第九章

 冬至祭り。皆が祝いに明け暮れる中……ザックは夜になっても必死に鍛錬にいそしむ。もう学生がほぼ居ない状況で一人必死に地下の学級で鍛錬に明け暮れていた。ザックは訓練用の自動人形と戦っていた。傷だらけだ。訓練用と言っても強度はほぼ実践並みに上げていた。命の危険が伴う行為で禁止されている。


 「何をそこまで……君を探しに……探したよ」


 面頬を取るとエリックだった。


 「俺の進路は『放浪の騎士』だからな。聞こえはいいが要は傭兵だ。学校側は必死に止めているが。そんな進路を取るのであれば院に行ってくれと」


 「なぜ、自分で傷つけるような」


 「これを見てくれ」


 そういって傷だらけの体を見せる。


 「俺は親に虐待された。親だけじゃない。兄妹からもだ。そんな境遇を必死で守ろうとした。だから相手は四人がかり。母は見て見ぬふり。とうとう怒りに支配された俺は……兄妹を半殺しにしてしまった。それでこの学院に放り込まれた。それ以来……人生などどうでもよくなった」


 エリックは真顔で聞いてる。


 「お前ぐらいなもんだ。心から許せる友は。だから言う。死に場所を求めて戦ってるだけだ」


 「それは……僕もだよ」


 エリックは服を脱ぐと傷だらけの体を見せた。


 「僕は変わった子で毎日魔導書を読み明け暮れる日々だった。やがて両親から忌み子として嫌われるようになった。『なぜ普通の生活が出来ない?』と言われて……このざまだ」


 ザックも黙ってしまった。


 「だから僕は眠るようにして死にたいと願うようになった。僕の進路だって小さい魔導店の勤務だ。貴族の道には程遠い。そうそう。君と同じように僕は院への進学を勧められたよ。でも断った」


 「なんでだよ。お前ほどの実力者なら……」


 「眠るようにして死ねる薬が魔導店にはあるからだ」


 「やめてくれ……」


 そう言ってザックはエリックを抱いた。


 「矛盾してるかもしれんが……俺は……お前だけが心を許せる存在だ。だから死なないでくれ」


 「それは偽りのない言葉……だよね?」


 「ああ」


 「じゃあ、言葉じゃなくて行動で証明してくれ。傭兵に行くのはやめてくれ。二駅先にホテルがある。そこのホテルの予約を明日取るからそこで本当の愛を誓ってくれ。そうすれば魔導店なんて行かない。そうだな……一緒に店を開こう。エスリーンから身に着けた魔導技術が最先端であるうちに」


 ――背徳の道だよ。ばれたらただじゃ済まない。異端審問で殺されるよ


 エリックの小声がそれを証明していた。


 「返事は明日待ってる」


 そう言ってエリックは服を着こみ面頬を付けて去っていった。

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