第一話
庭園の昼休みの庭園で二人はお茶会をしていた。
――ギルバートさん、私はこの国に来て価値観が揺らいでます。というか変化しました
――私もだ
小声で話す二人。聞かれてはいけない内容のようだ。
――本当にゾフィー様のやってることは正しいのでしょうか?
――分からん、イザベラ
難しそうな顔をする。
――私の常識を超えるようなことがたった半年で起きて見ろ。どう評価していいかわからん。ただ言えることは自国の領地にも農奴解放運動が起きたり、連盟諸国に逃げ出す農奴が多いということだ。鎮圧に乗り出してるが正直自分のしてることがいいこととは思わん
――私もです……ギルバート
――それとクレアの事だよ。彼女、このクラスのままでいいんだろうか
――分からないわ……
――彼女の事を考えると金鉾級か青獅子級に移してやりたいぐらいだ
――そうですよね
――でもな、国家に反逆することはみとめられてないんだ。彼女を移してやりたくでも出来ない。ましてサハは石炭が豊富な場所だ
そう言ってギルバートは静かに紅茶を飲む。
――このまま事態を放置すれば大戦争が起きるだろう
――ですよね……
――このままだと、学友と戦うことになる
――そんな……
――そこで秘密裏に万が一の事態に発展したら彼女だけ金鉾級か青獅子級に移すんだ
――人間としての、良心が痛むからですね
――そうだ
「この話、内密にしろよ」
鐘が鳴る。次の授業が始まる合図だ。
◆◇◆◇
そのころエスリーンは「電動フォークリフト」の講義をしていた。貨物列車から荷物を降ろすとき結局人手に頼ってるようではいざというとき困るからだ。このファンタジー世界では鉄道よりも竜や天馬の方が早い。しかし何度も言うように大量輸送・大量発着という点においては鉄道が勝る。しかし、この荷物の積み降ろしの部分がネックになっていたのだ。
「だからコンテナごとフォークで運んだ方がいいってわけ」
エスリーンはリヒャルトの前に立つ。そして教科書で頭をたたいた。
「居眠りするな!」
「すみません」
(あー、やだやだ。こんな教師生活あと半年で終わりなのよね。あと半年もあるんだよね)
「先生、質問」
「何? リヒャルト」
「物量の事は分かったよ。でも所詮戦は剣と魔法だろ?」
「いい質問ね。じゃ、ここに魔導砲積んだらどうなる?」
「あっ……」
「軍事にも使えるの」
鐘が鳴る。
「次はエレベーターの話よ。それが終わったらいよいよ本格的な軍事の話ね」
◆◇◆◇
昼間の授業が終わって夜の授業も終わった。地下教室で二人きり。
マリアンヌとよく二人になることが多くなった。
「私、戦争怖いわ」
「私も」
「私のような人間が戦争になったら真っ先に死ぬかも」
「そんなことなせないよ、マリアンヌ」
(えっ?)
「あなたって本当に強いのね。本当にヒキコモリ令嬢?」
「本当よ。今日の授業なんて終わった後に布団にもぐって泣いたわ」
エスリーンは空を見上げる。
「私はただ、静かに暮らしたいだけなのに」
その言葉を聞くとマリアンヌは肩を寄せ合った。
「おー、いい子、いい子」
マリアンヌはからかいの言葉には聞こえなかった。
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