第七話

 地下の秘密学級は参加者全員が毎日がワクワクするようになっていった。


 「これが竈を無くす機械です。これが今日の魔導の奥義」


 鉄で巻かれた台を指してエスリーンが言う。


 「なにこれ?」


 エリックがきょとんとする。


 「電熱器よ」


 エスリーンが指を指しながら言う。


 「でもそんなもん、炎の魔法石で十分じゃん」


 ザックはまたしてもがっかりしていた。


 「それは高価でしょ。誰もが普通に魔法石を使えるなんて思わないで。私たちは貴族だから高価とは思わないだけよ」


 マリアンヌはザックにツッコミを入れた。


 皆の反応を見ながらエスリーンはボタンを押して熱を調節する。


 (私に『バーナー』なんて作る才能あったら都市ガスなのになあ)


 これはコンロの周りに電熱コイルを巻いただけの簡単なものだ。


 「野菜を炒めます」


 エスリーンはフライパンに油をひいてもやしとキャベツを炒めた。ちゃんとおいしそうな音がする。


 「魔法石なんて買えない庶民は薪で顔を真っ黒にしなくていいの、そしてもう一つ」


 「これは?」


 ザックが指さす。


 「電気炊飯器よ」


 エスリーンの発明品は非常に重要なものとなった。まず薪割りといった重労働が庶民から消えて女性の睡眠時間が1時間減ったとも言われる。「家事」が重労働だったのだ。さらにトースターも出来た。


 出来たお米を握って……


 「東方の国のメニュー『おにぎり』の出来あがり」


 エリックは恐る恐る食う。


 「うまい!!」


 「でしょ!」


 エスリーン自慢の塩むすびだ。まあ、海苔というものがこの世界に無いのが残念なのだが。


 (これで私は日常生活でおにぎり食いたいとなってもだえることが無くなるんだね)


 「早速学食に配備しようぜ!!」


 ザックの提案にみんな大賛成だ。聖女エリー様とクラウドを除いて。


 「これ……家庭科の実習に使えますわ」


 (なんだと、聖女様よ)


 「そうだな、女性限定の授業にするか?」


 副校長よ、それ差別?


 「うーん、料理を作るのはメイドの仕事じゃなくて? そうじゃなくて魔法力を高める鍛錬にできるし……それに」


 マリアンヌが貴族らしい感想を述べた


 「それに?」


 「わが校の魔法石の費用も削減できるから経費節減になりますわ! 電気代の方が安いのですもの!」


 マリアンヌの眼が輝いてた。それが聖女への売りなのだった。


 「これじゃ薪割り売りの人が失業しちゃう!」


 エリックがもっともなことを言う。


 「それは大丈夫よ。木質バイオマス発電にするわ」


 エスリーンは聞きなれない単語を言った。


 「ということは……」


 マリアンヌが感心する。


 「むしろ薪割り売りの生活が向上するって事だわ!」


 「しかも電源にもなるわけか!」


 ザックもこれには驚いた。


 この国にに木質バイオマス発電所も出来た瞬間であった。すべてのものを無駄にしない。


 「これ、お茶会のポットにも使えるわね」


 聖女の言うとおりだ。そうだ。コンパクトだからお湯を沸かすときにも使える。


 「そうね……」


 エスリーンは総言う用途では使ってほしくなかった。ヒキコモリ令嬢にとってお茶会イベントは軽い地獄であった。なるべくそのイベントは回避したいとエスリーンは願った。


 「うーん、というかさ……」


 「何? エリック?」


 「今ポットの話で思い出したけど……火力発電ってさ、蒸気の力でブレードを回した方が効率よくない?」


 (言われてみたらそうだ。何私いままで直火にしてるんだろう。直火だとブレードの痛みが早くなるじゃない!!)


 「その通りだわ! 急いで火力も蒸気でブレードを動かすように改良しないと」


 この国に本格的な火力発電も生まれた瞬間だった。


 このゲーム世界は確実に変化、進歩していった。

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