第40話「未知とのお見合い その9」
「ところで、万二、ここの伝説に共通するものって何か分かるか?」
「ここの伝説? 確か、河童とうつろ船と付喪神だっけ?」
「そうそう。付喪神。ここの付喪神は傘が動いたり、うちわが動いたり、包丁が動いたりなんだよ。今に置き換えると、そう不思議でもない現象なんだよな」
その言葉に、俺はボタンひとつで勝手に開く傘に扇風機、ミキサーを思い浮かべる。
「他に、河童は実は酸素ボンベのようなものを背負った人って説もあるし、一番わかりやすいのはうつろ船。どんぶりみたいなものの中から美女が出て来たって伝承なんだけど、これらが表すのは1つ。宇宙人の存在だ」
まぁ、当時からすればオーバーテクノロジーの道具に、地球って星に来て、ちゃんと過ごせるか分からないから酸素ボンベみたいのを背負うのも分かるし、最後のはまんま宇宙船か。
「いや、でも待てよ。河童はさっきの変な動物だろ?」
「解剖していないから詳しくは言えないけれど、あれは宇宙人が連れて来たペットが長い時をかけて地球に適応した姿じゃないかと思っている。背中のコブはたぶん呼吸器官じゃないかと思うし、頭蓋骨は地球ではありえない形状だしな」
「なるほど。で、仮に宇宙人だとして、それでどうやってお見合いするんだ?」
「そりゃ、宇宙人を呼ぶ方法は1つでしょ!! はい。カンペ」
ネルから手渡された紙には、『ベントラベントラスペースピープル!』と書かれている。
「ああ、なんか昭和の時代に流行った宇宙人を呼ぶ呪文だっけ? さすがにこれじゃこないだろ」
「そいつはどうかな?」
キメ顔で何か知っている風な雰囲気を醸し出すネルだが、こいつがこういうときはだいたい特に何もない。
「甘いな。万二。お前のその顔は、こいつ特に根拠もなく言っているな。だろ。それは去年までのオレさ。婚活を始めた今年のオレは一味違うぜ! 根拠ならあるっ!」
「な、なんだってーーっ!!」
「この呪文を唱えるとき、人数が多ければ多い程、成功率があがる! さらに、超能力とかオーラとかそういうのを持っている人がいればさらに成功確率があがるのだっ!! そのために、今回は川鉄さんに頼んで、万二をゆうか、いや、拉致してもらったんだ!」
「誘拐を言い直して拉致にしても変わんねぇだろっ!!」
「いや、変わるぞ。誘拐は甘い言葉で騙して連れ去ることで、拉致は無理矢理、力で持って連れ去ることだ」
「くっ! さすがマンガ家。正しい日本語を使いやがるっ!! いや、それはどうでもいいんだ。もしかして俺を拉致したのは、宇宙人を呼ぶ人を少しでも多くする為か?」
「半分正解だ。本当の答えは、お前を拉致するには川鉄さんが必要だ。これで2人確保。さらに言えば、お前と川鉄さん絶対持ってるだろ。こう超能力的なのとかオーラ的なのとか!」
確かに、俺は左目のことがあるし、川鉄さんは、むしろ何かあってくれと思うくらい人間辞めているしな。ネルがそういう考えに辿り着くのも不思議はないか。
「分かった。川鉄さんでの説得力が凄まじいから納得するしかない! で、そのオーラみたいのに頼って宇宙人を呼び出そうってことか?」
「イエスっ!! 理解できたなら早速やるぞ! 日立さんと虎井さんも入れて円陣だ」
「虎井は怪我してるんだから除いてやれよ」
さっき、止血して包帯巻いたばかりなんだぞ!
「なら、5人かぁ」
少し残念そうにしながらも、納得し、5人で円を描くように並ぶ。
「ベントラベントラスペースピープル! ベントラベントラスペースピープル!」
ネルの言葉に続いて、俺たちも、「ベントラベントラスペースピープル!」と続ける。
ところで、これって空が見えていなくても大丈夫なのか?
本当ならUFOを呼ぶやつだよな?
しかし、ネルの表情は真剣そのもの。
一心不乱に取り組み、煌めく汗を流すその姿は男の俺でも思わず見惚れるほどであった。
「ベントラベントラスペースピープル! ベントラベントラスペースピープル!」
そうして、何回目かの呪文を叫んだところで変化が起きた。
「ぷっ……、ふふふっ! もうムリじゃ! ムリムリ! はははっははははははっ!」
日立さんが突如笑いはじめた。
しかも、大爆笑だ。
「わらわを笑い殺す気かえ。まこと、人間は面白いことをするのぉ」
日立さんの口調はどこか古臭く雅なものへと変貌し、彼女の姿は、なぜか俺には二重に見える。
「ベントラベントラスペースピープル! が何か分かってて言っておるのか?」
その問いにネルは当然といった風に答える。
「UFOコンタクティーであるジョージ・ヴァン・タッセルが存在を主張していた宇宙船の名前だよね」
「おおっ、そこまで知っているのかえ。まぁ、ひとつ訂正するならば、わらわたちの宇宙船の名前は自らの名を冠すのじゃ。つまり、地球人でいうと、ヒミコさま~!! とか、ミキティ~~っ!! とかずっと言われているようなもんなのじゃ。これが笑わずにいられようか、否、いられないじゃろ」
「なるほど! 確かにっ!!」
なんだろ、日立さんらしき人がお笑いが好きだと言うのが分かっただけな気もするんだけど……。
そのとき、ふと、違和感に気づいた。
いつの間にか、周囲はログハウスの木目調の壁や床ではなく、真っ白な空間に俺たちは立っていたのだった。
――ぼたっ。ぼたっ。
日立さんらしきものの目玉が地面へと落ち、顔が真っ二つに割れる。
中からは、長い黒髪が溢れ出し、頭蓋骨ではなく、つるんとした丸い顔。眼球が抜け落ち、眼窩が目立つ顔が露出する。
「こ、こいつは……、このバケモノは……」
頭がぐわんぐわんと揺れる。
俺の目の前には、いつも夢見る、あの悪夢のバケモノそのものが。
気持ち悪い……。
だれか……、たすけて……。
左目を潰す勢いで手で顔を覆う。
爪が肌に食い込むのが分かる。
左目に血が流れる感触が心地よい。
左目の周囲に走る痛みが俺が俺であることを認識させてくれる。
もっと血を。
もっと痛みを。
もっと…………。
「さいっこう!! まさにオレの理想の相手じゃんっ!!」
ネルの声で、俺は我に返った。
「はぁ!? どういうことだよ!!」
「どういうことって、万二もオレの理想の相手、知ってるだろ?」
ネルの理想? 確か、髪が長くて、目がくりっとしていて、二次元みたいな存在……。
「いや、長髪はともかく、目がくりっとって、くりっと無いじゃん!! しかも宇宙人だぞ!」
「二次元っぽいよな。宇宙人も幽霊も精神体だし、ほぼ二次元!!」
「そういう問題じゃないだろっ!!」
「ああ、そうだな」
急にネルのトーンが下がり、俺は思わず息を飲む。
「でも、オレが求めていたのは、他の誰でもなく、この人なんだよ。だって、万二の左目を元に戻せるのは彼女だけなんだから」
はっ? なんで、ネルが俺の左目のことを知っているんだ?
そのとき、俺の脳裏に失われていた記憶がフラッシュバックを起こした――。
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