第24話 闇夜22(吸血鬼サイド)
鍵を開けると血の臭いが鼻腔をくすぐった。エウリッピ・デスモニアはドレスの裾を汚さないように少し持ち上げる。
部屋には人間を含む熊や犬などの剥製、死体、拷問器具が所狭しと並んでいる。これだけで部屋の主があまり良い性格をしていないことが伺える。元の部屋が純白の石で作られているにもかかわらず床は血と脂で表現しがたい色に変色していることからもどれほどの血を重ねているか推察可能だ。
歩いていると部屋の奥からは苦痛に叫ぶ声と高笑いが聞こえた。不協和音は耳障り。面倒なタイミングで入ってしまったなと少し後悔した。
部屋の隅からこの先の光景を覗き込むと主であるルイ・ポルリルーはお楽しみの最中だった。テンションが上がり切っている彼女にはエウリッピが入っていることも気づいていない。
「いい音よぉ」
切り揃えている青みを帯びた黒髪、乱れた薄黄色のエスニックな服に身を包んだ姿が確認できた。とても危険な雰囲気、相応しい言葉があるとすれば触らぬ神に祟りなしだろう。垣間見えた横顔も紅潮していて余計に危険な雰囲気を上乗せしているように見える。
コレクションを愛でるような手つきは当人にしてみれば相も変わらない動作だろうが、やられる側にしてみれば恐怖でしかない。男はガチガチと歯を鳴らしている。
「ねぇ」とルイはそんなエウリッピの期待を裏切るように話を続ける。また面倒な長話が始まる前に終わって欲しいと思っていた目論見は呆気なく崩れた。
「もっと楽しめる方法はないかなぁ?」
アイシャドウに彩られた緋色の瞳は妖しく揺れ、頬に触れる手は徐々に食い込んでいく。
「た、頼む‼もう殺してくれぇ‼」
許しを請う言葉を吐き連ねる男の体は酷く出血している。皮膚はボロボロで幾度となく暴力に晒されていることが伺える。
そんな顔を見たことでルイの嗜虐心はより刺激されたらしく狂気じみた笑い声をあげる。
「幸せって何かしらぁ?」
ルイは相手に同意を求めるように話をしながら1人で話を進める。
「わたしにとっては~人の苦しむ顔ねぇ。君が浮かべているような顔を見てると…心が満たされるの。指を貫いて叫ぶ声がまず気持ちいいの。
ここまででも十分すぎるほどに奇天烈なのにテンションは止まることなく上がる。挙句の果てには笑い声にならない声をあげた。
頬に食い込ませていた爪を抜くとルイは付着した血を舐めた。さっきまで浮かべていた顔が血によって更に恍惚を帯びる。
「だから壊わすの。こうやって…」
艶めかしく囁きながらルイの右手が男の腹部を裂いた。
「気はすみました?」
話が終わるのを確認したところでエウリッピはルイに声をかけた。
「血が足りない。全然足りてないのぉ」
胡乱気な赤い目を向けてルイは訴える。未だに自分の世界に浸っているため全く会話が噛み合わない。渇きに喘いでいる彼女にエウリッピはあくまで冷静に対応する。
「なら、選り取り見取りでも提供しましょう」
ゆっくり歩きながらエウリッピは床を濡らす血を踏む。スカートが汚れないように慎重に。
「そちらにとっても悪い話ではないですよね?」
前置きを挟まずに本題に踏み込む。それを皮切りにルイは少しずつ幻想の世界から現実に戻っていく。乱れた服も直す。
「仕事の依頼?」さっきまでの嘲るような口調は消えて年相応の女性の口調に戻る。
「自由度は高いですよ。目立たない範囲であれば好きにやってくれて構いません」
『自由』という言葉を耳にしたルイは残虐な行為に浸っていたときと同じ凄絶な笑みを浮かべる。
「すぐに出るわ。たっぷり、楽しませてもらうことにするわぁ」
舌なめずりをしながらルイは部屋を後にした。
~予告~
次回より第2章「血戦」に突入します。ここより本格的な吸血鬼とのバトルが火蓋を切る予定です。勿論、そこ以外にも他のキャラたちが活躍します。
今後ともよろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます