第47話 離別4(吸血鬼サイド)
「ええ、ではそのように」
声が聞こえなくなるとエウリッピは端末を耳元から離し、喫茶店のドアを開ける。 シックな雰囲気が広がる店内には『G線上のアリア』が流れている。
「サードニクス、ポルリルーは何と?」
注文したサンドイッチに手を伸ばしながらフォスコが尋ねる。
今回は表に出ているためタンクトップにズボンと当たり障りのない恰好をしている。
「準備が完了したとのことです。あとは餌が上手く機能するかですね」
「餌が機能せずとも我らの攻撃は一定以上の効果を見込めるか…」
「私たちの行動理由は上手くカモフラージュが出来ますからね」
端末を操作しながらエウリッピは答える。
「そちらの手配は?」
「問題なく進んでいる。陛下は『安全な場所』に移動をしていただいている」
『安全な場所』というフォスコの物言いに少し引っかかりを覚えるが言及はしない。
何を騒いだところでグラナートは一時的に幽閉しておく以外に有効な手段がない。親友にそんな非道な仕打ちをせざるを得ない状況には胸が痛む。
「今回の作戦、下にまで影響は及ばないか?」
珍しく不安を滲ませる声でフォスコは尋ねる。
「大丈夫ですよ。『清浄な
端末を操作する手を止めるとティーカップに手を伸ばす。
「勝つ見込みはあるのか?」
「戦いですから、勝たせてもらいますよ」
『勝利』と聞いている言葉は同じであっても思い描く像は違う。それを口にすれば、フォスコは今回の作戦に手を貸しはしない。
「今更聞く必要も無いと思うが、アラトーマと戦えないとは言うまいな?」
「ご心配なさらずとも大丈夫ですよ。今は敵同士、情けをかけるつもりはありません」
「お前が奴に勝ったことのある姿を終ぞ目にしたことはないがな」
思わぬところから指摘を受けてエウリッピは咽た。
「…見てたんですか?」
恨めし気な視線をファスコに向ける。
「長々と言い訳をしていたところも含めてな」
そこまで目撃されていたとなれば余計な弁明は不要だろう。すればするだけ自分の首を絞める事態になる。
「目撃されてたなんて驚きでしたよ」
「本気で言っているとすれば驚きだな。中々に有名であったぞ」
気恥ずかしさで顔を上げることに抵抗を覚えたが、疑問が浮かぶ。
「…噂を流したのは?」
殺すつもりなど欠片もないが、少しは罰を与えておきたい。
「知らん。既に死んでいるかもしれん」
素っ気ない答え。
無理やり塞いだ穴に隙間風が吹き込んでくるような冷たさを覚える。
「もしかしたら私が殺しているかもしれませんね。いつの間にか」
この場に似つかわしくない血生臭い記憶。口では笑い話のように言いながらもエウリッピには傷として残っている。
感傷に浸っているとフォスコが咳払いをして雰囲気を一掃する。
「話を戻すぞ。勝てるのか?」
眉間に皺を寄せてフォスコはさっきよりも圧力をかけてくる。投げかけられたエウリッピは不敵な笑みを浮かべて答える。
「勝てますよ。…絶対に」
視線を逸らすと、テーブルの上に置いた端末の液晶に映る自分の顔が目に入った。
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