第23話「冥婚の二次会 その1」
俺はウェルカムボードを車に積み込み、ネルを乗せると車を走らせた。
「で、目的地はどこなんだ?」
「ナビには入れてあるけど、ブルマンウエディングってとこ」
ブルマンウエディングか初めて聞くな。
俺の知ってるところなんて先輩とか同級生が結婚式挙げたところくらいだから知らない場所があっても不思議じゃないけど。
ただ、知らないってことはナビに頼るしかないってことだな。
俺はナビの声に従って目的地まで。
「おー、ここだ。ここ」
真っ白なお城のようなブライダルホテル。
外観はまったく問題なく、先輩とか同級生とかが挙式を挙げたようなところと変わらない。
備え付けの駐車場に入れようとすると、親族以外は少し遠い第2駐車場に停めるよう係員から言われるのも良くあることだった。
「あ~、その、万二。すげー言いづらいんだけど」
ネルが口ごもる。俺はまた何か霊的な嫌な事実が発覚するのではと身構えていると。
「オレが今日来ることって内緒なんだ。つまりサプライズ。だから、ウェルカムボード持って中に入るのはリスクが高くて。いや、まさか、こんな遠くに通されるとは思ってなくて、すまん」
「へっ? ああ、別にそれくらい良いぞ。いや、もう、ほんと全然大丈夫だから。100メートルくらいだろ? 普通に60キロくらいの人を抱えて歩くくらいの距離だし、たかが2メートルのパネルくらい大したことないって」
俺はパネルをひょいと車から出して担ぐと、ネルを残してブライダルホテルへと向かった。
パネル運びを一人でやれって程度なら全然オーケーだ。むしろ、それであんな申し訳なさそうにするくらいなら、今まででよっぽど謝ることがあったと思うんだよな。
そのまま100メートル程度の道のりを歩き、ブライダルホテルの中へ。
ホテルと名の付く通り、広い廊下を進むとエントランスに受付カウンター。
俺は一度パネルを置いてから受付の女性に声を掛けた。
「すみません。えっと、
「朝烏様の会場ですか? どういったご入用で?」
「ああ、このパネルを神原ネルの代わりに届けにきたのだけど」
「配送の方ですか。でしたら2Fが式場になっております。ただし、何があってもモノ扱いはしないでくださいね」
モノ扱い? いったい何のことだ?
もしかして、新郎新婦はネルの熱狂的なファンなのか?
それならパネルもモノみたいな扱いじゃなくて丁寧に扱えってことか!
確かに、自分の好きな作品が雑に扱われたらいい気はしないよな。
俺は先ほどより一層慎重にパネルを持つと2Fへと上がった。
2Fには会場の前にテーブルが2脚並び、受付として2名の女性が立っていた。
「すみません。これ、ウェルカムボードです」
俺は受付の2人に渡すと、その表情が驚きに包まれるのを多少の優越感を持って眺めた。
さすがに新郎新婦がファンの作品のウェルカムボードが来たら驚くよな。
「ありがとうございます。あの、大変お手数ですが、そちらに飾り付けて頂いても……」
確かに女性の手にはあまるかもしれない。
俺は言われるがままに設置していると、ふいに肩を叩かれた。
誰だろうと思いながら、振り向くと、そこには、見知った顔。
いや、正確には俺だけが一方的に顔を知っている相手。山田太郎がそこにいた。
山田太郎は灰色のスーツに身を包み、薄い青色のシャツを着こんでいる。
前回は面で視界が狭かったこともあり、あまりはっきりと見れなかったがよくよく見るとこの山田太郎もそれなりにイケメンだ。いや、ネルには圧倒的に敵わないけど、それでも整った顔立ちで女性には不自由しなさそうな雰囲気がある。
いわゆる雰囲気イケメンって奴だな。
「その感じは、あんたがあのときの神原さんの替え玉かな」
「あ、ああ。そうだけど。なんで、山田さんがここに?」
「今日結婚するのが、自分の先輩でね。折角の祝いの席だから、あの婚活で得た人脈を生かさないとなと思ってね。人気マンガ家のウェルカムボードなんて気が利いてるだろ」
不敵な笑みを見せる山田太郎。なんか信用できないんだよな。
「そうそう。それと山田太郎は偽名だから、あんな怪しい婚活に本名で参加は正気を疑うだろ。で、今はこっち」
山田さんが新たに出してきた名刺には、『
「……これって」
えんじょうじ、ぎめい と読める。つまり、「炎上時偽名」ってことか。
明らかにあの編目村のことをこすった偽名にしてきている。
大方、先輩の結婚式っていうのも嘘なのではないかな。
「それじゃ、二次会で。しっかり驚かせてくれよ」
山田さん改め円城寺さんは手をひらひらとさせながら式場へと入って行った。
いちいち名前変わるのも覚えづらいし、ギメイさんでいいや。
俺はネルとギメイさんが揃っていることにかなりの不安を覚えながら、式が終わるまで、ネルとどこで時間を潰そうかと考えながら歩いていると、台車を押した係員とすれ違った瞬間。不意に左目に痛みが走った。
「痛っ! 最近、痛まなかったから、油断した」
左目を押さえ、痛みに耐えながら、身体を壁に預けた。
少し休んだらネルのところへ戻ろうと思いながら。
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