第7話「メリーさんの電話 その1」
「人形。人形を探すにしてもノーヒントは無理だろう。いったいどこを探せば?」
「安心しろ。オレが聞いた話では、人形は電話した本人の身近なところにあるらしい」
「ほんとかよ? ネルとしては会いたいんだから人形は見つからないほうがいいんじゃないのか?」
「ふっ、甘いな。万二、お前はまだオレという男を分かっていない」
まじで本当にわからんっ! そもそも分かっていたらこんな目に合っていないだろう。
「人形も見つけるし、口説きもする! むしろ人形を見つけているほうが好感度あがってそうじゃないかっ!!」
「…………」
もはや、なんも言えねぇ。
「とにかく、まずはオレの家から探してみよう!」
そうして俺たちはネルの住むマンションへと移動する。
15階建ての夜景が素敵なマンションの13階の4号室がネルの部屋になっており、豪華なエントランスをカードキーで通り、エレベーターに乗って13Fへ登る。
『勝ち組』そんな3文字が頭をよぎりつつ、ネルの部屋へ入ると、速攻で頭を抱えた。
「いや、俺もそこそこに理解だけはある方だと思ってるんだが、これは流石に……」
確かにゴミは少ない。普通にゴミ箱に入っているくらいだし、流しに食器が溜まっていることもない。
だけど、本、本、本!! 紙、紙、紙!!
右を見れば漫画本。左を見れば図鑑や文献。足元には何かの資料と思しき紙の束が散乱している。
「お前、よくここで生活できるな」
「ああ、家具がベッドと机しかないからな。寝て起きて、漫画書いてしかしないし」
「食事もすんだろ?」
ネルは女性なら100人中100人恋に落ちるようなキメ顔でこう言った。
「知ってるか。マンガ家はファミレスだと仕事が捗るんだ」
つまり、食事は外食で済ませているってことか。
流しがキレイなのも、ゴミがほとんどないのも納得だ。
「むしろ、ここまで雑多だと、どこかに人形があったりしそうじゃないか」
ガサガサと紙の束を搔き分け探すネルだが、俺から見ると逆に散らかしているようにしか見えない。
「待て待て、ちゃんと片づけながら探そう」
「オーケー。それじゃ分担だ。オレはあっちのリビングを担当。万二はそれ以外」
完全に俺の担当の方が多いが、仕方ない。
メリーさんからの電話が来る前に急がないと。
――ヴヴヴッ!
そのとき、着信を知らせるバイブレーションがネルの携帯から鳴り響く。
「はいはーい。愛しの神原ネルでーす! メリーちゃん、どうしたの?」
ああ、うん、電話の出方も常軌を逸してるわ。
「わたし、メリー。いま、アパート純にいるわ」
アパート純って俺の住んでるアパートじゃないか!
確実に追って来ているじゃねぇか!!
「そっか、ごめんね。いま、オレ家に帰って来ちゃった。それにもう少ししたら、また出かけるかもしれないから、しばらく、そのアパートで休んでてよ。今度はこっちから電話するね」
「おい、待てコラ! なんで俺の家にメリーさんを入れるんだ。帰れないだろうが!!」
ネルは心底、心外そうな表情を見せる。
「え? 金髪の合法ロリが家にいるのが嬉しくないだとっ!?」
「なんだよ、合法ロリって」
「小さい女の子に見えるけど、実際の年齢は成人している子のことだが?」
そんな常識だろみたいに言われても、知るかっ!
「でも、メリーちゃんのことだから大人しく待っててくれないと思うんだよね。お転婆さんだし」
あのメリーさんにお転婆とかって言えるのたぶん世界広しと言えどもお前だけだぞ!
だが、ネルの言うことも一理ある。
ここに来られるより早く人形を見つけよう!!
さっそく俺は人形を探す為、ネルの部屋を片づけ始めた。
数十分後。
――ヴヴヴヴッ
「わたし、メリー。今、マンション四十万にいるの」
やばいぞ。もうすぐ近くに!
ふと、親友に目をやると、なぜか漫画を読み漁っていた。
「ネル。人形は?」
「いや、まだ見つからないね~。あ、ちょっと待って今、いいところだから」
「……ネルさんよぉ。ちょっと話合おうか?」
「ゆ、指をパキパキさせるのを止めてもらっても……」
端正な顔を歪めながら、床を這うネルに強烈なデコピンを見舞った。
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