第三話

 「出来たじゃない」


 ダンスが出来た。エスリーンだって出来たのである。昼寝して早めに起きて地下の銀狼級の教室で特訓したのだ。十日もかかった。


 「初歩的なダンスだけど、これで十分よ。あとは私がエスコートしてあげる。高得点とはとてもいかないけどこれで留年や中退は避けられると思うわ」


 「えっ……ありがとう」


 「さっ、もう一回。ヒキコモリ同士のダンスよ」


 音楽が無いのにすっと二人は動く。


 そして踊り終えるとマリアンヌはそっとエスリーンを抱く。エスリーンは何も言わない。


 「大事な友人だもん、あなたには絶対に恥をかかせない」


 その言葉に手を握り締めるエスリーン。だめと思いつつも踏み越えてはいけない一線を越えた気がする。


 「ありがとう。これで私、留年しなくて済むわ」


 「当日に着るドレスはお持ちで?」


 「ええ、城下町で買って来たわ。今の私給料もらってる身分ですもの」


 「当日、楽しみね」


 「ええ」


 「さ、汗もかいたしお茶にしましょう」


 マリアンヌはいつも用意してくる。氷入りのレモンティーだ。そしてレモンタルト。


 「レモンづくしだね!」


 「おいしい?」


 「うん!」


 エスリーンに笑顔が戻った。


 二人は机に寝そべる。


 (いつまでもこの時間が続けばいいのに)


 「大丈夫だよ……」


 マリアンヌの言葉がうれしい。


◆◇◆◇


 舞踏会の前に学生会長を決める。民主主義教育の一環だ。なんと他学年も入れた最多投票数はかの天才少年アドルフである。


 八歳にして毅然な態度を取ってこういう。


 「公約通り生協を導入します」


 生協、つまり学生生活協同組合を作るというのだ。大拍手である。


 食堂は教育の一環(調理教育)があるので無理だが購買部が生協となった。共済費を払うことで格安の茶葉や武具を揃えられる。保険にも入れる。寮で万が一失火しても火災保険が下りるのだ。無事であることに越したことはないが。


 「それでは次は舞踏会です。夜まで学生は待機するように。教授陣が採点します。基準点に満たないものは留年や中退もありえる。準備するように」


 (この時がとうとう来てしまった!!)


 エスリーンが震える。


 「大丈夫、私を信じて」


 マリアンヌが声をかける。本当にこの子、私の心まで読めるんだわ。


◆◇◆◇


 「我々教授陣が審査員となる」


 聖女が宣言する。


 「あまりにも出来が悪い場合は宣言通り中退・留年がありうる。この日のために練習してきたことを願う」


 副校長も宣言する。


 「エスリーン、行きましょう」


 「ええ、マリアンヌ」


 音楽が鳴り始まると二人は踊りだす。周りは驚く。エスリーンは下手すると中退ではという声や、教師なのに出るんだねと言った驚きの声が出る。


 音楽が鳴り終わった。


 「そこまで!」


 副校長が止めに入った。


 「幸いにも今年は中退や留年者は出なかった」


 この言葉に全員が安堵や喜びの声で沸き返る。


 「これより特別賞授与となる人物の審査に入る。特別賞授与者は後期の学費が免除となる」


 しばらくしてクラウドが出た。


 「結果を発表する。特別賞受賞者はゾフィー」


 双鷲級の全員が大喜びする。


 義務を終えた二人は夜会を後にした。


 「これより夜会は終了とする!」


 エスリーンとマリアンヌは秘密学級銀狼級の教室に入った。


 「おめでとう、エスリーン!」


 「ええ、私、留年も中退もせずに済んだわ!」


 そう「舞踏会選考」は必ず男女とだけ踊るようにとはどこにも書いてない。そこを突いたのだ。


 「それにしても、綺麗。エスリーン」


 「え、そんな。マリアンヌこそ」


 「今度こそ遠慮なしに踊ろう。審査なしで二人だけの踊りを」


 「ええ」


 二人は真の踊りをここで踊った。

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