第七話 世界樹? ぶっ壊すぜ!

 あのあと私は、長肢蜂のみんなを探索に向かわせ、今はシャルルと二人で迷宮に残っている。


「そんでよレジーナ、迷宮を拡張するって言っても、実際何やるんだ? 放棄するのが前提なら、今の規模でも問題ないと思うぞ」


 ……シャルルの言うことはもっともかな。正直なところ、たぶん第一、第二世代を産むくらいなら全然大丈夫な規模の巣がすでにできている。


 それに、勇者のことを考えるのならば、ここを大きくする意味はない。けど……。


「私は妥協が嫌いな人間なのだよ、シャルルくん。それにここを放棄するとしても、次に迷宮を作るときノウハウがないと困るでしょ? 今できる最大限のことはやるよ。あわよくば、勇者を世界樹とともに生き埋めにする」


「生き埋めって……。言ったよな? 世界樹は『不壊属性』を持ってる。いくら『クリエイトダンジョン』でその属性を捻じ曲げられるからと言って、切り倒せるほどにはならないと思うぞ」


「分かってるよ、そのくらい」


 実は、シャルルに世界樹を鑑定してもらったのだ。所々妨害されている部分もあったけど、世界樹のステータスはざっとこんな感じ。


【種族:世界樹 Lv2856:ランクS 所有者:女王蜂レジーナ アクシャヤヴァタ】

通常スキル:多すぎて判断不能

固有スキル:不壊属性

      魔力生成

      アストラの承認

      その他50個以上

ファミリースキル:バケモンすぎて読めない


 以上! 本当に次元が違う存在、世界樹様のステータスでした。


(って、ガチで規格外すぎる! 勇者もヤバいと思ってたけど、この世界樹そんなにステータス高いんだ! 通常スキルとファミリースキルは100じゃ効かない数あって、流石にシャルルでもわからないし。……転生特典でもらうには強すぎる)


 それに、アクシャヤヴァタってたしか、インド神話系の世界樹だよね。具体的にどんな力のある存在なのかは覚えてないけど、果たしてこの世界樹が私の想像するアクシャヤヴァタと同一かといわれると、なんか全然違う気がする。


 世界樹って言うから、てっきりユグドラシルかと思ってた。まさか、こんなマイナーどころを攻めてくるとは。


(……いや、マイナーどころを攻めてるんじゃない。実際に存在するからそうなってるんだ。だとすると、この世界にはもう何本か、世界樹と呼ぶべき植物が存在するかもしれない。それこそユグドラシルとか)


「にしても驚いた。まさか世界樹も『アストラの承認』を持っているとは。レジーナもすごいが、この世界樹もすごい」


「うん、そうだね」


 木がどうやってレベリングするんだよ、という不躾なツッコミはしないでおく。とにかく今は、勇者対策が最優先だ。


「ねぇシャルル。勇者を罠に嵌めるなら、どうするのが正解だと思う?」


「勇者を罠に? 迷宮蜂の使えるもんでいうと、毒に崩落、閃光、爆撃、あと戦士階級を数百匹集めた超密集必殺空間に真っ逆さま! とかだな。どれも勇者には通用しそうにない」


 はぁ、まったくシャルルはおバカだなぁ。


「シャルルくん、罠っていうのは殺すだけが罠じゃないんだよ。出られなくするのも立派な罠さ。そして君は、さっきうってつけのスキルを力説してくれたよね?」


「ま、まさか……! レジーナ、世界樹の『不壊属性』を利用するのか!」


 ふっふ~ン大正解! シャルルくん一億点!


 そうだ、何も殺すことだけが罠じゃない。殺せないのならば、殺さなくていいのさ。

 人間というのはどこまで行っても人間でしかない。迷宮に閉じ込め1か月も放置すれば、高レベルの冒険者もイチコロだ。

 

 それに、私には美学がある。そう、迷宮の主としての美学だ。


 迷宮とは、迷路と同じ言葉ではない。


 迷路は様々な分岐の後にゴールが存在する。つまり、外と接する場所が二か所あるのだ。


 しかし、迷宮は一本道だ。分岐のない長い道を延々と歩かされ、さきほど通ったのではないか、実は隠された分岐路があるのではないかと疑わせる。……そしてたどり着いた先に、出口はない。


 迷宮とは罪人や化け物を閉じ込めるための場所であり、お宝の詰まったハッピープレイスではないのだ。


 私はこの基本的な理念に従おうと思う。迷宮の主になった以上は、この世界樹を迷宮として完成させて見せる!


 閉じ込められているのは、私たち異形の怪物。それらが世に放たれないようにするための、牢獄というべきだ。


(ま、実際はガンガン外に出るけどね~。なんなら閉じ込めるための機能がそのまま侵入者を撃退しちゃうし)


 そうと決まれば私の行動は早い。まずは『クリエイトダンジョン』のお手並み拝見だ。


「おお、おお! これはすごい!」


 まるで砂でも掻き分けるように、何の障害もなく掘り進めることができる。それに、効果範囲もかなり広い。


「ま、マジか……。『不壊属性』を持つ世界樹をこうも容易く……。これも、世界樹に生まれた女王の特権……っておい! どんだけ広げるつもりだ!」


 調子に乗って私は、蜂から見ればとてつもないサイズまで通路を拡張していた。さっきの集合場所まで貫通してしまっている。


「ま、これはこれでアリだよね。どうせ広くするんだし」


「広くするって……蜂である俺たちにこんな体積必要ないだろ。いったいどんだけでかい巣を作るつもりだよ」


「どんだけって、言ったじゃん。勇者を生き埋めにするって。だから勇者が普通に入ってこれるくらいにはでっかくするよ。それに、入り口の穴から水とか火とか入れられたら、普通の蜂の巣サイズじゃすぐゲームオーバーだよ~」


「な、なるほど」


 というわけで、私は人間が数人並んで入れるくらいの通路をどんどん掘り進めていく。世界樹の外側から内側に向かって、円を描くように。


 あえて悪い表現をするなら、とぐろを巻いたう◯こみたいな形だ。


 そして各所各所には、蜂だけが入れるサイズの穴と、一般的な蜂の巣サイズの空間も用意した。


 いくら蜂が移動能力に優れていると言っても、この迷宮は円を描く構造。必然的に移動距離が増すのだ。だから、各所に巣を設置できるようにした。最奥は一番移動速度のある、高レベルの巣ということになる。


「にしても『不壊属性』って便利だよねぇ。こーんなに穴ぼこだらけにしても崩壊の心配がいらないなんて! 世界樹様さまだ~」


「せ、世界樹にとんでもないモノができてしまった」


 シャルルは今まで神聖視していた世界樹の破壊に対し、どこか受け入れられない様子だ。というか、私の計画に少し呆れている様子もあるな。


「……はっ! レジーナ聞いてくれ! 世界樹は『魔力生成』というスキルを持っていて、この周辺の魔力はほとんどこの世界樹が生産しているんだ! もしこの迷宮によって世界樹の活動に悪影響が出たら……!」


「う~ん、大丈夫でしょ。樹木ってさ、ほとんどの細胞はもう死んでるんだよね。樹木は死んだ細胞を排出できないから、その身に抱えたまま成長する。生きてる場所を壊さなければ、『不壊属性』を持つ世界樹が死ぬことはありえないはず。私もその辺、ちゃんとわきまえてるから安心してよ」


 シャルルは意外そうな顔をしてるけど、私はこれでも、勉強はできる方だったのだ。このくらいの知識はある。


 にしても世界樹、そんな重要な場所だったのか。アレだ、地球でいうアマゾンみたいな。


 地球上の酸素はかなりの割合がアマゾンで生み出されている。『地球の肺』なんて呼ばれてた。

 たぶん、この世界樹もそういう感じなんだろう。


「ま、気にすんなよシャルルくん! さあ、この調子で二階を作るぞ~! 一階は全部、毒沼の罠を仕掛けてやる! げっへっへ!」


「ちょ、もう十分だろ! これ以上世界樹を壊さないでくれ~!」

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