第27話 血戦3(九竜サイド)
終わるやすぐに
「時間はあるかしら?」
何を聞かれているのか分からず戸惑っていると語気を強めて同じ質問をされた。断る理由はなかったため「ある」と答えた。
彼女はトレーニングルームに向かわずそのままビルを出た。
「何処に行くんですか?」
「仕事よ」
行き先を告げないことはこれまで通りだから文句を言う気は既にない。
駅まで移動すると一緒に電車に乗り込んだ。それから1本乗り換えて新宿で降りる。足取りに迷いはなく、背筋を堂々と伸ばしながら歩く姿は
彼女は端末に地図を表示すると歩き始める。人込みで見失わないようにオレはいつも以上に必死になって追いかけた。
「ここよ」
「夜の仕事はしてないわよ」
聞いてもいないのに弁明された。彼女の性格的に客は寄り付かないという突っ込みは口に出した瞬間に殴られるため胸に仕舞う。
夜の街は想像していた以上に不気味だった。
行きかう人々の目はぎらついていて何を考えているのか分からず直視することが躊躇われた。
更に行く先々で客引きにあった。オレは初めてということもあって恐ろしくて仕方なかったが、
「…1つ聞いていいですか?」
「下らないことなら答えないわ」
「隊長は、その…」
「そうよ」
オレの疑問に彼女は迷いなく答えた。本音は違うと言って欲しかったが、ここまで勢いよく断言されては反論の余地はない。
「気になる?」
「え?」と返された言葉に一瞬呆気にとられた。
「ずっと吸血鬼殺しなんてやっている私が従っている理由」
聞いてほしい。表情は物語っていなくても言葉は如実にSOSを発信している。無視することは出来ない。
「正義の基準って何だと思う?」
これまた唐突なことを思いながらもオレは「規則」と答えたが、実際のところはよく分からない。定義が広すぎる。このやり取りをしていると上梨や
「ありきたりね。もう少し違う答えが聞けると思ったのに期待外れ」
答えをバッサリ切り捨てられて気持ちが沈んだ。
「力だけよ。この世界で正義足りえるものは」
振り向き、手をピストルの形に変えて自分のこめかみに当てる。
「守ることにだって使うことが出来ます」
「傷つけ、殺すという結果に変わりはないわ」
遠い日の出来事でも見つめるような目で彼女は続ける。
「負けた後で言われたことよ。アタシはお前たちを利用する、お前らもアタシを利用しろと。そのときに理解したわ。こいつには勝てないって…」
「だから、願いを持つ。振り回されず、逆に振り回すだけの力を」
「先輩は、何を願うんですか?」
「これ以外の生き方なんて知らない」
その口ぶりから察するに、吸血鬼を殺し尽くすということなのだろう。
オレから顔を逸らすと
「世界に血と銃しかないとしたらどういう生き方になると思う?」
答えを聞く前に話を続ける。今は話を続けさせる方が吉と判断して余計な口は挟まない。
「私が居たのはそんな世界。だから、願いはずっと同じ。殺して、殺して、殺し尽くす。私を打ち負かした相手でも、いつの日か…」
吸血鬼を滅するために吸血鬼の力を利用するという矛盾。
聞きたくはなったが、その綻びに触れてしまうと彼女の何かを壊してしまう。それほどに彼女にとって従うことが本心では屈辱以外の何物でもないのだろう。初対面に等しいオレに愚痴をぶつけてしまうほどに仮面を被ることの負担は大きいと分かる。
しかし、これまで近づき難い雰囲気はあっても自分と同じ存在として見れていた
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます