。噂程度にしか聞いていなかったカルナ・アラトーマ本来の力。女王陛下すら超えるかもしれないと思わせるほどの迫力。
それまでの評価は、ただの裏切り者。だが、今はその全てを真正面から捻じ伏せたいという衝動に上書きされている。
これまで通りに弱ったところを討てばいい。そう訴える自分も確かにいる。だから、戸惑っている自分もいるし、備えなければならないと分かっている自分が確かにいる。
「満たされない…。真正面から捻じ伏せないと」
話を聞いていたエウリッピの顔が曇っていく。当然といえば当然だろう。
「勝てばいい。ご不満ですか?」
「言うは易く行うは難しですよ。貴女に勝ち目はない」
「一対一でやり合えば、ですけどね」
ルイの言葉を聞いてエウリッピは眦を上げる。
「形を変えたところで中身は全く変わっていないようですね」
話が一段落した段階でエウリッピは立ち上がる。目で動きを追っていると扉に向かって歩いているようだ。
「許可をいただけた。そう受け取ってよろしいでしょうか?」
「勝ってくれさえすれば、文句はありませんよ」
振り返り、言ったエウリッピの顔には渋面が張り付いたままだった。
姿が見えなくなるとルイは扉前に控えている副官のテオドール・レイノラートを呼ぶ。
「お呼びでしょうか」
一礼して禿頭を上げてキリリとした濃い顔を上げる。
身を包むのは純白のチャイナ服を思わせるもので丸眼鏡と禿頭も合わさって拳法の達人を思わせる。
「全員に通達なさい。狩りの時間って」
ポルリルーは口角を上げ、興奮冷めやらぬ声音で告げた。
「では、失礼します」
用件が済んで部屋を辞そうとするレイノラートにルイは声をかけ、エウリッピが手を付けなかったグラスを掲げる。
「一杯どうかしら?」
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