引きこもり令嬢エスリーンの逆襲 婚約破棄・追放からの逆転人生の答えは魔導書にあった！

第八話

　校舎は大きく三つの壁で仕切られた。左は黒の双鷲の紋章に赤の旗。ロロ大公国の紋章だ。中央には北方王国。青獅子の紋章の旗。そして自国領には金の鉾の紋章に金と青の旗。

　ずっと寮で引きこもっていたエスリーンにとってそれは地獄の光景であった。

（地下墳墓でずっと研究したかった……）

「俺の学級の級長は女だろ？　ちょろいぜ。何かあったら魔法剣で叩きのめす」

ザックは余裕だ。

「甘く見ちゃだめだよ……」

　エリックはなだめる。

　（隣のクラスとはいえ入学試験でトップの成績を取ったアドルフが気になる。彼が級長なのか）

　「よっ、兄弟！」

　（本当にこの人は盟主なのか？　金と青の陣羽織が無かったらとてもじゃないが盟主様に見えない）

　「兄弟！？」

　「おうよ。連盟ではお互いに助け合う。みんな兄弟みたいなもんさ」

　「はい、頑張ります……」

　「頑張らなくていいよ。お互い助け合うのが俺の主義でね。さ、入学式は教会で行うんだろ？　授業は明日からだぜ。期待してるぞ」

　入学式は聖女様の長い挨拶が終わると聖歌を歌う。もうこの時点で嫌な予感しかない。不協和音そのものであった。

◆◇◆◇

　「明日の授業、大丈夫だよな！？　俺教えられる内容に限りがあるぞ！」

　ザックが焦る。明日からいよいよ本番なのだ。

　「大丈夫」

　エスリーンは断言した。

　「おいおいおいなんだよそれは」

　「黒鉛２次電池よ。何度も電気をチャージ出来る。今まで紹介した電池は１次電池って言うの。でも発電機が普及したから今度は２次電池の番よ！」

　エスリーンはプラグを差し込む。

　「このおもちゃ……２次電池を電動リフトへ入れると」

　動いた。

　「充電すれば何度でも動く。耕運機やコンバインに使えるの。農業がますます飛躍的に生産できる。これに化学肥料使えば完璧ね」

　「「すげえ」」

　「化学肥料ってなんだよ？」

　「化学の肥料って何だ？　やっぱりそれは事実上の錬金術じゃないか！」

　「エスリーン……あなたは神の使いですか？　悪魔の使いですか？」

　「それは前に使ったアンモニアを使って……いっぺんに質問しないで！！」

　エスリーンはまるで自覚してないがそれは「農業革命」を意味していた。それも中世から一気に現代に行くほどの革命である。皆必死にメモを取る。もう飢餓という名の死神によって命を刈り取られる心配が消えたという意味になる。

　メモを書き終えて皆沈黙した。そんな時細い声で質問した者が居た。

　「あの、私は……」

　マリアンヌだった。そう、彼女は教授職には就けなかった。

　「万が一の時の代役よ」

　聖女エリー様がゆっくり答える。

　「それにこの三名の教え方が下手か上手かをジャッジしてくれ」

　（えっ？）

　エスリーンはびくっとなった。

　「それと万が一の時もある。今日から教授法だけじゃなくて鍛錬も教えるぞ」

　「ええっ……」

　エスリーンは青ざめた。エスリーンは武芸は可らしきダメだった。

　「それとこれからゴムの木を育てるから温室を作るんだけどみんなも協力してくれない？」

　「「はい」」

　「生徒に舐められるなよ」

　副校長の声は黒かった。面頬をかぶっていないのにも関わらずだ。

　「……」

　四人は沈黙してしまった。

　「最後に忘れちゃ困るがここは貴族のための学校でもある。相手を見つけるのも貴族にとって重要な勉強だ」

　「相手かぁ……」

　エリックはめ面倒くさそうだ。

　「そう、生涯の伴侶となる相手ね」

　（あれ？　『マジックラブ』の乙女ゲームとしての機能が失ってない！！　こんだけストーリーを壊したのに恋愛要素はむしろ重要になってる！！）

　「マリアンヌはここでマンツーマン教育よ」

　「えっ……ありがとうございます」

　マリアンヌはエスリーン以上に人におびえ場合によっては攻撃魔法を浴びせようとしたこともあった。ほとんど馬の世話をして人と会話しない。よく私達と会話できるもんだ。というかよく中退にならないもんだ。

　「さあ、次の日はいよいよ授業よ。今日は早く寝なさい」

　聖女のセリフは明日から覚悟しなさいと言ってるのと同義だった。

　「最後に伝えることがあるわ。今年の受験者は一名を除きなんと全員入学よ」

　「ええ！？」

　エリックは驚く。

　「そんなに凄いことなの？」

　「ああ、普通は受験者の約三分一しか入れない」

　副校長が説明する。

　「ロロ大公国から来た受験者が不合格になったはそれ以外は近年まれにみる高得点ね。魔法学に関してはほぼほぼ全員満点だったわ信じられない。このせいでザクル＝ピピンは双鷲級に転籍になったわ。本人の申し出に許可したの。普通は許されないけど理由が理由だしね」

　エスリーンはその言葉を聞いてほっとし、逆にエリックは緊張した。

　「国が違うクラスにあえて許可したの。秩序維持のためにね」

◆◇◆◇

　次の日がやって来た。教室に生徒がいる。授業名簿は六人。盟主様はともかく、私の授業で理解してくれるのかしら？

　エスリーンは寮から出る。エスリーンは教授にして生徒なので寮も生徒用の寮のままだ。

　ザックもエリックも教室の前に立つ。

「大丈夫だよな？　俺たち？」

　ザックが震えてる。ザックが覚えてる姿を初めて見た。あれだけ鍛錬場で勇猛だったザックが怯えてるのだ。

　「もう寮に帰って昼寝したい」

　エリックは寝る事しか考えてない。

　「残念、まだ朝だぜ。覚悟しろや」

　ザックはエリックをなだめた。

「俺たち、ついこないだまで生徒だったんだよな？」

　エリックは乗り気ではない。

「ええ、履修期間の二年のうちの残り一年、乗り切るわ！」

　エスリーンは気合を入れた。

「みんな、行くぞ！」

ザックの号令と共に三人はそれぞれの学級に歩み出す。

＜第一章　終＞