第25話 クーデリカもう一押し
騎士たちがやる気になった後。
俺はそれから30分ほどを掛けて、俺は奴らに相応しい訓練法を教えてやった。
幾つもあるから詳細は省くが、
大きく分けて基礎と実戦の二つに分かれる。
基礎は睡眠食事運動の三本柱。
きちんとした生活を送ることで、体力及び精神力のベースラインを上げる。
ベースラインが上がれば自ずと集中力の質や持続力が高まり、結果としてこいつらのパフォーマンスが引き出せる。
実戦に関しては、ただ突撃するのではなく、周りの状況や自分の状態を客観的に見られるよう指導した。
こいつらに必要なのはやみくもな身体トレーニングではなく、冷静な状況判断の能力だ。
よって自分自身がどんな人間であるかを正確に把握することから初め、知識としては戦術論を教え込む。
この2つが完成すれば、こいつらの能力は倍になる。
「……」
一方で、いつまでも落ち込んでいる女が一人だけ居た。
クーデリカだ。
意気揚々とトレーニングに励む騎士たちを尻目に、またしても奴だけが落ち込んでいる。
ホントにそれでも団長か。
情けないやつだ、と言いたいところだが同情できる部分もある。
こいつは元々のスペックが高い。
一度見聞きしたことは忘れないし、運動神経も抜群。
オマケに見た目までいい。
その上【剣聖】なんてチートスキルまで持ってしまったのだから、自分の能力を越えた敵と戦う経験が圧倒的に少なかったのだ。
何でも自分の思った通りにこなせてしまうのだから、周りのことなんか気にする必要もない。
だから自分の考えだけで動くようになってしまった。
今回の事は、それを正すための荒療治でもある。
だから皆の前で格下に負けさせたのもワザとやった。
とことんこいつを追い詰めるために。
ここから更に追い詰める。
「俺を恨んでいるか?」
俺はそれとなく尋ねた。
「バカな……! なぜお前を恨むか……!」
すると、クーデリカが言った。
そう。
恨んではいない。
何故ならクーデリカは高潔な女だから。
他人を恨むような自分は許せないはずだ。だから他人を恨むくらいなら自分を徹底的に恨む。それこそ殺したいくらいに。
それを敢えて自分の口から言わせたのは、その方が感情が高ぶるからだ。
クーデリカみたいなタイプは、感情が高ぶれば高ぶるほどエネルギーが増す。
「今回の件は……いや、今回の件も、ひとえに私の未熟のせいだ。私は全く成長していない。いつもお前の足を引っ張ってばかりだ……!」
そう言うと、クーデリカは腕で両足を抱え込み、丸くなって座った。
その見た目からも、これ以上は傷つきたくない、閉じこもりたいという意志が伝わってくる。
「いや、そんなことはねえけどな。
お前は強くなってるよ。
最初に会った時とは比べ物にならねえ。
それに、強さだけじゃねえ。
お前は高潔な女だ」
大分感情が高ぶってきたところで、少し褒める。
「……」
すると、案の定クーデリカは黙り込んでしまった。
俺の言葉が慰めにしか聞こえないのだろう。
『この期に及んで心配され、慰めの言葉などを掛けられてしまうとは、私はなんと情けない人間なんだ』と自責が始まっているのだ。
「……っ……このままでは……っ! 私は……皆に、示しがつかないいいいっ!!!!」
やがてクーデリカが立ち上がった。
その切れ長の両目からは、大粒の涙が溢れ出している。
「バルク……!! 私は……!!! 強くなる!!!!!」
そして宣言したかと思うと、剣を片手に走り出した。
1キロ四方はある練兵場をあっという間に駆け抜ける。
あー、行っちまったか。
まあクーデリカは元々、大勢と訓練するような性格じゃねえからな。
一人で死ぬほど修行するつもりだろう。
ある程度満足できる強さになるまで帰ってこねえな。
果たして俺の予感は的中した。
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