第五話 勇者バケモンか!?

 あの後、私はシャルルが追いかけまわしていたメス蜂のところへ行った。当然、あの娘も仲間にするためである。


 シャルルは言っていた。『Queen Bee迷宮蜂』は見たことがあるけど、『Queen Bee』単体では見たことがないと。もし私の予想が正しいのならば……。


 見事! 私の予想は的中し、先ほどのメス蜂を仲間にすることができた。


【種族:長肢蜂ナガアシバチ Lv30:ランクD 階級:働き蜂 エイニー】

通常スキル:加速

      隠密

ファミリースキル:毒創造

         感覚譲渡

         共通言語


 この子の名前はエイニーちゃん。私よりもずっと強い、Lv30で長肢蜂の女の子! まあアシナガバチみたいなもんかな。


 にしてもやっぱり、『Queen Bee』は種族が違っても蜂系統なら眷属にできるんだ。普通の女王なら、迷宮蜂しか仲間にできないんだろうね。


「私を眷属にしてくださり、ありがとうございます。女王レジーナ様。巣が冒険者に駆除され、困っていたのです」


 眷属になったことで、この子にも共通言語が発動するようになった。これでコミュニケーションが取れる。


「そうだな。俺もどうにかしたいと思っていたが……レジーナの配下になるというのはベストな選択かもしれない」


「え? シャルルこの娘を襲ってたんじゃないの!?」


「何を言うんだ。俺のスキル『強制受精』と『限界突破』で、彼女を女王に昇格させようと思っていたんだ。俺のスキルは、種族違いでも子を宿らせることができる。働き蜂からの昇格は修羅の道だが、巣を失った集団に未来はないからな」


 シャルルは私に対し熱く語る。その視線と表情に、色欲の類は一切感じなかった。というよりもむしろ、あふれ出る誠実さと正義感を感じる。


 か、勘違いをしていた! シャルルDQNなんかじゃない、めっちゃいい奴じゃん!


「見直したよシャルル! シャルルは強いだけじゃなく、優しいんだね。……あでも、あの話しかけ方はダメだよ。怖がっちゃうし」


「な、なんだって!? 俺なりにフランクな話し方だと思っていたのに、怖がらせてしまったとは。悪かったなエイニー。謝罪させてくれ」


 シャルルはまっすぐな視線をエイニーに向け、そのまま頭を下げる。もう、金髪DQNには見えないかな。


 にしても、アシナガバチに頭を下げる青年という構図も、なかなかシュールなものだね。


「か、顔を上げてくださいシャルル様! シャルル様の善意を無下にしたのは私です。それに、巣が壊滅させられたのも女王が殺されたのも、すべて私たち働き蜂の至らなさが原因ですから。お二人が気に病むことは何もありません」


 う~ん、人間にとっては普通に蜂の巣を駆除しただけのつもりだろうけど、蜂側の目線に立っちゃうと、やっぱりこっちの味方がしたいかな。


 ん? てかおかしくない? ここから見える範囲に人間の集落とか見えなかったし、さっき「冒険者」って言ってたよね?


 てことは、結構大きな組織が動いてるってこと。そんな組織があるような街、近くにあったら絶対に気付く。つまり……。


「……人間たちは生活を守るためじゃなく、何らかの利益のために巣を破壊しに来た。そう考えるのが自然だね」


 例えば自分ちの屋根に蜂の巣ができたら、それを取り除こうとするのは当然のことだ。だって蜂は危険だし、めっちゃ怖いから。


 けど、わざわざこんな森の深くまで入って巣を破壊するなんておかしい。


 ハチミツが目的? なら長肢蜂なんて小規模な巣を作る蜂じゃなくて、もっと大きな巣を作る種類を狙えばいい。余計に人間たちの目的がわからないなぁ。


「人間の街で、噂になってるのを聞いたことがある。勇者ヒカルが近くに来てるんだって。彼が言うには、『異世界の門が開く兆候あり。蜂を操る女王となる……』って、予言的な何かが出たらしい。たぶんだけど、そいつを始末しに来たんじゃないか?」


 ……ほえ? そ、それって、もしかして。いや、もしかしなくても!


「始末しに来たんじゃないか? っじゃなーいッ! 勇者ヒカルが来る!? 噓でしょ! ちょ、ちょっとシャルル。あんた勇者ヒカルに勝てる!?」


 勇者って、さっきシャルルの話に出てきた現行の最強種でしょ!? そんな奴が来たら……。


 これを聞いたら、流石にじっとしていられない! 頭が混乱してる自覚はあるけど、私はシャルルに詰め寄った。


「ちょ、いきなりなんだよ。勝てるわけないだろ! さっきも言ったけど、アイツはランクS。噂じゃ、Lv1000を超えてるらしい。俺なんかが戦っても一撃で消し炭にされちまうよ!」


 お、終わった。私の異世界ライフ、こんな序盤で詰んでしまった。


 ……いや、こんなところで終わらせない。終わらせてなるものか!


 っていうか、Lv1000って何!? バケモンすぎるでしょ! 私の千倍とか、もう話にならないよ! Lvの上限って普通100とかじゃないの!?


 あ、進化はLv30ごとだから、上限が100のわけないか。……って! そんなことはどうでもいいッ!


「とにかく大急ぎで強くならないと! 勝てなくても、せめて逃げ切れるぐらい強くならないと、私の蜂生ゲームオーバーしちゃう!」


「それなら、巣を失った長肢蜂を仲間にするのが良いでしょう。私のように。眷属は多い方が、効率よくレベリングができますよ。女王レジーナ様」


 落ち着いた様子で、エイニーちゃんが提案してきた。この娘も巣を壊滅させられているのに、元人間の私よりずっと大人だぁ。


 そうだよね。現実的な話をしよう。私は自称現実主義者なのだ!


「よし、エイニーちゃん! あなたの仲間がいるところまで連れて行って。きっと困っているだろうから、まとめて私が面倒見てあげる! 当然、見返りは期待してるけどね!」


「はい、もちろんです!」


 エイニーちゃんに連れられ、私とシャルルは森の中を進んでいった。


 木の密度が高い場所は人間の姿だと面倒だからって、シャルルは蜂の姿に戻っている。


(……私の感性がバグったのかな。蜂の姿なのに、シャルルがかっこよく見える。……いや! いや? あんなのただの蜂だし! ちょっと……めっちゃ私より強くて頼もしいけど、全然かっこよくないが!? むしろ肢六本あってキモいし!)


 まあ、肢六本は私も同じだけどね。


 ……エイニーちゃんに案内された場所には、数匹の長肢蜂がいた。女王を失い巣を失い、路頭に迷っている娘たちだ。


「全員面倒見るって決めちゃったしね! 『Queen Bee』!」


 ……その後も周囲にいる長肢蜂たちを仲間にし続け、私たちは迷宮へと帰ることにした。


 どうやら破壊された巣はひとつだけではなかったようで、結局20匹もの長肢蜂を眷属にすることになったが、まあそれは良い。仲間が多いのは良いことだ。問題は……。


「な、なんということだ! レジーナ、ここが君の巣で間違いないんだな!?」


「うん、そうだよ。さあ入って入って~」


 巣に着いたとき、なぜか私以外のみんなが凍り付いて動かなくなってしまった。皆一様に、上を見上げ驚愕している。


「レジーナ。一応聞いておくが、ここがなんと呼ばれているか、当然知っているよな?」


「はえ? 知らないよ。私今日目が覚めたからね」


 シャルルはいったい何を驚いているのか。確かに迷宮蜂は地中に住む種類だけど、別に木の中に迷宮があってもいいじゃんね。こんなに大きいんだから。


「……本当に何も知らないんだな、レジーナは。良いか、これは世界樹と呼ばれている木なんだ。この『世界樹の森』の中心にして、原初の植物とされている! 何人たりともこの木を傷つけることはできず、あふれ出す魔力で頭が狂うという場所だ!」


「え? でも、私が気付いた時から、あそこに穴があったよ。それにホラ、皆だって気狂いにはなってないでしょ~。大げさだよシャルル。古いものは廃れていくものさ。ふっ」


「レジーナ。マジで、世界樹に穴空けて生まれたってことの意味、全然分かってないな……」


 シャルルはまだ何か不服そうだけど、家族が一気に21人もできたんだ。それに、勇者対策もしなきゃいけない。


「ちっちゃいことは気にすんな~。ホラ、迷宮拡張しなきゃいけないんだから、早く来て手伝ってよ~」

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