第38話「未知とのお見合い その7」
「安食、まさか死んじまうとはな」
虎井は松葉を降ろすと、安食さんの死体に近づいた。
その時――。
「チュッミ」
猿のようなネズミのような聞いたことのない動物の鳴き声が聞こえたと思ったら、安食さんの肩から何か茶色のものが飛び出し、虎井に取りつく。
「チュミミ」
「な、なんだこいつっ!!」
大きさは手のひらに乗るくらいで、大きな赤い目に猿のような手、カンガルーのような脚。背中はコブなのか隆起し全身に毛というものは一切なく、口からは犬のような牙がのぞく。
ネルだったら、何かの怪異だと分かるかもしてないけれど、とにかく普通の動物でないことだけは確かだ。
その動物が虎井の胸元あたりに飛びつくと、凄まじい速度で服を掴み登って行く。顔まで辿り着いたところで止まる。あきらかに顔を狙っている。
「くそっ!! 離れろっ!!」
離そうと虎井が動物を掴もうと手を出すと、猿のような手で引っ掛かれ、いや引っ掻くという次元ではなく、まるで鋭利な刃物で切られたかのように虎井の手から血がほとばしる。
「うおおおおっ!! こいつっ!」
手を押さえながら跪く虎井に構わず、その変な動物は猿のような手で虎井の眼球を掴みにかかる。
豆腐のような柔らかいものに手を突っ込んでいるかのようにその手は目の中に入り込んでいく。
こうやって、松葉や安食さんの目を盗ったのか!?
「チュミミ」
「くそっ! おいっ!! やめろっ!!」
虎井は反抗の言葉を出すだけしか出来ず、その顔は恐怖に震えていた。
眼前で眼球をむしり取られるなんて経験をすれば誰だってあんな顔になるはずだ。
あきらかにヤバイ動物。編目村のアミメニシキヘビはまだちゃんといる種だったけれど、こっちはそういう常識から外れた存在だがッ! なんだか、知らないけど、幽霊じゃなさそうだし、殴ればなんとかなるだろっ!!
俺は思いっきりその変な動物に殴り掛かった。
ゴンッという確かな感触。
そして、ドサンッと虎井が地に伏した。
「チュミミ?」
その動物はとっくに逃げており、今は壁に引っ付きながら不思議そうにこちらを見ている。
「あ~、その、すまんっ!」
変な動物の代わりに俺の拳を受け、地に沈んだ虎井に謝りながら、まぁ、目をくり抜かれるよりは、全力のパンチの方がいいだろうと思い直し、すぐに罪悪感とかを覚えるよりも、いかにこの動物から逃げるか思案していると、
「お困りかな?」
飄々とした感じのギメイさんの声が聞こえてくる。
扉の所に手をつき、ふっとニヒルな笑みを浮かべている。
外に出ていた組が帰って来たのか!? それにあの表情。もしかして何か打開策でもあるんじゃ!
「帰ってきたんですかっ!? なら」
「ああ、逃げるぞ!」
「へっ?」
「ほら、そこの男を担げ」
ギメイさんは変な動物にけん制として、何か黒い粉を振りまく。
変な動物はその粉を嫌がるように飛び退き、「チュミ! チュミ!!」と威嚇する声を上げている。
「いまのうちに早く!」
虎井を抱えて部屋から出るのと同時に扉は固く閉ざされた。
「まさか、ここもこんなことになっているなんて」
言葉とは裏腹に口角は上がり、いかにもこの状況を楽しんでいますと言わんばかりだ。
リビングに移ると、ネルと川鉄さんが座っており、なぜだか全員満足気だ。
ネルに至っては一心不乱に何かを書いている。
「えっと、この状況なのに、なんで皆楽しそうなんだ?」
独り言のように言った言葉に、
「そりゃ、ネタを探す人種がネタの宝庫に出会ったらこうなるだろ」
「ネタ?」
「ああ、あんたらを連れて来た自分の目に間違いは無かったよ。なんてたって――」
ギメイさんは自分たちに何があったのかを話し始めた。
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