第8話「メリーさんの電話 その2」

「痛てて……」


 おでこを押さえるネルは、さも当然のことのように事の顛末を語る。


「掃除するとさ、どこにしまってあったか分からなくなった本とか出てくるじゃん。そうしたら読むしかないじゃないか。また仕舞うと場所が分からなくなるかもしれないし」


「うん。俺もテスト前とかそうだから気持ちは分かる。だけど、今回はテストじゃなくて、俺らの命が掛かってるんだぞっ!! もう少し真剣に探せっ!!」


 もう1発デコピン行くかと、指のウオーミングアップをする。


「待って、待って、そんな物理技2発も喰らったら死んでしまう!! それより、メリーちゃんが近くに来てるんだ。今のまま会う訳にはいかない。オレの秘策の為の準備に少し付き合ってくれ!」


「なんで!?」


「いや、ここに居てもいいけど、そうすると、メリーちゃんに鉢合わせになるけど?」


 そうだった!!

 くそ、選択肢ないじゃないか!!


 俺たちはすぐにマンションを離れると、ネルの車、ドライブ号に乗り込んだ。

 マンションを降りたときに会うのではないかと懸念したが、とくにそんなことはなく、一安心ではあった。


 ――ヴヴヴヴヴッ!


「わたし、メリー。いま、マンションの13階にいるの」


 危機一髪だった。


                 ※


 

「おい。どういうことだ」


 翌日、なぜかファンシーな女性服売り場に野郎二人で熱心に洋服を見ている。


「これなんて可愛いと思うんだけど。どうかな?」


 ネルが手に持つのはピンクのフリフリのついたドレスみたいな洋服。

 甘ロリとかと言うらしい。

 なんというかキラキラとした国宝級アイドルみたいなネルがそれを持っているのはあまり変な感じはしないが、それをゴツイ俺に見せてくるというのが……。て、店員さんの視線が痛い。

 

「で、その服とかとメリーさんを回避する方法、どう繋がるんだ?」


「まぁ、まぁ、それはあとでのお楽しみ。あ、これもいいね!」


 そう言ってネルは買い物を続け、5着ほど服を買い、さらには靴やアクセサリーも同時に購入。その荷物はなぜか俺が持つことに。

 これでようやく終わりかと思ったら、次はケーキを買ったり、あまいクッキーや猫の形のドーナツなど、まるでこれからパーティでもしようかというラインナップ。

 これ、もしかして、本当にパーティするのでは?

 しかもネルのことだからメリーさん込みで。


 ――ヴヴヴヴヴヴッ!


「わたし、メリー。今、デパートのおもちゃ売り場に居るの」


 微妙に自分が行きたいところ行ってないか?


                ※


 メリーさんの追跡をかわしながら、再びネルのマンションへ。


 パーティをするのではないかという、そんな俺の予想は見事に当たり、大量の荷物を持って、ネルのマンションに戻ると、クローゼットから、折り紙を輪っかにした飾りつけが出るわ出るわ。さらに『ようこそ』と書かれた看板まで。完全に歓迎ムードだ。

 

「あ、万二ばんじ飾りつけも手伝ってくれ!」


 折り紙の輪っかと椅子を渡された俺は、しぶしぶと飾りつけを始める。


「本当にこれで、メリーさんを惚れさせられるのか? どう見てもただの子供のお誕生日会だぞ」


「まぁ、落ち着いて飾りつけをしてくれ。もうここまで来たらお前も引き返せないだろうし、オレの策を伝えるぞ。オレの調べではメリーさんはまだ人形を可愛がる子供だ。いや、これは精神年齢的な話だぞ。決して犯罪とかそういうのじゃないからな」


「分かってるから、続けろよ」


「こほんっ。そこで、メリーさんのストーリーを考えてみた。彼女は大切にしていた人形を捨てられた。つまり、メリーちゃん壮絶なイジメを受けていて、大切な人形を捨てられてしまった……、かもしれない。そこでオレが最大限祝って甘やかしてあげれば、その目には涙が。涙で標準が整わないところを万二が取り押さえ、そこからオレが告白する。そうなればオレは限りなく二次元に近いメリーちゃんと結婚できるし、呪い殺されもしない! どうだ完璧な作戦だろうっ!」


 確か、バカって死なないと治らないんだっけ。いや、死んでも治らないんだったな。

 これは完璧にまずい。かと言って今から人形を見つけるのも無理だろう。

 ということは、もうネルの作戦が上手く行くことを祈るしかないのか。

 親友が死ぬかもしれないのに、何も出来ないのか……。


 一時間かけて、パーティの準備を整えた俺たちはそのまま、ネルのマンションで待ち構えると、


 ――ヴヴヴヴヴヴヴッ!


 着信から、メリーさんの声。


「わたし、メリーさん。いまマンションにいるの」


「わたし、メリーさん。いまマンションの2階にいるの」


「わたし、メリーさん。いまマンションの3階にいるの」


「わたし、メリーさん。いまマンションの4階にいるの」



 だんだんと近づくと、ネルは慌て始める。


「やばい、着替えてない。こんな格好じゃメリーちゃんに嫌われてしまう」


「わたし、メリーさん。いまマンションの5階にいるの」


 ネルは服を勢いよく脱ぐ。

 スレンダーな肉体が露わになる。


「わたし、メリーさん。いまマンションの6階にいるの」


 Yシャツを着て、ボタンを閉める。


「わたし、メリーさん。いまマンションの7階にいるの」


 スーツのズボンにベルトを通し、細い足に通す。


「わたし、メリーさん。いまマンションの8階にいるの」


 柄物の靴下を履く。


「わたし、メリーさん。いまマンションの9階にいるの」


 スーツのジャケットに袖を通し、鏡で確認。


「わたし、メリーさん。いまマンションの10階にいるの」


 髭のそり忘れに気づき、急いでカミソリを当てる。


「わたし、メリーさん。いまマンションの11階にいるの」


 髪を整える。


「わたし、メリーさん。いまマンションの13階にいるの」


 完璧なイケメンの完成だ。

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