第一話

 「みんな、初めまして」


 エリックが教壇に立つ。


 「初めまして。私がアドルフ。この青獅子級の級長です」


 (この子が神童と呼ばれる王子か! 八歳にして六か国語を操ると言われる!)


 「従者のルイズだ。アドルフ様に何かあったら許さない」


 (従者……。そうか。大切な第一王子だもんな。そりゃ従者ごと来るか。それにしても従者も若い。若いって言っても俺と同じくらいだが)


 「ハンナです。よろしく」


 「この子は平民から必死に勉強してここに来た」


 「オリヴィアです。よろしくね!」


 「この子は孤児院を運営している。魔導を学んで孤児院の経営を良くしたいという思いで来た」


 「フリードリヒだ。よろしく頼む」


 「彼は大貴族の第一王子だ。所領を運営しながらこの学園に居る。魔法よりも騎馬の方が得意なんだ」


 (へえ!)


 「フーゴです。よろしく」


 「弓が得意な奴だ。平民出身だ。この連盟に近い辺境伯寮に住んでる。以上六人だ。先生、俺たちは必至な思いでこの学園に来た。国を良くしたいからだ。真剣に授業やってくれよ。じゃ、さっそく『モーター』の授業やってくれないか」


 「じゃあ、始めるぞ。みんな大事なのは磁石なんだ。君らの国で磁石は取れるか? 鉄(Fe)、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)がとれるかどうかだ」


 「取れるぞ」


 フリードリヒが即答する。


 「そうか。じゃあ、これを見てくれ」


 そう言って見せるのはエスリーンに教わった周期表だ。周期表を世界地図の横に貼る。


 「いいか? 『四大元素』なんてもんは大嘘だ! これが世界の物質を支配する『地図』だと思え!」


 クラス中がどよめく。


 「これからお前らに『非常識』を教える。本当に覚悟は出来てるな!」


 「そのためにはるか異国まで来た」


 さすが従者だ。


 「そうか……。ではこれをよく見ろ。これがコイルだ。コイルとは銅線を巻いたものだ。このコイルにそれぞれ『N極』と『S極』が向かい合うように並べた。この二つの磁石の間に、整流子を使うと……」


 するとモーターが回る。


 クラス中がどよめく。


 「すみません!! 『N極』と『S極』って何ですか!」


 ハンナが立ち上がる。


 「すまんすまん、ハンナが住んでるところは飢餓が蔓延したんだ。理解してほしい」


 (みんなの熱意が伝わってくる!!)


 「いいよ。よく理解できる。ところで北方王国の水資源は豊富そうだな」


 「そうだ……」


 ルイズが指を刺されると回答した。


 「では、北方王国に水力発電所を多数設置できそうだな。お前らの苦難は魔導で乗り越えられそうだぞ」


 「「うおおお!」」


 クラスが盛り上がった。


 「じゃー、次だ。感電せずにどうやって電気を運ぶかだ」


 その時、修道院の鐘が鳴った。


 「すまない、今日の授業はここまでだ。初日で疲れただろう。ほかの科目もある。ゆっくり休んでくれ」


 そのセリフを聴くとクラス全員が悔しい雰囲気に包まれた。


 北方王国の別名は「暗夜の地」。つまり冬は太陽が一日中昇らない地域が存在する。それだけ厳しい大地から彼らは必死に新しい技術を学びに来たのだ。母国をよくするために。エリックの講義に真剣になるのは当たり前なのだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る