第六話 世界樹の力やっべー!

 ……迷宮を拡張するって言っても、具体的に何をしたもんかなぁ、とは思う。まず『クリエイトダンジョン』でどこまでのことができるか。それすらもわからないし。


「そもそも、この迷宮暗すぎて話にならないんだよねぇ。まあ触角の使い方も分かってきたからある程度大丈夫だけど、せっかく昆虫の広い視野を持ってるんだから、これを生かさない手はないよね」


 私が生まれた迷宮、暗すぎて一寸先も見えないのだ。これを解決する方法を、何か探さなきゃいけない。


 といっても、世界樹の中で火を使うわけにはいかない。この木が破壊できないって話も、どこまで本当かわからないし。


 当然ながらこんな森の中で電気が通ってるはずもないし、異世界定番の発光する石的なSomethingも、本当に存在するのかわからない。


 まあ、いずれはそういうの作るのも楽しいかな~なんて思ってるけど。


 今最優先すべきは勇者対策! Lv1000超えとかいうバケモンから逃げおおせるための、良い感じの隠れ蓑が必要だ!


「それなら発光魔法を設置するといいぞ、レジーナ。『クリエイトダンジョン』には、各種罠系魔法や、暮らしを良くする生活魔法が備わっているはずだ」


「あ、なるほど~。『クリエイトダンジョン』ってこういうのに使うんだね。よし、とりあえず各部屋に明かりを灯すところから始めようか!」


 え~っと、どうやんのかな?


 たぶん『クリエイトダンジョン』も他のスキルみたいに、感覚的に使えるはずだよね。


 『クリエイトダンジョン』に含まれる発光魔法……あ、これか! なんとなく使える感じがある!


 スキルに意識を向けて、今度は設置する場所を見る。すると、暗かった入り口がたちまち輝きだした。


 光源の類は見当たらない。特に何かが光ってるわけじゃなく、『光』という物体が空中に浮いている感じだ。不思議だな。


 ……てか、『クリエイトダンジョン』は魔法系のスキルだったのね。私魔法が使えないんかと思ってた。よかった~。


 せっかく異世界に来たんだから、魔法くらいばんばか使いたいよね~。


「そういえばシャルル、この魔法ってどのくらい持続するの? 二時間とか?」


「いんや? 世界樹から魔力を受け取ってるから、この規模の魔法ならどんだけ増やしても尽きないぞ。罠系も、今作れるような奴は魔力消費を気にしなくていい」


 ま、マジか! 世界樹すっげー!


 こんな便利な魔法無限に使えるとかマジパねーっすわ! それに罠系統もほぼ無限!? こりゃ勝ち確ですわ! もろたで工藤!


「……どうやら、世界樹に生まれたことの意味が少しわかったらしいな。けど、世界樹のヤバさはそんなもんじゃない。まずもって、防衛機能はほとんどいらないからな」


「え? どういうこと? 罠作んなくてもいいの?」


「言っただろ。世界樹に近づけば、あふれ出す魔力に充てられて気を狂わせると。おそらく元々世界樹から生まれたレジーナと、その眷属である俺たちには効かないんだろう。普通世界樹に近づくことはできても、その時点で頭がおかしくなる」


 ありゃ~完全に聞き流してた。そんな重要事項言ってたっけ? あ、言ってたわ。てへぺろ。


 つまりアレか。ステータスの方は『アストラの承認』以外普通っぽかったけど、本命の転生特典はこの世界樹か~。確かに、迷宮蜂の巣としては最強クラスだ。


「……ですが、油断してはいけませんレジーナ様。勇者ヒカルを筆頭に、レベルの高い冒険者や高ランクの魔物には、世界樹の効果は薄いです。いくら無限に罠を設置できると言っても、勇者ヒカルを足止めできるとは思えません」


 エイニーちゃん……。おとなしそうに見えて、かなり的確な意見だ。


 そうだよね。Lv1000なんて異次元の相手に、私の罠が通用するとは思えない。たぶん、時間を稼ぐことすらできないだろう。


 そしてその仲間たちも、きっと異次元に強いに違いない。もしそんな軍勢に攻められたら、私の巣は一瞬でお陀仏だ。


「わかってるよ、エイニーちゃん。本当にもったいないけど、私はこの迷宮を放棄する前提で作ろうと思う」


「なっ!?」


 シャルルも、この発言には流石に驚いている。


 確かに、世界樹がもたらす恩恵は凄まじい。きっと、これだけではないだろう。何せ、人の精神を破壊するほどの魔力だ。利用価値は大いにある。


 だけど、勇者ヒカルも規格外だ。放棄することが前提。そのくらいの気持ちでかからないと、家族どころか自分の命すら守れない。


「賢明なご判断かと思います、女王レジーナ様」


「ま、そう深く考えることもないけどね~。勇者ヒカルが来るまでまだ時間はあるはずだし、それまでにできることをやろう。本当なら、私だってこの貴重な迷宮を手放したくないんだよ~」


 とにかく今は、できることをやるだけだ。何もしないのは愚の骨頂。行動を起こさなければならない。


 さしあたって今やるべきは……。


「ふっふっふ。有り余る魔力を使って、世界樹をキラッキラにデコレーションしてやる!」


 私は真っ暗な迷宮の中へと入って行き、廊下から部屋から隅々まで発光魔法を施していく。そして……。


「なんということでしょう。今まで暗かったゴミ物件は匠の手によって大変身。木の味が出る、美しい豪邸になったではありませんか。暗すぎて無意味だった最奥の広間は、今や家族全員が集合できるスペースへと変貌を遂げました!」


 某リフォーム番組的なノリを出してみたけど、よく考えたらネットミームで知ってただけで実際観たことないんだよね。ナレーションってこんな大仰な口調なのかな?


「蜂の巣って言うより、こりゃ蟻の巣だな。なげぇ廊下にいくつもの小部屋。まあこの大広間は、でけえ巣を作るには十分な広さだけどな」


 シャルルの言うとおり、この迷宮の構造は蜂の巣というより蟻の巣に近い。階層構造ではなく、奥へ奥へと伸びているのだ。


 正直言うと、私はこの迷宮に不満がある。まったく迷宮というものをわかっていないのだ。

 そのうち魔改造してやる。


「さてさて迷宮内も明るくなったところで、皆さんに今後の方針を伝えようと思います!」


 私は最奥の大広間に眷属21人全員を集め、周囲を見渡しながらそう告げる。


「働き蜂の皆には、迷宮の防衛ではなく周囲の探索と蜜の確保に専念してもらいます! とにかく戦力確保のため、早急に大規模な子育て施設が必要だからです。迷宮の方は、私とシャルルに任せてください」


 チラリとシャルルを見ると、彼はニコリとほほ笑む。


(な、何をヘラヘラしているんだアイツは! べ、別に、アイツとがしたいから巣作りに力を入れるわけじゃない! この迷宮内の戦力がほとんど長肢蜂というのがちょっと申し訳ないだけだ!)


 シャルルはずっと私へ熱い視線を向けてくる。まったく、アイツは恥というものを知らない。


「それと勇者について、今のところ有効な対策は見つかっていません。そのため私は早い段階でレベルアップしランクCに進化。『変身』のスキルを手に入れ人間の街で情報収集をするべきだと思います!」


「それならレジーナ様。わざわざ女王が危険な道を行かずとも、このエイニーにお任せください。レベルの条件はすでに突破しています。あとはアストラ様に認められるだけの功績を残すのみ。ちょうど付近に、ランクBの魔物ワイバーンがいます。ですがまだ進化したてのはず。シャルル様やみんなと協力し入念に準備すれば、勝てない敵ではありません!」


 むむむ、確かにエイニーちゃんの意見はもっともだ。たぶん勇者は、私を狙って攻撃してきてるんだよね。その私がわざわざ人間の街に行くのは危険かもしれない。


 それに勇者は、高レベルの『解析』スキルを持っているはずだ。いくら『変身』と『隠蔽』を併用しても、私が女王蜂だとすぐに看破されてしまう。


 しかしワイバーンかぁ。めっちゃ強そうだし、本当に大丈夫なのかなぁ。


「……却下だな、エイニー。悪いが、ワイバーンは強敵だ。確かに絶対勝てない敵ではないが、巣作りと迷宮改築が重要なこの段階で、大規模な戦闘に人材を割くことはできない。ランクBは別次元の存在だ」


 私が悩んでいると、シャルルが強い語調でそういった。

 けど、エイニーちゃんを責めているわけではない。それはすぐにわかる。


 ……それに、私もシャルルの意見には賛成かな。エイニーちゃんたち家族を危険に晒したくないし。


「ということなんだよ。ごめんねエイニーちゃん。それは却下で。やっぱり、『アストラの承認』を持ってる私がレベリングする方が現実的だよ。それに、勇者の情報を手に入れる手段は、またあとで考えればいいから」


「出過ぎた真似をしました。申し訳ありません」


 うんうん、みんなが意見を出し合うのは良いことだ。上の人間がああせえこうせえって言ってるだけじゃ、組織として三流もいいところだからね。


「他に意見ある人はいるかな? ……いないっぽいね。まあなんか思いついたら、その都度私に相談してよ。とりあえずはこんな感じで。よしみんな! 頑張るぞ~!」


 おお! という掛け声とともに、私の迷宮譚は始まったのだ!

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