24

 ぼくらを乗せたエスクードは、緑に囲まれた里山海道をひたすら駆け抜ける。空は快晴。何もなければ最高に気持ちいいドライブなんだけど……イマイチぼくらのテンションは上がらない。やはり、無事に石崎奉燈祭を守ることができるか心配なのだ。


「今から行くのはな、羽咋はくい気多大社けたたいしゃや」


 伯父さんが一瞬ぼくを振り返り、続ける。


「カズヒコ、羽咋は何の町として知られてるか、知っとるか?」


「え、いや……分かりません」


 羽咋は七尾市の南西、能登半島の反対側にある市だ。と言っても、ぼくは名前しか知らない。それも最初は何て読むのか分からなくて、伯父さんに教えてもらったような記憶がある。


「ヤスヒロ、お前はもちろん知っとるな」伯父さんが助手席に視線を送る。


「そりゃもちろん……」言いかけて、ヤスがハッとした顔に変わる。「ま、まさか……父さん、『乗り物』って……ソレのことなのか?」


「……」伯父さんはヤスのその問いに応えず、ただニヤリとして見せただけだった。


「ヤス、何のこと?」ぼくは身を乗り出して、助手席に顔を向ける。


 ヤスの顔には、なんとも言えない複雑な表情が浮かんでいた。


「あのな、カズ、羽咋は……別名……『UFOの町』って言われてんだ……」


「はぁぁ!?」思わず変な声を上げてしまった。「ユーフォ―? ユーフォ―って、あのユーフォ―?」


「そうや」と、伯父さん。「昔、羽咋の海岸でUFOが撮影されたことがあってな。ほんで全国的に有名になったんや。ほやけど、実は平安時代からUFOらしいものが目撃されていた、っていう古文書もあるらしくてな。それで羽咋はUFOの町として町おこしやっとれんな」


「ほうねんて」シオリだった。「UFOの博物館もあるしぃンね、UFOラーメンとかUFOうどんとかもあるげんよ」


「UFOラーメン……? なにそれ……?」


 どんな味なんだろう。全然想像がつかなった。


「ウチも食べたことないさけ、どんなんかは分からんけどね」


「あ、そう……」


「UFOの博物館ってのは、コスモアイル羽咋のことだな」と、ヤス。「おれは行ったことあるけど、あそこは本物の宇宙船があるんだ。それもアメリカのだけじゃなくて、旧ソヴィエトのもあるんだぜ。UFO博物館なんて言うとちょっと怪しげだけどさ、中身はとてもまともな宇宙博物館なんだ」


「マジか!」ぼくのテンションが一気に上がる。「そんなところがあるんだったら、ぼくだって行ってみたいよ!」


「分かった分かった」伯父さんが呆れ顔になるが、すぐに真顔に戻る。「それはまた今度にして、今日はそれどころやないやろ? まずはお前たち、自分のミッションを遂行せんとな」


「……!」


 そうだった。はしゃいでる場合じゃない。ぼくは気を引き締める。


「で、伯父さん、そのUFOが、例の『乗り物』ってことなんですか?」


「おいや。おそらくほうやろな。ただ、正確に言えば、本来のUFO……未確認飛行物体……ではないわな。なんたって俺はその正体を知っているわけだから」


「そうなんですか!」


 まったく……この人、さらっとトンデモないこと言ってくれるよなぁ……


「実はな、昔、俺もそれに乗って『神』のために働いたことがあれんて。アレはたぶん、俺たちみたいな人間のために用意された装置なんやろな。『神』自身はそんなもん必要とせんやろし。基本的に平たくつぶれた饅頭まんじゅうのような形をしているさけ、UFOに見えんこともないわな」


「へぇ……」


「でもな、どういう仕組かはようわからんけどぉ、あれは姿も音も隠すことができれんや。ほやさけぇ、普段は全く見つからんはずねんけどな、ふとした拍子に姿を見せることもあってな、ほんで写真とかビデオとかに撮られてしまうんやろな。羽咋で昔からUFOが目撃されとる、っていうのは、それが原因なんやないかな」


「そうだったんだ……」


「だから、今回もたぶん、お前たちがそれに乗って何とかしねましろ、ってことなんやと思う」


「伯父さんは乗らないんですか?」


「乗れるわけないやろ! 俺はもう年を取り過ぎた。おそらくそのUFOなんかも見ることすらできんと思う。やっぱこれは、お前たちの仕事や。なぁに、なんも心配いらんわいや。お前たちはみな、俺とヤスコ、ヨシエの血を引いとるんさけぇ、きっと上手くいくわいや」


 そう言って、伯父さんは朗らかに笑った。


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