第8話

 水車小屋の近くで建物を見上げる。

 広すぎて、どこにいるかも想像できない。

 来る時に無理をしてでもここを通っていれば、リーチィと合流できたかもしれなかった。

 もちろん、その時にはリィウィとチャオリンは救えなかったことになる。

「ええい、考えても詮無いか」

 フォンユーは近場の入口から中に入った。

 水車の回転音、各種器械の稼働音と川の音。

 その奥で時折鳴っているのは剣戟音だ。

 そこにリーチィがいる。

 しかし反響が激しく、位置を特定できない。

 フォンユーは水車の方へ向かった。

 勘は合っていたようだ。

 次第に音は大きくなる。

 歯車の上にリーチィと道化師の姿を見つけた。

 フォンユーは手前側の歯車に掴まると、逆走して駆け上がった。

「リーチィ!」

「フォンユー!」

 元気な声が返ってきた。

「止めるんだ、リィウィ! 今ならまだ間にあ――う?」

 四階に差し掛かった。その奥に、ヂーリンに刃を突きつけられたリィウィがいた。

「いや――……なんだ。その――……もちろん信じていたぞ、リィウィ」

「あたいだと思ってたんですの!?」

 気色ばむリィウィにフォンユーは怯んだ。

 歯車を逆送する勢いも途切れてしまい、同じ位置に停滞するのが精一杯であった。

 その時だ。

 どずん――

 脇腹に衝撃を受けた。

 道化師の伸びた足であった。

 フォンユーはその延長上に吹き飛ばされ、四階の板の間に落ちた。

「フォンユー!」

 リィウィの悲鳴に似た声が上がる。

 巻き上がる埃の中、痛みを無視してフォンユーは立ち上がった。

「あいつは君だったのか、ヂーリン!」

 ヂーリンは答えない。

 困ったような、申し訳なさそうな――複雑な表情をしていた。

 本体がそこにいる以上、道化師はヂーリンそのものではない。突然現れたというチャオリンの証言からすると、召喚系の仙術だろう。

 傷をつけても術者が同じところに傷を負うものではないので、見つけ出すのは難しい。

 とてもヂーリンがやっていたとは思えなかった。

「どうしてこんなことを――」

 今度は鹿角刀を握った腕が伸びてきた。急角度で曲がって天井に突き刺さると、そこを基点に道化師が飛んできた。片手の鹿角刀に剣が絡んだリーチィも一緒だ。

「リーチィ!」

 道化師は部屋に入ってくるとリーチィを放り投げた。

 リーチィは身体を回して着地した。

 止まらなかった勢いでフォンユーの隣まで滑ってくる。

 フォンユーは降り立った道化師とリーチィの間に立った。筆架叉サイを抜き出して構える。

「フォンユー、あいつの狙いはお前だ」

「分かってる。だけど俺に任せろ」

 フォンユーは前に出てきたリーチィを後ろに追いやった。

「それよ、それ! どうしてあなたは、妹、妹って妹ばっかし!」

 ヂーリンが搾り出すように叫んだ。

「な――何だ? それが理由なのか?」

「悪い? あなたはその子がいる限り他の女には目もくれない。だから殺すの!」

「狙いは――……リーチィなのか」

 ヂーリンは答えない。

 言葉は本心なのだろうが、本気には思えなかった。

 ゆらりゆらりと左右に揺れる道化師を見た。欲望が具現化した術者の分身である。

 獣化した《小愛シァォアイ》から親友のリィウィを助ける為にあの道化師を使った。

 それなのに今は違う。

 リーチィを見て、親友を救うことより、本来の欲求へ身を転じたのは術の仕様なのか。それともヂーリンの意思か。

 どちらにしろリィウィを見捨てたヂーリンは壊れ始めている。

 『殺す』なんて言葉は、自分の日常を捨てなければ言えない。

 ――ヂーリンはそこまで覚悟を決めているのだろうか。

 人を捨てた術者との決着は術だけでは成立しない。術者自体を倒す必要がある。

 つまり、彼女を止める為に、彼女自身と戦うべきか、それとも道化師と戦うべきか――ということだ。

 フォンユーは確かめたかった。

 それなのに、彼女の本心を引き出せる語彙が思い当たらず、次手を持て余していた。

「ヂーリン――それは間違ってますの」

 リィウィが首に刃物を向けられたまま、気丈に語り始めた。

「何が間違っているって?」

「リーチィがいなくなったからって、フォンユーはあなたには振り向かないわ。もちろん、あたいにも――だけど」

 リィウィが何を言おうとしているのか、フォンユーには全く分からなかった。

「そんなことないわ。リィウィ、あなただって思ってたはず! リーチィさえいなければ――傍にいなければ――って」

 フォンユーの隣でリーチィが悲しそうな顔をする。

 こんな会話させていられない――フォンユーは口を挟んだ。

「嘘だろ、リィウィ、ヂーリン――。お前らがそんなことを思ってたなんてさ。いやいや、思ってないって昨日言ってたじゃないか」

「女というのは嘘つきなんですの」

 リィウィの直接的な言葉は冷ややかで、フォンユーは足下がぐらつく思いがした。

「ヂーリン。あたいはあなたよりちょっとだけ長く二人を見てきたから分かる。この二人の間には誰も入られないんですの」

「兄妹だから?」

 リィウィは首を横に振った。

「この人達は兄妹じゃありませんの」

「何を根拠に――」

「女の勘ですの」

 フォンユーはリーチィを見た。

「俺たち兄妹じゃないのか?」

 馬鹿な質問であった。

 リーチィは怒ることもせず、だが、答えることもしなかった。

「男と女にしても不潔だわ。リーチィは子供じゃない!」

「この人達は仙人よ。見えた通りが全てじゃないんですの」

「意味がわからないわ」

 ――もっともだ。

 フォンユーも心で同意した。

「リーチィが本当に妹だったら――本当に子供だったら――、あなただってきっと嫉妬したりしないですの」

 ヂーリンの眉間に皺が寄った。

 あれは――苦悩だ。

 まだ彼女の中には捨てきれていない部分である。

 道化師が動いた。

 両手を伸ばしてきた。

 リーチィがフォンユーの前に出て、剣で弾いた。

 フォンユーの思考は同じ所をぐるぐると回っていた。

 リィウィが言うように兄妹じゃない気もするが、妹としてずっと見てきた気もするのだ。

「ヂーリン。フォンユーとリーチィと戦ってごらん。あたいの言ってることが分かりますの」

「おもしろい――。フォンユー、リーチィ、二人掛かりでおいで! わたしの仙術は最強よ!」

「彼らはあなたの力に絶対勝ちますの」

 リィウィと目が合うと、彼女は強く頷いた。

 倒すことで救う――

 チャオリンの時と同じだ。それをリィウィは再び願ったのだ。

 フォンユーは思考を切り替えた。

 リーチィが自分にとって何か――今は大事なことではない。

 リィウィの願いが伝わったからには、それに応えねばならない。

 ――全てはあいつを倒してからだ。

「リーチィ、手を貸してくれ」

 フォンユーは再び筆架叉を構えた。

「一緒にあいつを倒してくれ!」

 リーチィも剣を構えた。

「その言葉を聞きたかった。だから剣を――」

 リーチィの言葉はそこまでだったが、何となく分かった。

 フォンユーの反対を押し切って剣を手に入れ、鍛錬を続けた理由は、フォンユーの力になるためだったのだ。

「そう――だったのか?」

 リーチィは頷いた。

 フォンユーはリーチィの心に触れられたような気がして嬉しかった。

 ありがとう――小さくそう言った。

 一緒に暮らしていても誤解はあるのだ。

 ヂーリンにはもっとあるであろう。

 間違った付き合いをしたまま終わりになるなんて御免であった。

 ――絶対、道化師を倒して、ヂーリンと膝をつき合わせて話をしてやる。

 フォンユーは強く思った。

 ごおんごおん――と水車の回る音の向こうで、板の間がきしっと鳴った。

 それが戦いの合図であった。

 道化師の腕が伸びる。フォンユーが右手、リーチィが左手を相手する。

 金属の火花が散った。

 フォンユーが鹿角刀の内側に筆架叉の護手叉を引っかけ、そのまま長い方を床に深く突き刺した。床と筆架叉が鹿角刀を押さえ込む。リーチィが剣で弾いたもう一方も筆架叉で受け止め、同じように床に止めた。

 リーチィが道化師の本体へ向かって行った。

 道化師が腕を引いて逃れようとするのをフォンユーが筆架叉に力を込めて阻止する。

 リーチィの横薙ぎの剣筋を、道化師は反ってかわした。

 今度はフォンユーが走り出す。道化師の伸びた腕の間隙を駆ける。

 床を鳴らし、一際高く蹴り上げた両足で道化師に跳ぶ。

 反っていた頭を戻した時にはフォンユーは懐に入っていた。

 両足蹴りには全体重が乗っている。

 腕が伸びる、伸びる、伸びる――床に挿しておいた筆架叉が限界を迎えて外れた。

 同時に道化師の身体が吹き抜けの宙へと飛んでいった。

 吹き抜けまでギリギリの床で着地したフォンユーの手に、抜けて飛んで来た筆架叉がはしっ――と収まる。

 腕をだらしなく伸ばした道化師が落ちていく。

 これで倒せたとは思っていない。

 もちろん隣に並んだリーチィも同様だろう。

 まだ戦闘態勢を解いてはいない。

 二階の高さ辺りで、道化師が腕を伸ばした。鹿角刀が達したのは上方の歯車だ。

 フォンユーは手前の歯車に飛び降りた。ゆっくりと降りていく歯車をフォンユーは逆走する。

 腕を縮める速度で道化師がそれを追い越していく。

 リーチィがひょっこりと床の端に立った。

 フォンユーが両手を交差して構えると、リーチィが飛び降りてきた。交差した腕で受け止め、力一杯、上へ放り投げる。

 リーチィの細身の身体が、上の歯車で道化師とすれ違った。

 すれ違い様に振るったリーチィの剣が、道化師の肩をえぐっていた。

 道化師が肩を押さえて膝をついた隙に、フォンユーは歯車を駆け上がった。

 同じ位置へと降り立つ。

 道化師は斬られていない方の腕を伸ばしてきた。目に見えて遅い。

 フォンユーはそれを筆架叉で受け止めた。また筆架叉で鹿角刀を歯車へと繋ぎ止めた。

 道化師は間髪入れずに手を離した。さっきの攻撃を避けたのだろう。

 しかしだ――。

 後ろからリーチィが斬り掛かっていた。

 傷ついた肩を押して防御に回した鹿角刀であったが、リーチィの剣に弾かれ、屋根へ突き刺さった。

 道化師が悲鳴のような音を鳴らしながら、水車の方へ跳ねて逃げた。

 ――逃がすか!

 フォンユーも跳んだ。

 道化師の頭を越え、下の方の羽へ降り立った。

 振り向き様に筆架叉で斬り掛かるが、道化師が動きを流し、筆架叉を叩き飛ばした。

 これで二人とも得物を失った。

 肉弾戦である。

 水車は下から上へ回っている。上段の道化師が動きに反するように降りてくる。

 道化師の長い手足は攻防に優れていた。

 一方のフォンユーは、足元が滑り、服は水を含んで重く、遮るのが精一杯であった。

 一段、一段と下がっていく。

 にやり――道化師が仮面の向こうで笑った気がした。

 水飛沫を上げて道化師が水車の上方へと跳んだ。

 距離を取って攻撃をするつもりだ。

 逆にフォンユーは足場が滑り、跳ぶどころか追う事もできないのだ。

 一方的にいけると思ったのだろう。

 だが――

 道化師の背中に跳んで来た影があった。

 リーチィだ。

 水車の上方を取ろうと跳ねた瞬間、歯車から跳び降りたのだ。

 道化師はリーチィに背中に乗られる形で落ちてきた。

 その時にはフォンユーも飛び上がっていた。

 落ちてくる道化師へ両腕を突き出す。

 リーチィの両膝とフォンユーの両拳に道化師が挟まれた。

 道化師は先ほど以上の奇声を発した。

 大きな煙を上げ、そして消滅した。

「ふう――」

 ため息をついたフォンユーの視界に、リーチィが飛び込んで来た。

 い――フォンユーは息を呑んだ。

 リーチィも珍しく驚いた表情をしている。

 煙の向こうから突き抜けてきたリーチィは、フォンユーの胸へ落ちた。

 フォンユー自身も背中から落ちている所だ。

 胸に重みが加わる。

 リーチィの横顔が胸に触れる。

 フォンユーはリーチィを抱き止めたまま、背中から川へと落ちた。

 水を水車へ通す際に作った木枠の人工川のくせに、意外と深い。

 リーチィを抱きしめる形で沈み、ゆっくり、ゆっくりと水を落ち、木枠の底に背中が触れた。

 気付くとリーチィが顔を上げている。水の中で大きな目が揺れている。

 にこ――とリーチィが笑う。

 身体が一気に浮かんだ。

 流れが速く、二人分の体重でも流されていた。

 疲労度満載だが、リーチィをまず川から上げた。

 そのリーチィの手を借りて水から這い上がると、床に大の字で転がった。

 空気を求めて激しく胸が上下する。

 リーチィが横に座ってきた。彼女はどうやら回復したようだ。

 彼女に伴われて立ち上がり、上へ歩き出す。

 まだ動悸が止まらない。

 ――水の中でのリーチィの笑顔を見たせいか?

 ふとフォンユーは思った。

 『リーチィは妹』――という呪文はもう唱えていない。

「水って意外と重いんだな――」

 フォンユーとリーチィは身体を引きずるように、ヂーリンとリィウィのいる所まで歩いた。

 ヂーリンは崩れるように座り、リィウィが横に寄り添っている。

 二人の前にフォンユーはどすんと座り込んだ。横にリーチィも座る。

「ほら、勝ったぞ」

「わたしは何もできないんだ――」

 ヂーリンが吐き出すような低い声で言った。

「何でそう思うようになったんだ?」

 岩のように固まっていたヂーリンだったが、リィウィを一瞥すると、小さい声で話し始めた。

「わたしはリィウィのようになりたかった」

「あたいに?」

「リィウィは何でも出来て、明るくて、それに男の人にも好かれる」

「ヂーリンだって色々なお稽古事をして、お茶会や有名人に会ったりしてたじゃない」

「それはわたしじゃない。それはわたしのお父さんの力――服なんて自分で選んだことは一度もないの」

「無いものねだりってことか?」

「そうね――。あたいもヂーリンに憧れてましたの。何でもさせてもらえるって思ってたから」

「リィウィ――」

「うちはそれほど裕福じゃないから、ヂーリンと肩を並べて歩くには、人一番頑張らなければって思って……」

「そんなふうに思ってたなんて」

 ヂーリンとリィウィは友達として付き合っているうちに互いに抑圧された劣等感を抱いていたのだろう。

 それがヂーリンには負の要因として、リィウィには正の要因として働いたに違いない。

「わたしにお見合いの話が出た時、リィウィは恋をしているようだった」

「ん?」

「あなたじゃありませんの」

 フォンユーにリィウィは即答した。

 そんなやりとりにヂーリンは薄く笑みを浮かべると話を続けた。

「自由なリィウィがうらやましくて、その恋の相手を見たくて――わたしが奪い取ってやれたら少しは溜飲が下がるかと思ったのだけど」

 ヂーリンの頬に涙が伝った。

「その人はいつも自然で、一緒にいると風のような人だった。道で困っている人を当然のように助ける姿を見て、ああ、いいなぁって思うようになった」

 リィウィがちらとフォンユーに視線を移した。

 目が合うと逸らされ、フォンユーが視線の行き場に困ってると、ヂーリンが続けた。

「一度でいいから、自分で恋がしたかった――。リィウィと取り合うことになって仲が悪くなったとしても、それでも良いから恋がしたかった。お見合いをしたら、もう結婚するしかないのだから――」

「もう決定なの?」

 ヂーリンは頷いた。

「わたしには時間がなかった。それなのに、その人ときたら他に一途な相手がいた」

 フォンユーはちらりとリーチィを見た。

 リーチィの真摯な横顔があるだけであった。

「だからリーチィを殺そうとしたんですの?」

「間違ってると思ってた。こんなことで恋が手に入れられるとも思ってなかった」

「じゃあ、どうして?」

「リーチィを殺せば、きっとわたしも地獄に落ちる。そうすれば残るのは――」

 ヂーリンはリィウィを見た。

 いつもの優しい瞳をしていた。

「あたい?」

「せめて友達だけでも――って思ったの」

 フォンユーはやるせなくなった。

 ヂーリンの抑圧された意識は別の方向に向いたまま戻れなくなったのだ。

 戻れないのなら自分を犠牲にして――と。

 間違っているが、正しいことよりも理解できる。

 できるからこそ悲しかった。

 フォンユーはそのやるせなさを大きく吠えて発散したくなったが、強く堪えた。

「わたし――どうすればいい? 友達を裏切って、好きな人の妹を殺そうとし、勢いでその人さえ手にかけようとした。このままじゃわたし、壊れちゃう――」

 またリィウィが視線を投げてきた。今度は意味が強く込められている。

 どうにかしろ――だ。

 と言われてもフォンユーにも考えは無い。

 回答権を視線でリーチィに委譲する。

 幸い、リーチィは気づいてくれた。

 遺憾だと眉を顰めたが、それでも自分の役目としてくれたようだ。

 姿勢を正してから、ヂーリンの名を呼んだ。

「あたしはあなたを許しません」

 明確な言葉にフォンユーは息を呑んだ。

 ――まさか、こんな言葉から始めるとは!!

「あなたに殺される謂われはないのに何度も襲われました。どんなに謝られても、このことを無かったことにはできません。万死に値します」

「リーチィさ~ん、言ってること分かってる?」

 さすがに言い過ぎと、フォンユーは小さく戒めようと思ったが、リーチィには無視された。

「償いの手段をこちらに求めるのも安易過ぎます。そのつもりがあるのなら、自分で示せるはずです。あたしやリィウィさん、ついでにフォンユーが、納得できる償いの仕方を、これから何年、何十年とかけて、示し続けてくれない限り、許されることはないと思ってください」

 確かにヂーリンは同情や赦免だけを求めているのではない。

 ――リーチィの言葉はきついが、一番彼女が望んでいるものかもしれない。

 フォンユーはそう思いつつ、『ついでにフォンユー』と言われたことに対し、『ついでかよ』と即座に言えなかったことを場違いにも悔やんだ。

「頑張ってみる」

 ヂーリンは笑顔でそう言った。

 横でリィウィも頷いた。

 目が合うと不愉快そうに言った。

「今の話に出た男の人は、あなたじゃありませんの」

「う――うん――」

 自分じゃないのだと努力する方が難しい気がした。

 フォンユー――とリーチィが名前を呼んだ。

 横を向くと、でかい虫が飛んでいた。

 いや、ヨウフィの《小愛シァォアイ》だ。

「俺の仙力を吸いに来たのか?」

 と警戒していると、耳を引っ張る。

 地味に痛い。

 呼んでいるようだ。

 フォンユーは《小愛》が飛ぶ方へ追っていく。

 吹き抜けから一階を見下ろすと、ヨウフィがいた。

「あれ? 用は済んだんじゃないのか」

「そのはずだったんだが、情報を持ってきた。それで恩を返せればと思ってな」

 何だろう――と思う間もなく、ヨウフィが言葉を継いだ。

「兵隊がこの村に向かってる」

「何でだよ?!」

 ヨウフィが知ってることではないだろうが、フォンユーは訊かずにいられなかった。

「理由は知らんが、かなりの数だ。――およそ数百人」

「数百?」

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