第4話 ドラゴンの谷で

 ユリウスに地上に落とされて、どのくらい経ったか解らない。

 僕は生きていた。

 どうして生きているのか解らない。

 途中高い木の枝に引っかかったというのもある。

 何度も何度も引っかかって、それから最後に柔らかいものの上に滑り落ちたんだ。それがクッションになって僕は辛うじて生き残ることができた。

 全身引き裂かれるような激痛が走り、毎秒失神しそうなくらいに血が噴き出て、それ以上に自分の無力さから心が張り裂けそうでも、僕は辛うじて生き残れた。

 これは運が良かったのだろうか?

 いやむしろ運が悪かった。

 なぜなら僕は今、身の丈20メートルはあろうかという巨大なドラゴンの目の前にいる。

 僕はつまり、このドラゴンの背中に落ちたお陰で助かったのだ。

 より正確には、この翡翠色に輝く瞳を持つドラゴンのキバによって噛み砕かれるためだけに生き残ってしまったのだ。

 逃げようにも足に力が入らない。

 余りの恐怖に腰が抜けてるのもあるし、そもそも折れてるのかもしれない。

 どちらにせよ、そんな事は意味を成さないだろう。

 あと数秒、遅くとも1分以内には僕は死ぬ。


 ああ……どうして僕がこんな目に……!!


「腹の立つ顔だな。どこから来た?」


 僕が自分の不幸を憂いていると、ドラゴンが喋った。

 人語を話すドラゴンというのは聞いたことがない。

 もしかしたらドラゴンの中でもかなり高等な種族なのかもしれない。

 そんな事を一瞬思う。


「……!」


 声が出なかったので、代わりに空を指差した。

 するとドラゴンは詰まらなさそうに空を見上げて、


「あの喧しい機械バエから落ちてきたのか。ふむ、ハエのフンの方がまだマシな顔をしているな」


 洞窟を吹き抜ける風のような低い声でボウボウと喋り、再び僕を見た。


「しかし人間を見てこんなに腹が立ったのは久しぶりだ。お前、何か悪いスキルを付与されているだろう?」

「……」


 スキルと言われて、僕は嫌な事を思い出してしまった。

 母さんやユリウスとのこと。

 人生一発逆転を期待したスキル授与で、見事に最低最悪のデバフスキルを引き当ててしまったこと。初対面の人には必ず嫌われるって効果があったから、このドラゴンがムカムカしているのは多分それだろう。

 それから、大衆の面前で女の子に無様に敗北したこと。

 リアーナに見捨てられた事。

 それどころか、大臣から民衆にまで見捨てられて、こうしてドラゴンの居る谷に落とされてしまったこと。

 だれも僕の生還を期待してないことなど。


 ……。

 ……考えているうちに僕もムカついてきたぞ……!!

 あんなスキルを授かったなら、どうして誰も僕を助けてくれないんだ!!!

 王子なんだから、助けてくれて当然なはず!!!

 母さんもユリウスもリアーナも他の皆も!!!

 全部皆が悪い!!!


 僕が黙ったまま内心でそんな怒りをぶちまけていると、


「記憶を読ませてもらおう」


 ドラゴンが目を瞑って言った。

 直後に冷ややかな風が吹き、かと思うとドラゴンの目元から小さな魔法陣のようなものが打ち出されて僕の額の中に入ってしまった。


 なんだ今の……!

 魔法……!?

 ドラゴンが魔法を使えるなんて聞いたことないけど……!

 このドラゴンは魔法を使えるのか……!?


「なるほど。人間らしい凡庸な生を送っているな」


 ドラゴンが目を開けて言った。


 ぼ、凡庸って……!?

 僕、こんなに酷い目に遭わされてるんだけれど……!

 世界一とまでは言わないけれど、それなりに不幸なはず……!


「いいや、大した不幸じゃない。お前を不幸にしている主な原因はお前自身にあるからな。お前次第でどうにでもなる事だ。不幸としては軽度の部類に入る」


 僕を不幸にしているのは、僕……?

 こいつ何を言い出すんだ……!?


 僕は初めてドラゴンを見返した。

 正直言ってムカついたからだ。

 だって僕は皆から散々にイジメられてきたのに、それがどうして僕のせいになるんだ。

 いくら最強のドラゴンといえども、許せない……!


「我に怒りをぶつけるか。面白い」


 すると、ドラゴンの翡翠色の瞳が爛々と輝き出した。

 よくは分からないけれど、なんだか僕に興味を持っているような感じだった。


「しかし、まこと愚かだな。人間というのは自分を欺いて生きるのが好きらしい」

「……自分を、欺く……?」

「そうだ。お前は自分が悪いとは思っていないだろう?」


 一瞬、ドキリとした。

 何故かは分からない。

 物凄く不安になる……!


「お……思ってるさ……! ここに落ちて来る時だって僕はそう思ってたんだ。ユリウスごめん、みんなもごめんって……!」

「口だけだ。なぜなら、自分が悪いと納得している奴はお前のようにウジウジ悩まない。さっさと反省し行動を改めるものだ。ウジウジ悩むのは、ホントは悪くないと思っている奴のすることだ。

 お前が本心ではない行動を取る理由は、恐らく他人に媚びているからだろう。

 それも全ては自分が傷つきたくないからだ」


 なんだろう……!

 このドラゴンに何か言われるたびに、僕の頭が真っ白になる。

 さっきまで考えていた事とか、こいつの意見に対する反論とか、そういうのが毎秒吹き飛んでしまうのだ。

 それだけじゃない。

 決して開けてはいけない心の扉をドンドン外からノックされているような、そんな恐ろしい心地にもなってる。

 出来る事なら今すぐ両耳を塞いで、この場から逃げ出したい……!


「違う……! ……僕は本当に……!」

「本当に悪いと思っているなら、なぜ怒る? 何に怒る?」

「む……無能で愚かな自分に対して……!」

「ふ……!」


 またドラゴンが嘲笑った。

 ドラゴンは爬虫類に近い骨格や筋肉をしている。

 だから人間の顔とは全く違っているはずなのだが、なぜかユリウスの顔が重なった気がした。

 僕の考えなんて全てお見通し、みたいな顔だ。


 くそ……!

 お前みたいな奴に僕の何が分かるっていうんだ……!


 僕は次第に腹が立ってきた。


「無能で愚か……? お前は微塵も自分の事を無能とも愚かとも思っていないだろう。むしろ自分はこんなに優れているのにどうして周囲の連中は認めてくれないのだ、と考えている」

「は!? そんなわけないでしょ! だって僕は事実無能だ! それは誰よりも自分がよく分かってる!」

「確かに無能だと認識はしているだろう。だがその理由を自分だけではなく周囲の連中のせいにもしている。

 例えば自分が無能なのは、生まれながらの才能の無さのせい。才能が無いのに、そんな自分をちっとも顧みない家族のせい、個の強さを尊ぶ環境のせい、などだ」

「僕が他人のせいにしてるって言うのか!」

「違うのか?」

「違う! 僕は自分が悪いって思ってる! だって実際何もできなかったし、それに……!」


 それに……なんだろう……!

 僕に対する皆の仕打ちを思い出すと、段々イライラしてくる……!

 ……。

 僕は悪くない。

 だって、やることやったんだ……!

 もちろん完璧には程遠いけれど、僕は僕なりにやった……!

 なのになんだこれは……!? 

 頑張ったご褒美が死ぬことか!?

 みんなからバカにされて……っ!!!


 家族や大臣、兵士や民衆たちに対する怒りの感情が次から次へと溢れ出て来た。

 僕は堪らなくなって、片手で胸を押さえた。

 涙が溢れて止まらない。


「……で、お前は何をどう頑張って生きてきた?」


 僕が押し黙ってしまうと、ドラゴンが言った。

 またあの全てを見透かしたような目をして。


「い……一生懸命勉強したさ……!!! 出来が悪いなりに頑張ろうとして!! 後は剣の稽古もしたし、筋力を付けるためのトレーニングだってしたさ!! 僕は頑張った!!!」

「そうか。それは他の家族や兵士達と比べてどの程度頑張ったのだ?」

「ど、どの程度って……!」


 ……!

 ユリウスはああ見えて努力家だ……!

 母さんだって死に物狂いで容姿を整え勉強してお后になったんだし、リアーナも魔法に関しての努力は物凄い。

 別にうちの家族じゃなくても、確かに兵士たちだって朝から晩まで稽古してる。この所は特に、近隣諸国の軍事力が増大してるから死に物狂いだった。

 それは民衆も同じ。

 みんなその日を生きるために必死に努力している。

 ……とてもじゃないけど、みんな以上の努力なんて無理だ……!


「ぼ、僕は僕なりに精いっぱいやったんだ! できないなりに頑張った!!」

「精一杯やった? 何をやったのだ?」

「それは……勉強とか、剣の稽古とか……!」

「それは他の奴らはやってなかったのか? 或いはお前の方が何倍もやったのか」

「……!」

「他人と同じことをしていては、他人より秀でることはできない。ましてお前のやってきた事は他人以下だろう。それでは伸びようがないな」

「僕が可哀そうじゃないって言うのか!!!!!」


 僕は我慢の限界に至りつつあった。

 ついに怒りが恐怖を上回り、ドラゴンに向かって泣き叫ぶ。

 すると、


「何を言い出すかと思えば……!」


 ドラゴンはクソ忌々しいトカゲ野郎の分際で、「ふふ……!」愉快そうに僕を嘲笑いやがった!


「何がそんなにおかしい!!!」

「可哀想とかそんな話はしていないだろう。真実を語れ。お前は他人よりもやったのか、それともやっていないのか」

「だって!! 僕には才能が無いし……っ!!!」

「やっていないのだな?」

「……っ!!!! なんでお前はそんな……っ! そんな酷い事が言えるんだよ!? 僕が受けてきた苦痛を考えてみろ!! 可哀そうだと思わないのか!?」


「思わない。お前が可哀想なのはお前自身が選んだ結果だからだ」


 ドラゴンははっきり僕に聞こえる声で言い切った。

 さっきまで張り裂けそうだと思っていた心臓が、増々鼓動を強める……!


「例えばの話、才能がなくともやりようはある。単純に努力を増やしてもいいし、戦い方を変えるのもよい。どうにもならないなら逃げるという手もあった。お前の場合で言えば、もっと早く母親に王位を手放すと伝えるとかな。さっさと引退して、お城で作った人脈で商売でも始めていれば人並みの幸せはあったのだ。それなのに責任を周囲の連中に押し付けて、のうのうと王子様をやっていたから今のこの現実がある。つまり、お前のせいだ」

「そ……そんなの結果論だ……! だいたいうちの親がそんな事許してくれるわけ……!」

「聞いてもないのになぜわかる?」

「……っ!」

「それだ。お前は何事もまずできないと決めつけて動かない。その結果がこれ。もしもお前が才能などと言い訳せず、前向きに行動し続けていれば、もしかすれば母親や、ユリウスやリアーナからも認められていたかもしれんぞ? それが無いと言い切れるか? だとすればその根拠はなんだ?」

「……っ!!?」

「黙るか。つまり、お前は今のままでも王になれる素質はあった。それを自分で潰してしまったという事なのだな?」

「違うっ!!! 僕はなれない!!!」

「なれないのではなく、なれないと思いたいのだ。なぜなら、それを認めてしまえば、自分が何一つとして努力してこなかったと認めざるを得ないから」


 ……!!!!!?????


「だから凡庸だと言ったのだ。お前のような人間はよく見る。みんな自らを不幸だと勝手に思い込み、勝手に死んでいく。それは努力した結果失敗するのが怖いから。努力したのに失敗したとなれば、自分が本当に無能だと認めざるを得ないからな。もっとも、己の弱さを認めそれを受け入れ、その上で失敗した先にしか成功はないのだが」


「そんなのだって、あいつらが悪いんだろうが!!!!?」


 クソドラゴンの言い草に耐えられなくなって、僕はとうとう叫んだ。

 心からの大声に森の木々が揺れ、枝から小鳥たちが一斉に飛び立つ。


 気付けば僕は涙を流していた。

 今まで母さんやユリウスたちにされてきたことが一気にフラッシュバックしたからだ。


 僕は怒りで顔中を真っ赤にしてドラゴンを睨みつけた。

 視線だけでこいつを殺すつもりだった。


「そうだ。その怒りだ」


 するとドラゴンは、そんな僕に対して慈悲深い微笑みのようなものを讃えて言った。


「それが本来のお前なのだ。お前は今までの人生、自分の心にずっと嘘を吐き続けてきた。自分ばかり憎んでいるなどと欺くのはよくない。ちゃんと他人に対しても怒っていると言うべきなのだ。それがお前の本心なのだから」

「……!?」


 僕は戸惑っていた。

 ドラゴンが急に手のひら返しをしたような気がしたから。


 なんだこいつ……!

 わざと僕を怒らせたのか……!?

 自分にウソを吐く人間は、不幸になるとでも言いたげに聞こえるけれど……!


「お前が許せないのは誰だ。我か?」


 ……。

 僕が許せないのは……!

 目の前のこいつも勿論だけど……!!


 僕の脳裏に浮かんだのは家族。

 そして大臣や兵士。

 ロートリアの民衆たち。


「お前だけじゃない……! みんなもだ! 母さんも、ユリウスも、リアーナも、大臣たちも民衆も兵士も、みんなが僕を虐めたんだ!! 絶対に許さない!!!」

「なぜ許せない?」

「だって僕は悪くない!!! やることやってきたんだ!!! 一生懸命勉強した!!! 出来が悪いなりに頑張ろうって!! 剣の稽古だってしたし、筋力を付けるためのトレーニングだってしたさ!! 僕は僕なりに頑張った!!! なのになんだよこれ!? 頑張ったご褒美が死ぬことか!? みんなからバカにされて!! ドラゴンからもバカにされて!! それで死ぬのか僕は!!? そんなの許されないだろう絶対に!!!」


 僕は心のままに吼えた。

 ドラゴンがそれにウム、と頷く。


「そうだな。先には敢えて否定したが、お前が頑張った事もまた事実。お前の努力を顧みなかった家族にも大いに非があるからな。それで、どうする?」

「何があっても絶対にあいつらを許さない!!!!」


 僕は拳を天に向かって高く振り上げ、その場で力強く足踏みして叫んだ。

 腹の底から出た怒りに全身が奮い立つ。


「その意気だ。長年家族から虐げられたせいで、お前の性格は醜く歪んでしまっていた。それが今、本心と向き合ったことで表に出てきたというわけだな。

 お前の本性は怒りだ。

 自らを虐げ、無能だと蔑んできた者たちに対する怒り。

 それをまずは自覚しろ。

 そして自分の為すべきことをなせ」

「僕が……為すべき、こと……?」

「お前は自らの有能さを世に知らしめたいのであろう。自らの有能さを世に知らしめた時、お前は初めて幸福となる」


 ドラゴンにそう言われた時、僕はハッとした。


 僕の……幸福……!?


 そんな事は今までの人生で、一度だって考えたことはなかった。

 毎日、ただ母さんやユリウスたちのご機嫌を伺い、少しでも自分に降りかかる厄災から逃れようとするだけのそんな日々だった。

 だから、自分の幸福が何かなんて考える余裕はなかった。


 でも、今なら思う。

 僕が最強となって、僕の事を無能と蔑んだ母さんやユリウスやリアーナたちを見返し、優秀な大臣や兵士や民衆たちを従えて全世界に覇を唱える王となる姿を。

 それこそが僕の幸せだった。


「ああ……!」


 いつしか僕は感動に打ち震えていた。

 光が眩しい。

 さっきまで暗かった世界が、急に明るくなったような感じがする。

 この森も空も大地も空気さえも、全てが僕の事を讃えているような気がした。


 これが生きるという事なのか……!

 これこそが僕の人生……!


 そんな風に僕が感動していると、


「だが残念だ。それに気付けたお前は今日この場で喰い殺される」


 ドラゴンが言った。

 ついさっきまで翡翠色だった目が炉心のように赤々と光っている。


「っ!?」


 次の瞬間だった。

 僕の脳裏に電撃のようなものが走る。

 それは何か根源的な恐怖と焦燥感が入り混じったようなもので、僕はその感覚に従って咄嗟に横に飛んだ。

 腕の骨が折れていたから、上手く着地できない。

 まるでイモムシのように鼻から地面に衝突する。


 痛い痛い痛い痛いいいい……っ!

 最も痛むのは衝突した鼻じゃない!

 右足の感覚が鈍いんだ!

 見返すと、僕の右腿の一部がズボンごとごっそり削り取られている。

 立ち上がる事すらできない……!


「……!!」


 咄嗟に身を捻り躱さなければ、確実に死んでいただろう。

 それをやったのはドラゴンだった。ドラゴンが大きな口を開けて、僕を噛み砕こうとしたのだ。

 ドラゴンはゆらりと頭を持ち上げ、再び僕を見下ろす。


 く……!?

 今日この場で死ぬ……!?

 やっと自分がやるべき事に気付けたっていうのに……!!

 それなのに僕は死ななければならないと言うのか……!!


「悔しいだろう。だがそれが道理だ。今日までお前は自分を欺き続けてきた。その結果追放され、我の前にエサとして存在している。これに関してはお前自身のせいだ。お前が自らを欺き努力してこなかったツケでお前は死ぬのだ」


 ドラゴンがその洞穴のような喉を鳴らして言った。


「ちくしょう……!! ちくしょおおおおおおお!!!!」


 僕は叫んだ。


「一年あれば!! いや一日でいい!!! あと一日あれば!!! 僕は必ず僕をバカにした連中を見返してやったのに!!!!! 母さんもユリウスもリアーナも!!! 大臣も有力者も兵士も!!! 民衆たちも!!! ドラゴン!!! お前だって倒してやった!!!! 僕は強くなれたんだ!!!! ちくしょおおおおおお!!!!!」


 悔しかった。

 悔しくて悔しくて吼えた。

 やっとやるべき事が解って、これから幾らでも成長できたのに!

 それなのに、僕の復讐を邪魔されてたまるものか!!

 僕はもう何者にも止められないんだ!!!


「ほう。一日で我を倒すか」


 するとドラゴンが言った。

 その嘲るような口調に腹が立った僕は、再度怒鳴り散らす。


「当たり前だっ!!! 倒すっ!!!!!! 倒して見せる!!!! 相手がどんな奴だって構うものか!!!! 僕を無能呼ばわりする奴は全員ブチ倒して見せる!!!!!!」


 僕は叫んだ。

 足の感覚が無くても、意地で立ち上がる。

 両腕で近くの木にしがみ付くと、真っ向からドラゴンを睨みつけた。


 例えどれほどの力の差があろうとも!!

 僕はこいつを倒す!

 僕を酷い目に遭わせた連中、母さんやユリウスやリアーナも絶対に許さん!!!

 全員ブチのめして僕と同じ目に遭わせてやるんだ!!!!


「絶対に許さないからなぁああああああああああああ!!!!!」


 僕は叫びながら、ドラゴンに向かって突進した。

 全身全霊、乾坤一擲の拳をぶつける。

 だが拳はドラゴンの皮膚の表面にぶつかって止まる。

 ドラゴンの鱗は鉄板のような硬さだった。

 殴った僕の拳の方が砕ける始末。

 ドラゴンは勿論、そよ風が吹いた程にも感じていない。

 だがそれでも僕は拳を握り直す。

 絶対に負けない……っ!!


「では一日やろう」


 僕が再度殴りかかったその時、ドラゴンが言った。

 そして僕を噛み砕くのではなく、僕の上着に鋭いキバに引っかけて自身の背中へと放り投げた。

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