第二話

 「なんですって……」


 それはエスリーンの声だった。思わず面頬をかぶっての声だった。銀狼級の授業のさなかだった。大事な大事な軍事技術「レーダー」の原理をエスリーンが教えた後に聖女様の言葉に反応し、防御反応を起こしたのだ。


 「ですから夜会。夜会します」


 「嫌です。私先生だし」


 「残念ねえ、先生も参加するのよ?」


 「夜会どころか学生自治会の投票もあるぞ。教授には投票権ないがね」


 嬉しそうに副校長のクラウドが言う。


 「うそだー!」


 それはヒキコモリにとって最大の地獄。夜会(やかい)。しかも晩餐会ではない。なんと舞踏会なのだ。エスリーンが婚約破棄を言い渡された夜会は晩餐会。そう、この学園は年二回の夜会があるのだ。今度の夜会は舞踏会である。


 「うそだーっ!!」


 そのままなんと授業を飛び出したエスリーン。

 

 「やれやれ。相当なトラウマだぜ。先生、エスリーンは病欠にするべきでは?」


 ザックは思わず聖女様に言った。


 「あなた、何のためにこの学校に来たと思ってるの。ここは単に学識を身に着ける予備校じゃないのですよ。もっとも最近はエスリーンのせいで勘違いする子が多いけど」


 「ねえ、聖女様。ダンスって女性同士の舞踏は大丈夫なのかしら?」


 マリアンヌが質問する。


 「するわよ? でも本番は男女同士ね。なにそんな常識を聞いてるの?」


 「あ、いいえ……ちょっと見てきます」


◆◇◆◇


 面頬を外して地下で泣くエスリーン。その声に思わず呼びかけるものが居た。


 「私がお相手してあげる。この氷魔が」


 その声は悪魔的誘惑と氷の声が混じっていた。面頬を外すマリアンヌ。


 「私の傷を癒してくれたんだもん。今度はあなたの傷を癒してあげる」


 「本気……?」


 「ええ、本気よ。でも舞踏を身に着ける覚悟はある? それで私の事嫌いにならないでほしいの」


 「うん……」


 二人は教室に戻った。


 「あのね、エスリーン。ここはよき貴族を育てる学校なの。社交も出来ない貴族は貴族失格なのよ? つまりこの単位落としたらあなた留年や中退になるのよ?」


 (ええ!?)


 「私、踊ります」


 クラスが一斉に驚いた。

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