第9話 復讐
「ロートリアが滅ぼされたって、どういうことだ!」
意味が解らなかった。
まさかクソババアども死にやがったのか!?
俺が全員ブチノメすはずだったのに!
「はい……! つい先日の話なのですが、魔法軍事大国アレックスターに侵攻されまして……」
リーダー格の兵士が言った。
魔法軍事大国アレックスター。
その名は俺もよく知っている。
大陸に覇を唱える大国の一つで、いずれ戦争になるだろうとは思っていた。
だが話がおかしい。
ロートリアがそんな簡単に滅びるとは思えないのだ。
「ロートリアには、【剣聖】のユリウスや【聖女】のリアーナがいる。持ち前の軍隊だってかなり強力だ。仮にアレックスターが攻めてきたとしても、半年やそこら持ちこたえるはずなんだが」
俺は兵士に尋ねた。
すると兵士は申し訳なさそうに顔を伏せる。
「それが、アレックスターではつい最近新しい王に代わったみたいなんです。そいつがもうめっちゃくちゃに強くて……! 俺たち一生懸命戦ったんですが全く敵わなかったんです……! 逆らう奴らはみんな殺され、女王ベルダンディ様もユリウス様もリアーナ様も、みんな敵国に囚われてしまいました……!」
そうか。
あいつらまだ生きてるんだな。
それならよかった。
……ん?
つうかそもそも俺が追放されてから1日しか経ってないはずなんだよな。
どうも時間間隔がおかしい気がするが……。
ああ、気を失ってた間に時間が過ぎてたって可能性はあるか。
多分、何日かあの森で寝てたんだろう。
まあいい。
今はこいつの話を聞くか。
「国はもうめちゃくちゃです。若い男は過酷な労働や前線の兵士として送られ、若い女や子供は売られるか妾にされ、逆らう奴や老人や役立たずは片っ端から殺されています……!
それで、俺らは命からがら逃げてきたんです……!
でも金も食うものも無くって……!
それでヤケになって、村を襲ったって始末なんです……!」
「ぬうう……! 人の命をなんとも思わない極悪非道な奴らめ……!」
クーデリカが拳を硬く握りしめて言った。
極悪非道ねえ。
ロートリアの連中も大差ねえがな。
俺をイジメてたってのも勿論そうだが、元々人身売買やら新しい軍事技術開発のための実験体とか色々やらかしてたんだ。主に障害者とか弱すぎるスキル持ってる奴とかがその対象にされててな。弱者にとことん厳しい国だった。
あいつらみんなぶっ殺されたのか。
ざまあねえわ。
どうせなら俺が直接手を下したかったが。
「で、ロートリアの城は今そいつらが支配してるのか?」
俺は尋ねた。
「は、はい……! 軍事大国から派遣された将軍が国を支配してるそうです」
あ?
ふざけんな。
あの国のものは全部俺のだ。
「おい、アホどもから俺の城を取り戻すぞ」
俺はクーデリカに言った。
「もちろんだ! バルク! 邪悪なる者どもからお前の祖国を開放し、正義ある秩序を取り戻そう!」
クーデリカは、やる気に満ちた目で俺を見返し応える。
「俺の城……?」
兵士がおぼろげな目で俺を見て言った。
その目はやがてハッと見開かれる。
「それにバルクって……ひょっとしてあのバルク王子……!? う、ウソだろ……!? あの無能王子が生きて……!? ど、どうしてこんなに強いんだ……!?」
「無能で悪かったな?」
俺がそう返事をしてギロリ、睨みつけると、
「ひいいいっ!?」
兵士はたちまち震えあがった。
その場に両手を突いて土下座しだす。
「もっ申し訳ございませんでしたああああ!! あの飛空艇から突き落としたのは、全部ユリウスさまの指示でしてえええ!!! どうかお許しおおおおおっ!!!!!」
なんだこいつ、あの時あの場に居やがったのか。
「バルク。こいつがお前に何かしたのか?」
クーデリカが俺に尋ねてきた。
さっき俺がハメられた話をしたせいか、言葉の端に敵意が籠っている。
「ああ。俺がまだ弱い時に、こいつら散々俺の事を棒で打っ叩いたんだ。その後飛空艇から俺を突き落としやがった」
「なんだと?」
ギロリ、クーデリカが兵士を睨んだ。
「やはり外道だったか。殺さねば」
今度は白刃を兵士の首に突きつけて言った。
兵士は途端にビクンとその身をのけぞらせ、
「ふっふぃいいい!? も……申し訳ございませぇんんんんん!!!」
顔をフルフルさせながら俺を見て謝る。
「な、なんでもします!!! どんな事でもいたしますからぁ!!!……どうぞ、どうぞ命だけはお慈悲をおおおおおおっ!!!」
そして、情けなく喚き散らすのを聞いて、俺は飛空艇での自分の姿を思い起こした。
俺もこんな風に命乞いしたな。
こいつらやユリウスの前で。
「俺が命乞いした時、お前らどうした?」
「ふ……ふひ!?」
「俺が泣いてなんでもするから命だけは助けてって、お前らに言った時の事だよ。お前ら俺に何したっけ?」
俺はとことん追い詰める。
「えっく……! ぐずっ……!! すびばぜっ……!!」
大の男が泣き出してしまった。
戦場で勇敢に戦う兵士様が、見るも無様だ。
だが、この程度では許さねえ。
「痛かったなあ。俺はスキルの効果で痛みも倍増してるんだ。お前の叩いた棒の一撃はな、破城槌で体ぶち抜かれたみたいな衝撃だったんだぜ?」
言いながら俺は、片手で兵士の兜を掴み上げて、まるで紙細工みたいにグシャリと握りつぶしてやった。
それを兵士の眼前に突きつける。
お前もこうなるぞ、という分かりやすい脅しだ。
兵士の顔面はもうこれ以上無いほど引き攣っている。
「俺もよ、ストレスが溜まってるんだ。お前らが余りに酷かったせいで、もう少しで本当に死んじまうところだったんだからよ。だから死ぬ前に解消に付き合えよ」
俺は言った。
そして軽く兵士をぶん殴る。
二打目で腕の骨が折れ、三打目で口から血を吐き、四打目で内臓がぐるうと音を立てて引きちぎれるぐらいに。
それでも殴る手は止めねえ。
傍で俺のやる事を見ているクーデリカも、特に何も言わなかった。
ただ黙って腕組みをして見ている。
「痛いぃぃぃ! 痛いいいいい!!!?!」
兵士が泣き喚いた。
構わず俺は殴る。
段々と、兵士の顔が原型を留めなくなってきた。
もうどこが傷でどこが無事なのかも解らない。
血がドバドバと流れ続けている……!
「よし。今楽にしてやる」
やがて俺は言った。
クーデリカに、縄で後ろ出に縛るように伝える。
そのまま村の近くにある崖に兵士を連れて行った。クーデリカもついてくる。
そのまま海賊に死刑にされる捕虜のように、突き出した崖の端っこに立たせる。
そして奴の襟首を掴み、強引に崖下を見させた。
地面は40メートル程下にある。
あの日俺が見た飛空艇からの高さとでは比べ物にもならないが、それでも充分に恐ろしかったらしい。
兵士はヨロヨロとその場にしゃがみ込み、無様にションベンを垂れ流す。
俺は構わず兵士を立たせて、
「崖から飛び降りろ」
指示した。
「ひいいい!!??! ムリムリムリムリィですぅううううう!!!!?」
すると、兵士がどうしようもなく叫び散らした。
それを見て俺はにんまり笑う。
「さっさと落ちろよ。いちにのさん、でバンザイつって飛ぶんだろ? おら!」
俺は背中をトンと押した。
再び兵士は崖の先端に突き出されてしまう。
「っひっ……っく……っく…ひっひっ……!!!」
兵士は泣きながら這いずり、俺たちの居る方に少し戻る。
そしてその場に土下座をし、
「な、なんでもします!! わたくしぃぃぃ!! 御二方の召使いになります!! 奴隷で構いません! どうか! どうか命だけはお助けくださいいいいいい!!!」
兵士は、俺らに向かって涙ながらに懇願した。
もう恥も外聞も無い。
なんでも良いから生き残りたい。
あの遠くて硬そうな地面を見させられたら、もう心にあるのは恐怖心だけ。
そういうのが分かる。
俺もそうだったから。
「「……」」
だけど俺たちは敢えて無視。
冷たい視線を向けるだけで、答えるつもりはない。
「お願いしましゅっ! ご、御主人さまぁっ!!!」
沈黙が恐ろしかったのだろう。
兵士が涙ながらに訴える。
「おい、奴隷で構わないってよ。クーデリカ。そのゴミ要るか?」
俺はクーデリカに尋ねた。
「いらんな。極悪人など生きている価値がない」
クーデリカは先と同じ刃物のような目で兵士を見下して言った。
その冷徹な言葉に、兵士は愕然とする。
「残念だな。いらねってさ」
俺はそう言うと、板の上に昇ってきた。
怖気づいて一歩も動けない僕の首根っこを掴むと、そのまま空中に突き出す。
「ひっ……!? ば……バルク様ああああああ!! お願いお願いお願いお願いお願いお願しますうううううう!!! なんでもしますからわたくしをお助けええええええ!!!!」
永久に消えろ。
と言ってやりたいところだが、これはユリウスに取っておく。
俺はそう思い、兵士を崖とは反対方向に放り投げてやった。
兵士は二転三転してやっと止まる。
「ごっ……ごふっ……!」
「おい、ちったぁ反省したか?」
俺は手に付いた血を拭いながら訊いた。
兵士は改めてその場に土下座をする。
「は、はいっ! 全部私が悪かったです! 心から反省してます!!」
その言葉を聞いて、とりあえず満足した。
それ以上イジメるのは止める。
「許すのか? バルク」
すると、クーデリカが言った。
眉間に寄った縦の皺や、真一文字に開く唇を見る限り、俺よりもキレてそうだ。
「どうせウソだぞ。こいつ、心の底じゃ一切反省していない。私が代わりに殺そうか?」
尋ねてくる。
「そんな事はわかってる。だがこれ以上やっても意味ねえよ。諸悪の根源は別の奴だからな。俺がブチノメしたい奴は他にいる」
もちろんユリウスの野郎だ。
アイツをボコす。
そのために、まずは国を取り戻しに行く。
俺の城を奪いやがった連中をボコし、それからまだ生きてるらしいクソババアやユリウスやリアーナをまとめてブチノメしてやって、その後ここに戻ってきてクソドラゴンもぶっ飛ばそう。
クソドラゴンにはお礼を言わなきゃならねえからな。
俺の拳を食らわすことが、一番喜ぶはずだ。
「クーデリカ、盗人どもをぶっ飛ばしに行く」
俺はクーデリカにそう言うと、座ったままの兵士を置き去りに山を下りていった。
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