第33話「未知とのお見合い その2」
さて、一度状況を整理しよう。
ネルの呼びかけで、冷静になったのか件の4人は今、テーブルについている。
まずは安食さんは市の観光課で、この街を自然と妖怪でPRしたいと思っている。ロマンスグレーの渋いおじ様。
で、その隣に座る女性は、名前は『
長い髪にスラッとした体躯。けして美人とは言えないが、凛とした面持ちは不思議な魅力があり、つい目で追ってしまう。
日立さんはもちろん工事の反対派であり、安食さんと志を共にしている。
そして対面に座る2人、まずは粗野粗暴な印象を受ける社長と呼ばれた男、外の看板にもあった、虎井土建の社長で、『
虎井の隣に座るのは、部下かと思っていたら、ショッピングモールの大元、ゴールドモールの社員であった、『
で、ネルはこの中の誰に付くかという話なんだが。
「ふむふむ。なるほど。事情はわかった。まず、この地を出すのが大丈夫なのかなんだけど」
ネルは川鉄さんを恐る恐る見ると、
「物語が破綻しなければ良いですよ。ただ、今は
「あの話は、オレの予定だとあと半年で終わる予定だから、大丈夫かな多少前後しても今年中には。安食さんはそれでもオーケー?」
「ええ、半年くらいなら頑張ってみせます!」
「とはいえ、オレ、別に事業開発に明確に反対って訳でもないんだよねぇ」
「なっ!!」
ネルの爆弾のような言葉に、安食さんは思わず、顔を真っ赤にしながら席を立つ。
「どういうことですか!?」
「オレの目的は婚活だから、ここで理想の女性が見つかって、別にこの場所を離れてもいい、もしくは工事してもいいって言われれば、全然反対する意味がないからねぇ」
肩をすくめる仕草も様になる。
そんなネルの様子に、虎井はにやっと笑みを浮かべ、
「なるほどねぇ。そりゃそうだ。外から来たマンガ家先生にとっちゃ固執するもんもないし、なんだったらショッピングモールの方がいいもんなぁ! いや、先生が話の分かる相手で良かった。どっかと頭でっかちと違ってね」
明らかに安食さんと日立さんのことを言っている。
「で、先生よ。どんなタイプが理想なんだい?」
「はい! オレの理想の女性は、髪が長くて、目がクリっとしていて、それで2次元な子ですね」
「2次元? つまりアニメってことか? ブハハハハッ! そりゃいい! ここには絶対に居ない相手じゃないか!!」
「いやいや、ここには河童もうつろ船も付喪神もいるからワンチャンあると思うんだけど」
「そりゃそうだな。もし、本当に居たら、こっちだって手を引いてやるよ!」
腹を抱え、大笑いする虎井はすでに勝利を確信しているようであった。
確かに普通ならそう思うよな。
俺だって、こんな左目にならなければ虎井と同じ立場だ。
「ナナシさん、話が違います!!」
安食さんはギメイさんのペンネームを叫び、睨んでいる。
「おいおい。言いがかりはよしてくれ、自分は、うつろ船の美女は神原先生の理想の女性だから、見せてやってくれって言ったんだぜ。そうしたら協力は惜しまないって」
「それはあの絵のことでは!?」
博物館によってうつろ船という妖怪の絵が保存されているらしく、それを見せるという意味だと安食さんは取っていたみたいだ。
「自分は絵なんて一言も言ってないけど。ま、運が良ければ会えるんじゃないですかね~。神原先生は結構もってる男ですから」
ギメイさんはちらりと俺の方に視線を向けた。
「えっと、神原先生は滞在期限は1週間でしたっけ? ま、その間に見つかればいいですね。理想の相手」
「そうだね。ここは結構本命だと思ってるよ。オレは」
2人とも何か含みのありそうな顔で言い合っているのだが、その含みの部分は正直、俺には不安でしかない。
「良しっ! それなら話は簡単だ。安食さんと日立の嬢ちゃん。1週間後、神原先生が理想の女性を見つけたら、しょうがないから工事は辞めてやる。だが、そうじゃなければ大人しく工事させろ。それでいいな」
「し、しかし……」
敗色濃厚な提案に安食さんは口ごもる。しかし、ここで口を開いたのは日立さんだった。
「1週間後、神原先生がここを舞台にマンガを書くかどうかに変更してもらえるなら、わたしはその賭けに乗りましょう」
「そりゃ、同じことだろ。まぁ、嬢ちゃんが色仕掛けでもして書かせてみせるのか? この先生、女にゃ不自由してそうにないから無駄だと思うがね」
ネルの外見を見れば誰もがそう思うが、確かに不自由はしていないが、そもそも興味がないんだよなぁ。
だが、こうして、ネルがこの地を舞台にするかどうかの勝負が行われることとなってしまったのだが、婚活で来ているのに、そんなのでいいのか?
当のネル本人は特に気にした素振りも見せず、
「それじゃ、まずは博物館見せてもらっていい?」
とマイペースだ。
「それではわたしが案内しますね」
日立さんは、ニコリとほほ笑んで、ネルを先導する。
2人の仲睦まじい様子を見ていた俺は、なんだがモヤモヤとした気持ちになり、なんだろうと首を傾げるのだった。
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