第67話 離別24(吸血鬼サイド)
コントロールルームの扉が開き、フォスコたちが入って来る。3人とも傷の大小を問わなければ少なからず傷を負っている。大理石のテーブルは既に何も表示されておらずティーセットのみが置いてある。
「お疲れ様でした」
カップを皿の上に置く。陶器と陶器が接触して小気味よい音が鳴った。
「嫌味か?」
優雅に佇むエウリッピにサードニクスが食って掛かる。
「言いがかりは止めて欲しいですね。私は私の責務を全うした後なんですよ?」
「あ?責務を全うだと?」
答えが気に食わなかったようでサードニクスは語気を更に強め、エウリッピに詰め寄る。
「あいつらを全員逃がしちまうような情けねえ作戦考えておいて何が責務を全うだ」
「貴方の働きが不足していたが故に逃してしまった。そうは考えないのですか?」
「
「示威行為にしたという話だって言えますけれど?」
事実と異なることはエウリッピも知っている。確認済みだ。
サードニクスは敵に敬意を表し使って勝利した。使わずにあのまま戦っていても勝つことは出来ただろう。
「止めろ、サードニクス」
見かねたフォスコが割って入る。
「お前の腹の内を明かす気はないか?無駄に時を浪費するわけにはいかぬだろう」
ジッとエウリッピを見つめる。確かにそろそろ知りたい頃合いだろうとは思う。だが、口の軽いサードニクスにポルリルー、頑固者のフォスコを相手に話してしまうと戦略が漏れてしまうかもしれない。前者は言わずもがな、後者は反発心から噛みついてくる可能性が高い。戦略の都合上、それだけは避ける必要がある。
「現段階では難しい話ですね」
ストレートに突っぱねたエウリッピに対してサードニクス、ポルリルーは不満を浮かべている。彼らが抱いている感情は概ね想像がつく。フォスコは無表情を貫いている。
「超えるべき対象を超えられないことに不満を感じますか?」
話を切り上げるべくエウリッピはサードニクスに水を向ける。
「当然だ。自分の力が及ばないなら納得せざるを得ない。だが、関係のないところから邪魔をされて不快に感じない奴がいるか?」
「1つだけ忠告しておくなら、あのまま続けても貴方では勝てなかった、よくて相打ちだったでしょう」
彼も何処かでは分かっていること。
当人が思っている以上に200年という開きは大きい。埋め合わせるのは容易ではない。だが、彼にしてみれば認めがたい事実だろう。しかめっ面がその証拠だ。
「結果的に勝つチャンスが増えた。そう理解してくれませんか?」
「分かったよ…」
舌打ちをして渋々サードニクスは了承する。
「ところで、あの女は私が頂いてもよろしくて?」
これまで沈黙を貫いていたポルリルーが口を開く。火照っている顔は紅潮していてこれから何を言わんとしているかが分かる。
「構いませんよ」
拒否する理由もないため了承する。骨の髄まで文字通り食らい尽くしたことがカルナにバレてしまったら無事で済むことはないだろうが、被害が及ぶのはエウリッピではなくあくまでもポルリルー。別に彼女がどうなったところで興味はない。
「待てよ」
そこにサードニクスが割って入る。これは珍しい事態だ。
「あれは俺が仕留めた奴だ。お前にくれてやる義理はない」
「惚れましたか?」
意地悪くポルリルーが微笑みを浮かべる。
「認めた相手を好き勝手されるのは我慢がならんという話だ」
「それを惚れたというのでは?」
面白い玩具を手に入れたと言わんばかりにポルリルーはサードニクスに詰め寄る。
「うるせえんだよ」
吐き捨てると共にポルリルーの体が吹き飛ぶ。傍目から見ていても容赦していないことが分かるほどの一撃だったが、殴られた彼女はピンピンしている。にやけ面はそのままに愛用のナイフ「サベージ」を右手に握っている。
「それ以上喋ったら、殺す」
実際にやるであろうことはサードニクスの表情と纏う激情から分かる。
一触即発の状態。ただ、この場でやられるのは具合が悪い。
「やるならここから出て行ってくださいね」
エウリッピは立ち上がり、2人を一瞥する。
「守れないと言うなら、この場で殺して差し上げますが」
エウリッピは椅子の隣に置いておいた
「申し訳ありませんでした」
エウリッピの威圧に負けたポルリルーが謝罪の言葉を口にする。原因を作った張本人であるサードニクスは謝罪の言葉を口にしない。
「話は終わりだろ?」
「ええ。終わりです。お疲れさまでした」
謝罪の言葉を口にすることなくサードニクスは出て行き、それを皮切りに全員がコントロールルームを後にした。
♥
予告
今回にて第3章は終了になり、来週から第4章『底辺』が始まります。
初の戦死者、底知れぬ敵、乗り越えるべき壁。
これまでで起きえそうで起きえなかった要素は大丈夫だろうかと思いながら書きましたが、如何でしたでしょうか。もし、続きを読みたいと思える要素になれば幸いです。
次章では、各々がこれらを乗り越えるべく葛藤し、足掻きます。
今後とも『イノセンス・V』をよろしくお願いします。
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