第29話 血戦5(白聖サイド)

 白聖びゃくせい橙木とおのぎに援護を要請されてすぐにでも向かいたかった。そのためには、立ちはだかる吸血鬼5人を葬らなければならない。


「早く切り捨ててしまいたいのですけど、出来ますか?」


「俺も早く行きたいですからね。全力でやりますよ」


 2人の会話を聞いた吸血鬼から失笑が漏れる。反応を見ているとこちらの手の内は知られていないと理解できた。


「さて、やりますよ」


 甘楽かんらは背に吊るしている太刀『RE1010-2 死喰しぐらい』を抜いた。


 空気に触れた瞬間に鉄色をした刀身が紫色と深い緑色が混じった毒々しい色彩に変色する。


 白聖びゃくせいも『RE1010-4 破王はおう』を構え動こうとしたところで先に甘楽かんらが動いた。


 彼女の動きに余裕で対処ができると考えていたのか吸血鬼は不意を突かれる形になった。


 斬られた吸血鬼は体が左右真っ二つに分かれた。分かれつつある体の間から甘楽かんらの冷徹な目が次の標的を見据える。


 その光景を見た吸血鬼は彼女を脅威と認識を改めたようだ。だが、上っ面だけを改めたところで何の意味はない。胸中に巣くっている傲慢さは易々と消せるものではないからだ。


 吸血鬼2人が襲い掛かるも甘楽にあっさりと斬り捨てられる。


 1人は腹を横一文字に斬られ、1人の首が宙を舞って白聖びゃくせいの隣に落ちた。それを見て吸血鬼は完全に浮足立った。


 何も言わずに残った吸血鬼に迫る。対する彼らは一歩ずつ甘楽かんらが進むたびに後退する。


「逃げ腰はダメですよ。ここに居るからには、生きるか死ぬか。自分で決めないと」


 甘楽かんらが普段と変わらない穏やかな口調で言ってのけると同時に吸血鬼の上半身が地面にずり落ちた。


「俺、必要ないですよね?」


 目の前で余裕の態度を見せながら吸血鬼を殲滅してのけた甘楽かんら白聖びゃくせいは小さく溜息をつきながら言った。


「ありますよ。単独行動はとても危険ですから。後ろで守ってくれる、一緒に戦ってくれる方がいるってとても安心できるんですよ」


『死喰』に付着した血を拭いながら甘楽かんらは言った。


「それなら、いい加減に名前を呼んでくださいよ」


 白聖の言葉を聞いて彼女は困った表情を浮かべた。無意識に発してしまった言葉が失敗だったと悟った。


「その、すみません…」


 咄嗟に白聖びゃくせいは謝罪の言葉を口にした。


「いいんです。疑問に思うのはしょうがないですから。でも、人には必ず秘密がある。暴くのは利口ではありません」


 血を拭き終わると甘楽かんらは『死喰しぐらい』を鞘に納め、黒い筒に入れた。この筒は光彩機能が搭載されているためこれまでバレずに運用することが出来ている。


「利口ですか…」


 しっくりこずに白聖びゃくせいは顎を撫でた。


「人を強くするのも殺すのもいつだって秘密ですよ。それを守るために戦う者だって存在するわけですから」


 今の言葉に白聖びゃくせいはどう返せばいいのか分からない。


 甘楽かんらは見た目とまるで釣り合わない重苦しい言葉を口にすることがある。本当のところは知りたいところであるが、そこに触れると彼女を仲間として見れなくなってしまうと思えて未だに触れることが出来ない。


「ところで…」と甘楽かんらは顔に付着した血を拭いながら話を切り替える。


九竜くりゅう君と剣を交えてどうでした?」


 話がまた一気に飛んだなと思いながらも白聖びゃくせい甘楽かんらの言葉に答える。


「1週間で修行したと思えないぐらいには優秀でしたよ。経験を積めば俺はすぐに超えられる気がします」


「あとは、大人になれるかですね」


 白聖びゃくせいは先日の出来事を思い出す。


 見た目通りならば吸血鬼どころか虫1匹殺したことさえないだろう。この場で殺せと言われたところで彼は殺すことは出来ないように思えた。


 スーツに付着した汚れを払うと甘楽かんらは次の標的を求めて歩き始める。

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