血戦
第25話 血戦(九竜サイド)
「今日から
部屋へ行くと葵から告げられた。まだまだ修行不足であることは昼間との模擬戦を通じて理解していたオレとしてはありがたいことだった。だが、その一歩目が
宣言を受けた
「分かりました」とだけ彼女は言った。了承はしておきながらオレのことは最初から眼中に入っていないのか独りで部屋を出て行ってしまった。呆気に取られていると昼間に呼びかけられ、我に返って後を追った。
追いつくと今にもエレベーターで下へ行こうとしているところで跳び込み同然の形で乗り込んだ。
その間に一切会話はなく、エレベーターの空気は最悪で一刻も早く外に出たかった。ただただ沈黙が流れるだけの時間は地獄でしかない。
止まったのは地下で「B3」と記されていた。
出ると
「珍しい組み合わせね」
「隊長の命令です」
ニヤニヤ顔で話をかけられても
「預けていた物を引き取りに来ました」
「はい。これ」と特に反応を見せることもなく
中には分解状態のライフルが収納されていた。こちらもケースと同じで黒い。
「試し撃ちをしてもいいですか?」
「いいよ」
「ボーっとしてないで。行くわ」
ここで待機になると考えていたオレは慌てて付いていき、エレベーターで地下4階に降りた。今度は
♥
実験場はエリアのほぼ全てを使っているだけあって巨大だ。
基本的にはコンクリートが剥き出しの殺風景な部屋で所々に修復を施した跡が見られ、床には罅割れも見られる。
部屋に入った
「あっちで見てなさい」
ライフルを組み立てる
『いつでもいいですよ』
距離はまともに命中するとは思えないほどに離れていたが、
オレはその光景を目の当たりにして唾を飲んだ。
「初めて見る?」
固唾を呑んで見守っていると
「あれは『RW1011-3ヴァルキリー』って彼女の吸血鬼殺しの剣よ」
それから彼女は丁寧に説明をしてくれた。
「
「どうやって製造しているんですか?」
「極秘事項なのよ。ごめんね」
素材は毒素と合成した鋼鉄を鍛えて武器として使えるようにしたものだ。今使っている
話をしているとヴァルキリーが再び火を噴く。直後に的が破裂して内側に詰まっていたスポンジが四方八方に飛び散った。
『最高のコンディションです。問題ありません』
通信越しに
今度は移動する的でゆっくりしたスピードで始まり、最終的には吸血鬼が走る速度を仮想した的で試射をした。凡そ10回ほど行ったが、
『もう大丈夫です。ありがとうございました』
満足いったと言わんばかりにヴァルキリーを片付け、終わると破裂して飛び散ったスポンジの後片付けを始めた。
「とんでもない腕前ですね…」
言ってしまった後でオレは先日に
「欲しくなった?」
「自分だって強くなりたいですから」
「どうしてそこまで強くなりたいの?」
「知っているのに何もしないというのが許せない。それだけです」
オレの答えに
「それだけ?」
さっきまでの何処か自由奔放な雰囲気が消えて冷徹な風が
「あれ1つ作るのにどれだけのコストがかかると思う?」
オレが答える前に彼女が先に言う。
「適当な動機で投資できる額を超えているの。勝手に逃げられると困るのよ。反逆なんかされてもね」
白衣のポケットに手を突っ込んで話をする
「僕の過去はもうご存じですよね?」
これだけの時間と組織力があれば入ろうとしている人間の素性を調べ上げるなど造作もないことだろう。経歴、家族、それから事故のこと。彼女も知っているだろう。
「その話は聞いているわ。気の毒だったわね」
同情などしてないことが分かる目をしていた。変に食って掛かって機嫌を損ねても良いことはないと口を噤んだ。
「でも、悲劇なんて吐いて捨てるほど転がってるわ。それに義務やら使命感やらと抜かす輩もね。そいつらが今はどうなってるか、ここまで話していれば分かるでしょ?」
多くが戦場で死んだのだろう。だが、これでは
「戦えなかったんですね」
「そう。殆どが戦えなかったのよ。殺せなかったと言ったほうがいいかしら」
「ここで働く人間がどういう経緯でここに来るか、まだ教えてなかったわね」
「殆どが奴らに家族や大切な存在を殺された者、或いはその瞬間を目にした者たちよ」
「ちょっと待ってください」オレは彼女の言葉を聞いてすぐに反論した。
「矛盾してるじゃないですか。吸血鬼に大切な誰かを殺されたのに奴らを殺すことに抵抗を持つんですか?それが原因で、しかも殺される?」
「超えられないのよ。培われた倫理観をね」
そこから
「考えてもみなよ。物心ついてから殺し合いと無縁の生活を送っていた人間がある日を境に極限状態に短時間とはいえ放り込まれ、目の前で自分にとって大切な物を奪われたからって殺しという倫理に反する行為に手を染められると思う?」
オレは頭を横に振って否定した。
「吸血鬼だって生きている。私たちと同じでね。人とほとんど変わらない成りをしている奴らを目の前にしてしまうと多くが尻込みするのよ。その隙を突かれて多くが殺される」
話を聞いていてわかるような気はした。オレだって吸血鬼を実際に目にしている。
そのときに抱いた印象は、人間と変わらないものだった。オレにはまだ犬歯が少々長い程度の違いぐらいしか分からない。
「動機が十分すぎる人間ですらその有様なのよ。それなのに、動機がそんな薄っぺらい上にありきたりな決意表明をされたってすんなりと信用できないのよ」
憎しみや怒り、義務や使命を上回る動機など考えたこともない。まさか、欲望や理想論などと言うつもりはないだろう。
「ゆっくり考えなさい。いくら考えても罰なんて当たらないから」
そう告げると
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