【マッチング2】 呪いのビデオの縺九@縺セ繧後>縺

第6話「電話でマッチングしました」

 目の前には、なぜかスピーカーモードにした携帯が、テーブルの上にちょこんと置かれている。

 最新モデルのその携帯には見覚えがあり、我が友人の神原ネルが写真がめちゃくちゃキレイに撮れるからと言って最近購入したものだ。

 それ自体は別に構わないのだが、なぜ俺の部屋に?

 いつの間にかネルが入って来たのか?


 ――ヴヴヴヴッ!!


「おわっ! ビックリした!! 痛ってー!!」


 いきなり震えだした携帯に驚き、強かにテーブルに足をぶつけた。


「おい、ネル。これってなんだよ? 電話来てるぞっ!」


 どうやってか知らないが俺の家に入り込んだであろうネルを呼び出す為、声を上げる。だが、いくら呼んでもネルからの返事はない。


 仕方なく、そのまま放置していると、プツッと勝手に電話が取られた。

 電話口では、相手が何やら、「ぼそぼそ」っと言っているが聞こえず、やはりネルの電話に出るのも気が引けるので放置していると、今度は勝手にスピーカーモードになる。


「わたし、メリー。どうして電話に出てくれないの? わたし、メリー。いま、ゴミ捨て場に――」


 ふっざけんな!! 無理無理ムリムリむりむり!!


 俺はアパートの窓を開けると全力で外に放り投げた。


「あああっ!! あああっ!!」


 消毒液のスプレーを手にがびしょびしょになるまでかけ、それから洗面所に行き、石けんで荒々しく洗う。

 順番が逆だろうとなんだろうと構うものか!!

 それから、お祓いだ! お祓い!!

 食卓塩を手に振りかけ、今年の初めにネルから貰ったはずのお守りに手を合わせる。


「南無大慈大悲観世音菩薩」


 昔何かで見たお経を唱えていると、


 ――ピンポン、ピンポン、ピンポン!


 何度もチャイムが鳴る。

 驚きと共に、このチャイムの鳴らし方はネルだと若干の安堵もあり、すぐに扉を開ける。


「よぉ! 万二、聞いてくれ、すごいんだ!!」


 そこには、今日も今日とて絶好調のイケメンが佇む。

 もちろん、神原ネルだ。


「いま、それどころじゃないんだが」


「まぁ、まぁ、そう言わずに」


 すると、ネルは先ほど俺が投げたはずの携帯を見せびらかすように掲げると、こんなことを言いやがった。


「メリーさんの電話って怪しげな電話番号があってさ。掛けたらホンモノだったみたいなんだよね。今も試しにお前の部屋に郵便受けから携帯投げ入れて外で様子見てたんだけど、無事、オレのところに飛んで戻ってきたんだ」


「お、おま、お前の所為かよっ!!」


 俺の怒りなんてつゆ知らず、ネルは無遠慮にアパートの中に入ると、勝手知ったる我が家のようにお茶を入れてテーブルで飲み始める。


「万二の分も入れたから、お茶でも飲みながら、ことの経緯を説明させてくれ」


 何はともより、説明はきちんとしてもらわねば。

 俺もテーブルにつこうとした瞬間、俺の携帯から、


 ――ヴヴヴッ!


 再び着信を告げるバイブレーションが聞こえ、俺は自分の携帯を思いっきり投げてから、全速力で後ずさる。すると、グエッというカエルの断末魔みたいな声が聞こえ、さらに驚き、最終的には部屋の角の壁を登って、あと少しで天井という所まで逃げていた。しかも、完全に無意識だったのだが、ネルの首襟を掴みながらそんな行動を取っていたようで、ネルは足をバタつかせ抗議していた。


「ケホッ。まさか、メリーさんに殺されるより先に親友に殺されかけるとは思わなかった」


 ネルは美術品のように程よく血管が浮き出た首筋を撫でる。

 本来なら、そんな何気ない動作ひとつ見惚れる程ネルは美形なのだが、今はそんなことより。


「メリーさんって言ったか? もしかして、あの、昔流行った?」


 あれはまだ俺たちが小学生くらいの時期だったか、メリーさんの電話というのが流行ったな。

 確か、内容は、メリーさんに電話すると最初は、メリーさんが今はまっていること、嬉しかったことなどの他愛のないことを話す。それでずっと聞いていると、報告したいことと言うのを話しはじめ、人形を捨てられたと言いだす。

 で、まずは捨てられたゴミ捨て場を探すって言うんだったっけな。で、さっきの電話と同じように、ゴミ捨て場に居る。次に「人形が見つからない。お前が隠したんだろっ!」って言われるんだったな。そのあとはだんだんと今、俺がいるところに近づいてきて、最後には、「いま、あなたのうしろにいるの」って肉声が聞こえるところでこの怪談は終わりだったな。


「そう言えば、あれって、うしろに居たあとはどうなるんだ?」


「それは色々パターンがあるけれど、振り返ると死ぬ。とか、包丁を持ったメリーさんに刺される。とかだったな」


 回避方法もあったはずだが……。

 ダメだ。怖すぎて当時全然聞いてなかったっ!


 ――ヴヴヴッ!


 その間も、俺の携帯は鳴り響く。

 本当にイヤなんだが、携帯を拾って画面を見ると、『メリー』と番号を登録した覚えもないのに名前が表示される。

 元の仕事先関連と家族、ネル、以外での最初の登録がメリーさんとか悲し過ぎるだろ。


「これ、出ないと何かあったっけ?」


「いや、勝手に通話モードになるし、スピーカーで勝手に聞かされる。都市伝説によっては、別の媒体から声が流れるパターンもあったね」


 そのうち、先ほどのネルの携帯と同じで勝手に通話中になり、


「わたしメリー。人形が見つからないの……。お前が隠したんだろっ!!」


 急にくぐもった声になり、それだけ言うとプツッと電話が切れる。


「……なんで俺まで巻き込まれてるんだよ!! ネルだろ、電話かけたのっ!! 俺、無理矢理聞かされただけじゃん」


「まぁまぁ、そう言うなって、お前だって将来のオレのお嫁さんに会うの楽しみだろ?」


「全然っ!!」


 これ以上ないほどの力強さで否定した。


「というか、これ、婚活かよっ!! お前、またこんな婚活をっ!! ちゃんと回避する方法とか知ってるんだよな! 確か、何かあっただろ?」

 

 俺は流石にネルなら知っているだろうと思って声をかける。というか知らなきゃ、マジで怒るぞ。


「もちろん。回避方法は2つ。1つは何があっても振り返らない事だけど、この方法が成功したって話は聞かないな。あの手、この手で振り返らそうとするらしい。2つ目は、人形を見つけることらしいけど、まず見つからないらしいな」


「それ、回避方法ないじゃんっ!!」


「あの手、この手か。耳と目が無ければ、だいたいの誘惑は聞かないし、いけるのでは?」


 元より左目は見えないから未練はなしっ!!

 親指に力を入れて突き立てる。


「待て待て。両目潰す気かよ! 落ち着けって大丈夫だ。我に秘策あり!」


 ネルは胸を張ってニカッと輝かしい笑みを浮かべる。


「人形を探す秘策でもあるのか?」


 さっき見つからないって言っていたじゃないか! いったいどうやって?

 い、いや、諦めたらそこで俺もこの親友も死ぬことにな――。


「いや、そもそもお前、友達か? こんなもん聞かせやがって!! 別に俺の部屋じゃなくても携帯戻って来るか検証するの良かっただろ!」


「ああ、それについては謝るよ。だが、そこは秘策のひとつさ。たぶん、メリーさんは振り返ると、包丁で襲ってくると思うんだ。だから、そこをお前が取り押さえて、その間にオレが口説く!」


「秘策って、もしかしてメリーさんをお前に惚れさせるってことか!?」


「おっ、察しがいいな。流石、親友!」


 晴れやかなネルに対し、俺は後悔とか恐怖とか色んな感情ごちゃまぜで頭を抱えながら大きなため息をついた。


 メリーさんで婚活って、いや、百歩譲ってそれは良いとして、でも、そんな婚活に俺を巻き込むなっ!!


 あまりの衝撃的な展開の連続にすっかり息が上がる。

 スーハー、スーハーと息を整えるのにたっぷり5分使用し、心なしか落ち着いたところで状況の整理を試みる。


 現在、メリーさんはどこかのゴミ捨て場にいる。そして、どれくらい時間をかけてここまでやってくるか分からないが、徐々に近づいてくる。それまでに人形を見つけないといけないんだったな。

 ネルの秘策には期待できないし。俺がなんとかしなくては!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る