25
気多大社は、石崎の八幡神社とは比べ物にならないくらいに大きかった。めちゃ境内が広い。鳥居をくぐると門まで二~三十メートルくらいあるくらいだ。だけど人影はほとんどなかった。観光スポットという話なのに……
「この境内で、UFOを呼ぶんや。そうすると来てくれる」と、伯父さん。
「って、どうやって呼ぶんですか?」
「三人で輪になって手ぇつないでぇ、何度も呪文を唱えるんや。ベントラベントラ、こちら気多大社、UFO来てください……ってな」
「……」
なんか、すごく
だけど、もうそれしか方法はなさそうだ。経験者の伯父さんが言うんだから、間違いはないだろう。
「それじゃヤス、シオリ、さっそくやってみよう」
ぼくが言うと、二人が同時にうなずく。
「ああ」
「うん」
---
"ほんなら俺は祭の用意せんなんさけえな、いったん石崎に戻るわ。迎えが必要ならいつでも電話してな。ごちそう用意して待っとるから、頑張って来いや!"
そう言って伯父さんが帰って行ってから、既に三時間ほど経っていた。
「ベントラベントラ、こちら気多大社、UFO来てください」
何度この呪文を唱えただろうか。周りにあまり人はいないとはいえ、ゼロというわけでもない。手をつないで輪を作り呪文を唱え続ける三人……はたから見たら怪しすぎる……
でも伯父さんの話では、かなり長い間これを続けないとUFOは現れないらしい。一応、熱中症を防ぐためにこれまでも何回か休憩は挟んだのだが、その度に飲んでいたペットボトルのウーロン茶が、とうとう無くなってしまった。
これ以上続けるとしたら自販機で何か飲み物を買ってこなくては。ぼくがそんな心配をした、その時だった。
「!」
来た。確かに、何かの気配が……来た……それも、上から……
弾かれたように上を向いたぼくの目に入ったのは……
視界いっぱいに広がったオレンジ色の光。見渡すと、それは直径十メートルくらいの円盤だった。
「……!」
ぼくは言葉を失う。ヤスもシオリも同じだった。
「あ……カズ兄、お兄ちゃん!」
シオリのその一言だけで、「神」からのコンタクトが来たことが分かった。早速ぼくはスマホを用意する。
"時空の歪みのせいで、お前たちとの通信が上手くいかなかったようだ。だが、無事「乗り物」にたどり着いたようだな"
そうか。やはりこれが、「乗り物」ってヤツなんだ。だけど……
こんな大きな物なのに、周りにいる人たちは誰一人気づいていないように見える。
『これはぼくらにしか見えないものなの?』スマホに入力。
"その通りだ。光学迷彩で透明化されている。位相反転音波で消音もできている。お前たちは私がイメージを直接お前たちの視界に送っているから見ることができるのだ"
すごい。なんだかアニメに出てくるメカみたいだ。
「神」からのメッセージはさらに続いた。
"これは重力制御技術を使って自由自在に空を飛ぶことができる。しかし、
重力制御と時間加速、ワームホール生成は基本的に同じ原理だ。時空が不安定な今、これらを過度に用いることはさらに問題を大きくする恐れがある。とは言え、時間加速を使わずに高速に移動するためには、やはり空を飛ぶのが最適だろう。そこで、まずお前たちに頼みたいことがある"
『頼みたいこと?』
"航空力学を用いて重力制御をほとんど使わなくても飛行できるようにするには、お前たちの世界の「飛行機」と同じ形にこれを加工する必要がある。それを手伝ってほしいのだ"
『どうやって?』
"お前たちが任務達成に最適と思う飛行機の画像を送ってもらいたい。そうすれば、私がそれと同じ形に加工する"
「……ええー!」思わず大声を上げてしまった。
ちょっと待って。このUFO、どんな飛行機の形にもなれるの?
だったらもう決まってる。今回のミッションに最適な飛行機は、間違いなく戦闘機だ。スピードも速く、空中を自由自在に飛ぶことができる。そしてもちろん目標を破壊する能力も備えている。ぼくらの使命はワームホールを見つけてエキゾチック物質を送り込み、消滅させることなんだから、これほどふさわしい機体は他にない。
しかし問題は、数ある戦闘機の中でどれを選ぶかだ。
「やっぱ、自衛隊でも使ってる F-15 イーグルかな。F-4ファントムも好きなんだけど、さすがに古すぎるしな……あーでもロシアの機体もかっこいいんだよな……スホーイもミグも……ヨーロッパの機体もいいよなぁ……ユーロファイターとかラファール、グリペンも捨てがたい……」
「カズ兄……なんかちょっとキモいよ……」
ぶつぶつ呟きながら考え込んでいたぼくがその声に我に返ると、すっかり呆れ顔になっていたシオリと目が合う。
「!」
しまった。思わずミリオタの本性が出ちまった……つか、シオリに「キモい」とか言われちまったぞ……何気にショックだ……
「で、決まったのか?」
同じく呆れ顔の、ヤスだった。
「……ああ。今回のミッションに最適なのは……こいつだ!」
ぼくはスマホの画面を二人に向ける。
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