第二十八話 おバカな上にめっちゃエッチだ!

「わ、私、レジーナの迷宮は、これから勇者との闘争をする! かの高名な、勇者ヒカルだ! 奴と戦いたい者は私の軍門に下れ!」


 やっばい。やばいやばいやばい~! とんでもない啖呵切っちゃった!

 エイニーちゃんもサガーラちゃんも涼しい表情してるけど、内心めっちゃ動揺してるのが伝わってくる!


 私の今の言葉で、早速惹かれている人がたくさんいた。周囲の者と話し始め、割と肯定的に今の言葉を受け止めているみたいだ!


 う、嘘です嘘嘘! めっちゃ嘘! 勇者とことを構える気なんかない!

 どうにか穏便に逃げるとか、良ければ生き埋めにするとかその程度で、直接戦う気なんか全然ないから!


「てめぇ、今の話本当か?」


 特に敏感に反応していたのは、今エイニーちゃんと対峙しているジュリーさんだ。


 目はガン開き、腕はわなわなと震え、今すぐにでも飛び掛かりそうなほど興奮している。何よりその笑顔! 三日月みたいに大きく広がった口がめっちゃ怖い!


「え、ええ。当然。冒険者が最近、世界樹の森で蜂の巣を調査しているのは知ってる? アレは私たちを狙ってのことなのよ!」


 口調はあくまでも尊大に。普段の私を欠片でも出したら、一瞬で演技だとバレてしまう!


「ガッハッハ! 聞いたかお前ら! このお嬢ちゃんが勇者と戦うってよ!」


 突然大きな声を出し、とんでもく口を広げて高笑いするジュリーさん。そのあとに続いて、巣から出てきた甲碧蜂も大笑いした。森中に、彼女たちの笑い声が響き渡る。


「あ~笑った笑った。……お嬢ちゃん確かに強そうだけどよぉ、ホントに勇者に勝てると思ってんのか? 噂じゃ、Lv1000を超えてるって話だぜ? ランクSのバケモンでもなけりゃ、あんなのに敵うわけないだろ」


 私の発言に対し、ジュリーさんは大笑いした後冷静に穴を指摘した。


 そうだ。そもそも私が勇者に挑んで勝てるはずがない。だからこの話は嘘だと、そう言われてしまえばそれまでだ。


「……本気って表情だなァ。少なくとも顔だけは」


 ジュリーさんはエイニーちゃんを無視して私に近づく。下から上まで掬い上げるように視線を走らせ、私の目を見たところで動きを止めた。


(っていうかこの人! 一瞬もまばたきしないんですけど! めっちゃ怖い!)


「逃げるから足止めをしてくれ、ならわかる。だが一緒に戦えってのは、ちっとわからねェなァ。まあ、足止めしてくれ、なんていう軟弱者に? このアタシらが付き従うわきゃね~けどよ!」


 ドンッ! と、地面をたたき割らんばかりに踏みしめ威圧するジュリーさん。

 一挙手一投足がいちいち怖い! なんでそう、喧嘩腰なの!?


 トントン。私が困っていると、シャルルが脇を小突いてきた。

 これは……例の合図か。はぁ、やるしかないみたいだ。


(とにかく威力を最小限に調整して、効果範囲も限定。周囲の安全確認も忘れずに……)


「『サテライトキャノン』!」


 その瞬間、私たちの視界は真っ白な光に包まれる。

 そして次に訪れるのは、轟音を通り越した衝撃の波。こんな至近距離であっても、やはりその差は歴然だ。


 光によって失われていた視界が戻ると、そこには燃え盛る一本の木がある。

 甲碧蜂の巣の真後ろ。焚火のように燃えるその木が、私の力を悠然と示していた。


(よかった~、消し炭になってない。ちょっと燃えただけか~。甲碧蜂の巣も破壊しなかったし、私もこの魔法を使うのうまくなってきたな!)


 『世界樹の支配者』と『クリエイトダンジョン』を同時に使うことにより、以前よりも飛躍的に強力に、そしてより繊細に扱うことができるようになった、私の究極魔法『サテライトキャノン』。


 私の目の届く範囲ならばどこへでも、『感覚共有』と『感覚譲渡』を使えば、この世界樹の森内部ならどんな場所でも撃てる最強の魔法だ。


 Lv2800オーバーの世界樹から放たれる一撃は、どんな生物であろうと一瞬にして焼き切る。


(いや~大変だった。出力を増大させるのは簡単なのに、減衰させるのってめっちゃムズイんだよねぇこの魔法。私以外に魔法が使える子がいないから、自力でどうにかするしかなかったし)


 とにかくこの魔法はじゃじゃ馬なのだ。ちょっと調整をミスれば森ごとぶっ壊すし、かと言って減衰させすぎるとうんともすんとも言わない。こんな繊細な魔法は嫌だ!


「へ、へぇ~。なかなかやるみたいじゃんか。けど、それでアイツを倒せると?」


「ジュリー、私は『世界樹の支配者』というスキルを持っているの。今のもその一部よ。知ってる? 世界樹アクシャヤヴァタはLv2856なの。Lv1000オーバーの勇者? そんなもの、私の世界樹にかかればイチコロよ」


 胸を広げ仁王立ちで宣言する私に、甲碧蜂の一部から「おお!」という歓声が上がる。

 それを助長するかのように、シャルルとエイニーちゃんが拍手を送った。


「な、なんだと!? Lv2000強!? てめぇ、その力が使えるってのは本当か!」


「だから、さっきから言ってるじゃないの。私は勇者なんかよりもずっと強い。これでわかったかしら?」


 嘘です! めっちゃめちゃ嘘です!


 確かにアクシャヤヴァタは異次元の力を持ってるけど、私は全然! その力の一端すらも引き出せていないんです!


 正直なところ、この『サテライトキャノン』が通用しなかったらもうお手上げなんです!

 本当は世界樹からレベルを吸い上げるとか、スキルを奪うとかできるはずなのに!!


「ハハハ、面白れぇじゃねぇか! ランクDなんか連れてるから弱っちいのかと思ってたがよ、今は育成期間ってことだろ? てめぇについていけば、アタシらもっと強くなれるかもしれねぇ!」


 か、掛かった! 私の挑発に乗ってきた!


「そうか、なら私の実力をもう少し……」


「必要ねぇよ。なぁ女王! アタシはこの巣抜けていくぜ! もっと面白れぇもん見つけちまったからなァ!」


 食い気味に言い放ったジュリーさんに、私は思わず呆けた面を晒してしまう。

 もっとこう、色んな技を見せろとか言ってくるのかと身構えていた。


「フン、馬鹿ね。……アタクシがそんな面白そうなもの、ついて行かないと思ったのかしら!」


 巣の奥から、殊更に美しい女性が現れる。


 セミロングの青髪を良く整え、引き締まった肉体をさらけ出す。ほぼ全裸みたいなレベルの布面積。黒いさらしと下着以外何も身に着けていない!

 その艶めかしい瞳が、今は新しいおもちゃを与えられた子どものように輝いている。


「迷宮蜂の女王レジーナ、と言ったかしら」


「うぇ!? あ、はい!」


 口調に似合わず大股で近づいてくる甲碧蜂の女王。今にも扇子を取り出しそうな雰囲気を醸し出しているのに、下へ目を向ければほぼ全裸。なんだこのアンバランス感は。


「アタクシは甲碧蜂の女王シャノール。貴女面白いことを言うわね。もう、ウチの娘たちをこれ以上強くするのはアタクシじゃ手一杯なのよ」


 妖艶な笑みを浮かべ私の頬を撫でるシャノールさん。花のような香りと悪魔的な微笑み、そして視界の端で溢れんほど存在を主張するおっぱい! もう、虜になってしまいそう。


「だから、アタクシの権限でこの娘を上げる。というか、アタクシも貰って? アタクシのぜ~んぶを上げるわ。この巣も眷属たちもね。だから……アタクシといいことしましょ?」


(はぁ~たまらん! もし私が男だったら、今の一言で完全に堕ちていただろう! いや、それどころか、頬を撫でられただけで昇天していたはずだ!)


 しかし私は、これでも異性愛者。確かに女の子は大好きだが、それはあくまでも愛でたいという意味であって、決して交わりたいとかそういうのじゃない! だが……。


(こ、こんなあっさり群れごとくれるの? こんなぽっと出の私に? この人も女王なんだから、知らないわけがない。『Queen Bee』を使えば、支配した子たちは私に反抗できないこと)


 何か裏がある? この人も馬鹿じゃない。今の安い演技で、私に心酔するほど忠誠を誓うなんてあり得るはずが……。


「考えても意味はないですわ。アタクシたち甲碧蜂はバカな生き物ですもの。強い者に従い命を捧げる。徹底的な刹那主義者。それがアタクシたち甲碧蜂なの。わざわざ無粋な思考なんて、するはずありませんわ。……女王であるアタクシすら、貴女に支配されることを快楽だと感じているんですもの」


 ! この娘たちも、長肢蜂や燕蜂のみんなと同じだ。支配されることに安心を求める。これだけ強い種族でも、さらなる強者に傅きたがる。それが、この世界の蜂……。


「なら、私は最高の支配者でしょうね。貴女を虜にしてあげる。『Queen Bee』!」

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