第24話「冥婚の二次会 その2」

 う、うぅ。


 強烈な左目の痛みにより、休憩していると、次第に痛みが遠のいていく。


「くそっ、なんなんだ。この痛み」


 悪態をつきながら、一歩、また一歩出口に向かって歩くと、出口に向かえば向かう程痛みが和らいでいく。


 ブライダルホテルから完全に出ると、痛みはウソのように消えていた。


「なんだったんだ?」


 ブライダルホテルを見上げると、いつの間にかカラスが集まっており、白かった外観がカラスとそれが落とす影で黒く染まっていた。


 途端に不気味な印象に変わり、俺は身震いしつつもネルの待つ車へと急いだ。


「おっ、ウェルカムボードありがとう! どうだった。喜んでくれてるかな?」


「あ、ああ、たぶん。受付は驚いてた」


「そっか!」


 子供のように無邪気に笑うネル。

 あの結婚式場はかなり嫌な感じがしたが、このネルの表情を見る限り、たぶんあの嫌な感じは気のせいだろう。


 それから俺たちは結婚式が終わる時間まで近くのアウトレットモールで時間を潰す。

 まぁ、いつものことなんだが、ネルの外見に惹かれて女性たちが集まる集まる。

 

 それにしては今日はいつもより人が多い気がする。

 なんというかいつもはカップルは男の方がネルを見せないようにしたりするんだが、今日は男の方も見に来てないか?


「なぁ、ネル。今日は人が多くないか?」


「ふっふっふ。どうやら世間がお前の時代に追いついたようだぞ。今日は万二がいるからな。男からの熱視線はだいたいお前にだぞ」


 はぁ!? おれぇ!!


「いや、なんで、男が俺を見るんだよ」


「お前は自覚してないかもしれないが、その体格は男からすると憧れるところがあるんだぜ。それに見目も男から見ると渋くてカッコイイんだぜ」


 そう、なのか? 女性からの人気はいまいちなんだけど。


「万二も婚活したらどうだ? お前ならすぐに良い子見つかるって」


「え、ええ、いや、婚活は、するとしたら一人で自分のタイミングでするわ」


 ネルと一緒の婚活は絶対に嫌だっ!!


 そんなこんなで、ほとんど人波を避けるのに時間を喰ってあまり店を見れないうちに二次会開始の時間になった。


 ブルマンウエディングはブライダルホテルでは珍しく二次会も1Fのカフェレストランで行えるようになっている。

 大人数の移動をしないで済むというのがウリになっているらしい。

 確かに、その方が便利だな。


 俺たちは再び戻ると、入口にギメイさんが立っており手招きする。


「ああ、ナナシさんでしたっけ。今日はどうも」


 ナナシ? もしかしてギメイさんの偽名か? ネルにはナナシって言ってたのか。


「神原先生よろしくお願いします。ナナシはオカルト雑誌のときのペンネームで本名は円城寺って言うんですよ。今日はそれでお願いします」


 さっと手を差し出し握手を求めて来る。


「なるほど。了解。円城寺さんだね」


 ネルも手を差し出し握手を交わす。


「それで、今日は、あの約束は?」


「ええ、もちろん。大丈夫ですよ。任せておいてください」


 ニヤリとあくどい笑いを浮かべていた。


 ……な、なんか、めっちゃ嫌な予感がするんだけど。

 背筋がゾクリと寒くなる。


               ※


 1Fのカフェレストランの裏に通された俺たち。

 ネルがいることは秘密で、サプライズゲストとして出てくる予定だから、これは仕方ない。


「なぁ、万二、みんなの様子ってどんな感じ?」


 間違ってもネルが見つかってはいけないから、店内の様子は俺が伺う。


 カフェレストランと言われているだけあって、カウンター席が4席。

 そこに受付にいた女性が書類やらお金やらを広げている。

 本来の入り口にも、受付にいた女性の一人が。

 他には4人掛けテーブル席がいくつか。

 総勢40人くらいは入れそうであった。

 だが、そんな中、異様な卓が1席あった。

 4人全てが女性。そこまでは普通なんだ。そこまでは。

 ただ、その女性が全員、いや、全部が人形で出来ていた。


 そして、それを誰も気にすることなく、あまつさえ、ソフトドリンクまで目の前に運ばれている。

 完全に人扱いされていると言っても良い。


 幽霊とかそういうのではないけれど、この異様さは素直に恐ろしい。


 もう、その異様な人形以外、目に入らず、まじまじと見てしまう。

 その人形4体は全て様相が異なっており、1体は、まるでぬいぐるみのよう。目はボタンで出来ているし、髪の毛も毛糸で出来ている。

 もう1体はかなりリアルなマネキンのような人形だ。これだけ実は人なのではないかと思ったくらい精巧に出来ている。髪の毛も実は人毛ですと言われても信じてしまうくらいだ。

 次の1体は市松人形をデカくしたような感じで、こいつだけ、上手く座っておらず、椅子の上に直立している。

 普通に床に立たせておけよと思ってしまい、そのシュールな光景は恐怖よりギリギリ笑いを誘う。


 そして、最後の1体。

 美少女フィギュアだ。今にも巨大な胸が溢れ出しそうなキワドいフリフリの衣装にピンクの髪が腰まで伸びている。


 違和感が酷すぎるっ!!

 しかも、これ、確実にネルの仕業だろぉ!!


 婚活か!? これも婚活なのか!!


 また、俺を騙して、こんな婚活に連れてきたなっ!!


 バッと後ろを振り返ると、怒られると分かったのかネルはすでに姿を消していた。


 おぉい!! こんな婚活に連れてくるなっ!!

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