第3話、追放の日
スキル授与の日から暫く経った。
僕は今、王国が所有する飛空艇に乗せられて、遠い秘境の上空まで連れてこられていている。
家族はもちろん王国の大臣や将軍たちまで参加する上級会議が行われて、全会一致で僕の追放処分が決まったからだ。
僕の追放理由に関しては以下の二点があげられる。
1,僕が無能にも関わらず、王位継承者としては第1位であり形の上では次の王となってしまうこと。
2,誉れ高きロートリアの家系から無能が出たと噂されるのは国の名誉に関わる。
……。
正直、酷い決定だと思う。
別に追放しなくても他に方法は幾らでもあるだろうに、誰も僕の事を憐れんでくれない。
むしろ『この程度で済ましてやるのか』と会議は紛糾したくらいだった。
母さんがせっかちじゃなかったら、多分もっと酷い事になっていたに違いない。
死刑とか。
だから僕はむしろ皆に感謝しなくちゃいけない。
命だけは助かったのだから。
そして、これからはもう王子ですら無くなる。
僕は事情を知らぬ引き取り手に預けられ、普通の青年として一生を終えるのだ。
それが会議の決定だった。
「どんな気分だ。バルク」
甲板の手すりに腰かけながら、ユリウスが言った。
最早僕は義兄さんですらないらしい。
「俺のこと恨んでるか?」
恨めないよ。
だって全部僕が悪いんだもの。
僕は視線にそんな気持ちを込めて、ユリウスを見返す。
すると気持ちが伝わったのか、
「お前のデキが悪いのがいけないんだぜ? 俺だってお前がちゃんとやっててくれたら、義兄さんってことできちんと立ててやったんだからさ」
ユリウスが言った。
項垂れた僕の頭をぽんぽんと叩く。
まるで子供扱い。
だけど彼が言っている事は正しい。
無能な僕には一切否定する権利がない。
……。
きっとユリウスなら、ロートリアをもっと良くしてくれる。
母さんもリアーナもそう思っているし、大臣から民衆たちまでみんながそう思ってる。
だからこれで良かったんだ。
無能な僕なんかいなくなった方が。
僕さえ居なければロートリアは上手くいく。
「ユリウス様! 【ドラゴンの谷】上空です!」
僕がそんな風に落ち込んでいると、伝令らしい兵士の一人がやってきて伝えた。
ユリウスは彼に向かって、手の空いている兵士たちを全員甲板に集めるように言う。
やがてゾロゾロと兵士達がやってきて、整列姿で並んだ。
皆一様に僕を睨みつけている。
まるで裏切り者でも見るような視線だ。
……?
どうして兵士を呼んだんだろう。
僕はこのままどこかの地に降ろされて、引き取り手に預けられるんじゃないのか……?
「ユリウス……僕はどこの国に追放されるの? 引き取り手は?」
次第に僕は不安になって尋ねた。
すると、
「引き取り手なんかいるわけねえだろ」
ユリウスが言った。
気が付けば、僕の周りを兵士達がぐるりと取り囲んでいる。
その手には縄や棒。
みな路地裏に追い込んだ野犬でも見ているような顔で僕を見て、ニタニタと笑っている。
「ひ、引き取り手がいないってどういうこと……!?」
「義母さんから言われてるんだよ。遠征中の事故を装い、お前をここで殺せってな」
こ、殺……!?
そ、そんなあ……!!
「う、ウソだよねユリウス!? だって僕らは家族なんだよ!? なにも命まで奪わなくたって!」
「家族だから殺すんだよ。醜態を曝してばかりのお前が俺らと同じ家族だなんて耐えられねえから」
ユリウスが途中まで言った所で、真横からの衝撃が僕を襲った。
横に居た兵士に棒で叩かれたのだ。
スキルの効果で倍以上の威力となったその棒の威力は重く、破城槌で体を撃ち貫かれたみたいだった。
僕の体は空中で錐もみしながら吹っ飛び、僕を取り囲む兵士の一人にぶち当たった。
更にその兵士からも拳で殴打される。
「どっどどっ……! どうしてこんな酷いことを!?」
甲板の床に叩きつけられながらも、僕は叫んだ。
「王子。俺らもストレスが溜まってるんです」
「そうそう。王子が余りにも不甲斐ないせいで、近隣諸国の連中がいつうちを攻めにくるか分かんねえからな」
「だから死ぬ前に解消に付き合ってください」
兵士らが言った。
その言葉の最中も棒で打つのを止めない。
二打目で腕の骨が折れ、三打目で口から血を吐き、四打目で内臓がぐるうと音を立てて引きちぎれそうになった。
それでも僕を叩く手は止まない。
痛い……!
痛いいいいい!!!?!
そしてそこから先は、痛みがだんだんと薄れ、代わりにうすら寒い感じ、死の直感が僕の全身を覆ってきた。
もうどこが傷でどこが無事なのかも解らない。
血がドバドバと流れ続けている……!
「よしそこまで。お前らそいつを巻け」
やがてユリウスが指示を出し、僕は縄でぐるぐる巻きにされてしまった。
そのまま海賊に死刑にされる捕虜のように、甲板から突き出た板の端っこに立たされる。
僕はそこから地面を見た。
地面は遥か彼方にあった。
怖いなんてもんじゃない。
それを見ただけで心から震えて、座り込んでしまう。
「ひいいい!!??! ムリムリムリムリィ!!!!?」
どうしようもなく叫ぶ。
すると兵士達が手を叩いて笑い出した。
「ほれ、進め!」
「さっさと落ちろよ!」
「いちにのさん、でバンザイつって飛べ! おら!」
兵士たちが棒の先で僕を突っつく。
再び僕は板の端っこに突き出されてしまった。
「っひっ……っく……っく…ひっひっ……!!!」
僕は泣きながら這いずり、甲板の方に少し戻る。
そしてその場に土下座をし、
「な、なんでもします!! 僕、皆さんの召使いになります!! 奴隷で構いません! どうか! どうか命だけはお助けくださいいいいいい!!!」
僕は、兵士たちに向かって涙ながらに懇願した。
もう恥も外聞も無い。
なんでも良いから生き残りたい。
あの遠くて硬そうな地面を見させられたら、もう心にあるのは恐怖心だけだった。
「「……」」
だけど兵士たちは無視。
冷たい視線をこちらに向けるだけで、誰一人として答えてくれない。
「おい、奴隷で構わないってよ。誰かそのゴミ要るか?」
やがてユリウスが兵士に尋ねた。
「いやー! こんな役立たず奴隷でも要りませんよ!」
「食い扶持のぶんだけ無駄ですわ!!」
「ぎゃはは!!!」
それを聞いた兵士達が僕を嘲笑う。
「残念だな。誰もいらねえって」
ユリウスはそう言うと、板の上に昇ってきた。
怖気づいて一歩も動けない僕の首根っこを掴むと、そのまま空中に突き出す。
ひっ……!?
「ゆ……ユリウスううううう……!! お願いお願いお願いお願いお願いお願いいいいい!!! なんでもするから僕を助けてええええええ!!!!」
「はあ~……ったく、無能なだけじゃなく往生際まで悪いときた。来世ではもう少しマシなもんに生まれ変われよ。ゴキブリとかな。って、ああ、スキルの効果で転生できないんだったか」
そうだった。
僕は死んで生まれ変われる可能性すらない。
「永久に消えろ無能」
そう言ったが早いか、手を離される。
まるで透明で巨大な手に引っ掴まれたように、僕の体は真っ逆さまに地上目がけて落ちていった。
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