第四話
営業実験線はまず学園の城下町から隣町まで敷設した。二両編成で両端に運転席がある。全部エスリーンの指導だ。実験線は徒歩一時間かかるところをなんと十分で走破した。もちろん物資も運ぶ。運賃は一二デナールである。一般人の給料の二〇分一に相当する金額だがあまりの珍しさに乗客は絶えなかった。在学貴族の息子を経て「電車」の評判は国中に広まった。いや、隣国にも広まった。乗客収入で魔導学院の収入が大いに伸びた。学園経営に貢献して学費が大きく下がった。サーガラ諸侯連盟(サーガラ貴族共和国)には激震が走った。諸侯たちは次々線路の敷設と融資を求めた。
ここでさらにエスリーンは電圧器というものを披露する。魔導書「カドラの小さな鍵」には油で電圧を下げるとあったのだ。
(もっと転生前に理科の勉強を真面目に授業受けとけばよかった……)
なにせ魔導書には「ファラデーの原則」だの「交流」だの「直流」と書かれているのである。
ピピン家には激震が走った。落ちこぼれが超魔導機を発明したという知らせを受けて青ざめた。ザクル=ピピンに「婚約破棄の無効を早急にせよ」と手紙が舞い込んだ。そう、エスリーンには巨額の特許料が舞い込んだのだ。つまりは金目当てだ。
食堂でザクル=ピピンはエスリーンの席に立ち大声で婚約破棄は無かったことにしてくれと懇願した。悲鳴に近いその声に対する声への答えはもちろん冷酷なものであった。
ザクル=ピピンの顔にコップの水が襲い掛かった。
完全に立場が逆転したのである。もうエスリーンをいじめるものは居ない。もっとも声をかける者も居ないが。
中には天馬を使って競争する者もいた。が、早さで勝っても絶対的な輸送量では負けるのであった。これは竜騎士でも一緒である。
発電所は水力だけで賄えるものではなくなって来た。そこで今まで竈の燃料としてしか使えない石炭が重宝されるようになってきた。
駅の周りには新しい商店が次々と出来た。として隣駅にも駅を中心とした街が形成されて行った。当然石炭も亜鉛も鉄道輸送となった。
レールは鍛冶屋の職人が作り上げていった。本数が多くなりすぎてとうとう複線化が必要となった。ポイント工事まで迫られた。
そう、産業革命が異世界に起こり始めたのであった。乙女ゲーム『マジックラブ』の世界観を根本から破壊したのだ。これならもう破滅フラグなんて立てようがない。
(これならもう破滅フラグなんて立てようがない。エスリーンでもクリアできる! この世界から脱出できる!!)
そう思った。
しかし『マジックラブ』は全く別のゲームに変貌しようとしていたのであった。
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