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「これは……?」と、ヤス。
「ロッキード・マーティン F-35B ライトニングII。これは今のところアメリカ製では最新の戦闘機だからな。自衛隊でも採用されて、配備が進んでる。このB型は他のA型やC型と違って、ヘリコプターみたいに垂直離着陸や
「あー、はいはい、わかったわかった」ヤスが右手を上げて、押しとどめる仕草をする。「ったく、メカオタクはこれだからな……だけどお前、これ、運転できるのか?」
得意顔でぼくは応える。
「そこは任せてよ。ぼくはフライトシミュレーターで4年くらいバーチャル戦闘機パイロットやってんだ。しかもエースの称号持ってるし」
「だったらいいけど、これ、一人乗りじゃないか。お前だけが乗るのか?」
「う……」
しまった。そこは考えてなかった。さすがにぼくも一人では心細いし、シオリがいないと「神」とも話ができない。それは困る。
「……そこはなんとか『神』にお願いして、みんなで乗れるようにしてもらおう。というわけで、ぼくの独断と偏見で、これに決定していいね?」
「ああ。おれはその辺全然詳しくないし、任せるよ」と、ヤス。
「ウチもや」と、シオリ。
「OK」
さっそくぼくは、F-35B の画像を開きつつ、スマホに入力する。
『この機体でお願い。ただし、三人乗れるようにしてほしい』
すると。
上空にあったオレンジ色の円盤の表面が、まるで生き物のように動き始めた。
丸かった縁が
わずか30秒程度で、円盤はすっかり変身してしまった。どこからどうみてもF-35Bだ。それはそのまま平行移動すると、ぼくらの横にふんわりと着陸する。
「すごい……本当に、F-35Bになっちゃったよ……」
ぼくはちょっと感動していた。
透明なキャノピー(アクリル樹脂で出来た、乗室の屋根となるカバー)が開き、その真下の胴体から
「やっぱ三人座れるようになってるよ。ぼくは一番前の
「了解だ、機長」
「了解!」
ヤスとシオリが敬礼するのを見届けて、ぼくは機長席に体を滑り込ませる。
しかし……
パイロットシートには操縦桿やスロットルレバー、ラダーペダルはあるけど、計器類が何もない。実はF-35Bは実機もそうで、フライトに必要な情報は全てヘルメットマウントディスプレイに表示される。でも、そんなものは見当たらないんだが……
だが、シオリがぼくの真後ろの席についたとたん、その疑問は一気に解決した。
「!」
ぼくの視界に、フライトシミュレーターで見慣れたインターフェースが現れたのだ。
方位計、
そうか。ここでもシオリの能力が、この機体とぼくらをつなげてくれるんだ。しかも、この機体に乗っているのなら、シオリに手を握ってもらう必要もないみたいだ。
ようし。これならいける。やってやるぞ。
ぼくは後ろを振り返る。ちょうどヤスが一番後ろの席に乗り込んだところだった。
「カズ兄、これ、シートベルトとかないがんけ?」シオリが不安そうな顔になる。
ぼくも周りを見渡してみたけど、どこにもそれっぽいものはない。背中やお尻の下敷きになってもいなかった。
「うーん……本物の戦闘機ならあるはずなんだけど、ぼくの席にもないなあ」
「ひょっとしたら必要ないのかもしれない。だって、今は戦闘機の形をしているけど、こいつの正体はUFOなんだからな。おそらくシートベルトなしでも大丈夫なのかも」と、ヤス。
「なるほど、そうかもな。それじゃ、全員準備はいいね。さっそく離陸するよ」
そう言って、ぼくはキャノピー操作レバーをクローズの位置に入れる。真上のキャノピーが降りてきて、完全に降りきったところで少しだけ前進し、ロック。こんなところも本物とおんなじだ。ぼくはめちゃくちゃ感動してしまう。
推力偏向レバーを
しかし、全く音がしない。本物だったら垂直離着陸の時はものすごい音がするはずなのに。それに、いくら機体が動いてもG(加速度)も全然感じられない。
「思った通りだ」ヤスだった。「加速度が感じられない。おそらく慣性制御されているんだ。アインシュタインの等価原理によれば、遠心力みたいな慣性力と重力は基本的に同じものだからな。重力制御ができれば慣性制御もできるわけだ。これなら確かにシートベルトは要らなさそうだな」
「……」
なんだよ。ぼくをメカオタク呼ばわりしてるくせに、ヤスだって立派な理科オタクじゃないか……
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