第24話 ナンバー1VSナンバー3
「わかりました……バルク様、ボク、やってみます……!」
ナンバー3は不安そうな顔でクーデリカの前に立った。
互いに腰に帯びた剣を抜き、構える。
「「……!」」
クーデリカは戸惑っている。
一方で、ナンバー3もかなり緊張しているようだ。
スパッツタイプのインナーから伸びた、ほっそりした足が震えている。
それはそうだろう。
絶対に勝てない格上を相手にしているのだ。
もっともそれは思い込みに過ぎないのだが。
『絶対に勝てない』勝負などない。
「はじめ」
俺の合図と共に、前に飛び出したのはクーデリカだった。
眉尻が下がり、口元は少し緩んでいる。
いかにも申し訳なさそうな顔だ。
せめてケガすることなく一撃で終わらせてやろう、とでも考えているのだろう。
「っ!?」
だが当ては外れる。
ケガしないよう、鎧の中で最も硬い胸甲部分に向かって真っすぐに突き出された刃を、ナンバー3が弾いたのだ。
そのまま自然な動作で、切っ先を前に突き出す。
「くっ!?」
普通ならこれで勝負は決まっていた。
だが【剣聖】のスキルを持つクーデリカは咄嗟に身を捩り、必殺とも思える一撃を辛うじて躱した。
額から一滴の汗がにじみ出る。
当たってたら無事には済まなかったな。
「はっ……はあ……!?」
一方、初撃を凌いだナンバー3は、背後に跳んでクーデリカから距離を取った。
その顔は驚きに満ちている。
俺が言った通りの展開になっているからだ。
二人の様子を見るに、この先も恐らくそうなるだろう。
「どうしたクーデリカ。押されてるぞ」
更に勝率を上げるため、俺はすかさず煽りを加える。
「……ッ!」
するとクーデリカが、僅かに目を細めた。
部下相手に後れを取るような自分は許せないのだろう。
忽ち本気モードに変わる。
「はああっ!!」
そして剣を上段に構え直して突っ込んだ。
クーデリカお得意のコンビネーションだ。
凄まじい威力と速度を持った無数の剣閃が、殆どタイムラグなしに同時にナンバー3の体に着弾する。
だがそれも悉く防がれてしまった。
「バカな!? 私の剣が見えるというのか!!?」
クーデリカが一旦距離を取って叫んだ。
衝撃の事態に驚いている。
「くすくす……!」
すると、これ見よがしにナンバー3が笑い出した。
玉のような目を細めて、如何にも見下した表情を作る。
「へー。だんちょーってこんな程度だったんだー……ダッサ!」
「……く……っ!?」
クーデリカの言葉尻に、怒りの感情がにじみ出てきた。
格下の部下が、自分を見下すような言動をしたことを受けて、平静ではいられない様子だ。
「ナンバー3! 私の剣を捌いたくらいで調子に乗り過ぎだぞ!」
「だぁって弱いんだもーん! こんなんじゃだんちょー失格だよねー! アハハ!」
ナンバー3がケラケラと嘲笑った。
「ならば一撃で終わらせてやる! 【剣聖神技】ライジンスラッシュ!!」
クーデリカの剣を中心に、雷のような閃光が縦横無尽に迸った。
雷の魔力を伴った、上段からの唐竹割り。
速度は雷の半分ほどで、威力は雷程度の奴だ。
クーデリカとナンバー3の間の距離はおよそ3・5メートル。
技が発生した瞬間には、既に敵の後方に駆け抜けている。
そんな電光石火の一撃を躱すには、俺のように雷よりも速く動くか、もしくは事前に攻撃を察知して対処するしかない。
「な……っ!?!?」
だが、クーデリカの剣がナンバー3を打ちのめすことはなかった。
クーデリカは剣身の平たい場所で小手先を打たれ、剣を落としてしまったのだ。
今はナンバー3によって、首筋にピタリと刃を押し当てられてしまっている。
誰が見ても完全な負けだった。
「そこまで。ナンバー3の勝ち」
俺が判定を下すと、ナンバー3がホッと息を吐いて剣を鞘に戻した。
「……そんなバカな……!?」
クーデリカは呆然としたまま突っ立っている。
落とした剣も拾わないでいる辺り、よほどショックだったようだ。
「ウソ……! 団長が負けたの……!!」
「あの子あんなに強かったんだ……!?」
周囲では、他の騎士たちも驚いている。
「ナンバー3。いい出来だった」
俺はナンバー3の頭を撫でてやった。
「あっ……ありがとう、ございます……!」
よほど緊張していたのだろう。
ナンバー3の体から、どっと汗が噴きでる。
それからナンバー3は、申し訳なさそうにクーデリカを見た。
「だんちょー……酷いこと言ってごめんなさい」
ペコリと謝る。
「なぜだ……!? 私の剣が見えたのか?」
クーデリカがナンバー3に尋ねる。
「いや、こいつに見えたのは初撃だけだ。後は一切見えてない」
「ならばなぜ私の剣を防げた!?」
「俺が教えた通りにやったからだ」
俺は、事前にナンバー3に伝えた内容を説明してやった。
それは次のような内容だ。
『クーデリカに勝つためには、3つの条件が必要になる。
1つ、油断を突く。
クーデリカはお前の事を見下している。
とりわけ本気で戦うとなれば、自分と戦う事になったお前を可哀そうだと思って必ず手心を加える。
そこを容赦なく突け。
最初の一撃はお前でも見える速度で打ってくるはずだ。
それを上手に捌いて反撃しろ。
うまくいけば、これで決着がつく。
仮につかなかったとして、ここで一撃加えることが出来れていれば、
もうかなりの確率で勝てる。
一撃加えられてもまだお前の事を舐め腐っているクーデリカは、今度はいつもの調子で打ってくるだろう。
十中八九、コンビネーションで来る。
太刀筋は見えなくてもいい。
来るものさえわかっていれば、対処のし様は幾らでもあるからな。
ジャンケンでもするようにコンビネーションのカウンターを入れろ。
それが入ったら次のフェーズに移る。
2つ、挑発する。
コンビネーションが効かなかったことで、クーデリカは必ず驚く。
そこで即座に挑発しろ。
『団長ってこの程度だったんだ!』とか、実力をバカにするようなものがいい。
自らに課した期待が大きすぎるクーデリカは、格下に負ける自分など絶対に許さない。
増して団員が傍に居るのだ。
百パーセント怒りの感情が湧く。
そこで更に挑発することで、クーデリカはかなりの確率で逆上するだろう。
3つ、逆上させる。
逆上すれば、クーデリカは必殺技を放つ。
これはこれまでの戦いで毎回こいつがやってきたクセだ。
勝ちに急ぐのは、一秒たりとも不覚を取ったままの自分では居たくないという焦りの気持ちがあるからだ。
そこを突く。
先にもコンビネーションのカウンターでやったが、必ず来ると分かっている技ほど崩しやすいものはない。
そこを狙って、最も速い技、即ち打突で小手先を打つのだ。
それで勝負は終わる。
クーデリカは敗北し、お前が勝利するだろう。』
という事を、俺は淡々と伝えてやった。
話が終わるころには、騎士たちの顔が驚きと称賛に満ちたものに変わる。
「さ、作戦だけでナンバー3を勝たせてしまうとは……!」
「バルク様ってただ強いだけじゃないんだ……!!」
「頭もいい……!!」
ナンバー7を初めとする何人かが、頬を赤く上気させながら言った。
「いや、別に頭よくはないがな。
俺がやったことは、要は相手をよく観察するってことだ。
自分が戦う相手がどういう人間かを理解すれば、格上相手でも勝つ方法はある。
わかったら本気で訓練しろ。
今のお前らじゃ、格下相手でも負けるぞ」
俺がそう言うと、
「「「はい!!」」」
「バルク様! ボクたちを鍛えてください!!」
騎士たちが乱れた隊服の威儀を正し、踵を揃えて俺に敬礼し言った。
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