第43話 ハイタッチ
無人兵器は闇に潜んでいた。
当初は交戦せずやり過ごすつもりだった。潜伏に気付かれ、やむを得ず戦闘行動に移行した。
相手は十人。一機では袋叩きに遭う。全員を相手するのは不可能。早々に分割して撃破する方向性に定めた。
この辺りのマップ情報はデータとして存在する。人間の足では、トンネルを介する他に撤退できないことも知っていた。
そこでトンネルを確保した。日の光が差し込まないトンネル内は、潜伏にはもってこいの場所だ。
明所から暗所を見るのは難しい。光源が外にある限りこの優位性は崩れない。夜のトバリが下りても暗視スコープがある。人間の目では見えない光も問題なく視認できる。
先程言い争いの声も聞こえた。敵は仲間割れを起こすほど追い込まれている。勝手に殺し合いを始めそうな雰囲気だ。いっそ放って撤退するのも有りかもしれない。
事が起こったのは、その結論を出した時だった。
思考を妨げたのは地響き。ポロポロと上から何かが落ちてくる。外で破裂音が連続している。爆薬によるものだろうか。外でズシンと大きな物音がした。
振動。破裂音。トンネル。
生き埋め。至急的速やかな避難を推奨。反対側の出口へ抜ける前に崩落すると推測される。取れる選択は一つだ。
◇
「さあ、出てこい」
樹木の陰で佐上さんがつぶやく。
佐上さんの秘策は至ってシンプルだ。高所に岩を用意し、佐上さんが爆竹を鳴らしてから岩を地面に落とす。爆発でトンネルが崩落する、無人兵器にそう誤認させるのが目的だ。
佐上さんを敵視していた同僚も、今は佐上さんに手を貸している。現状唯一生き残れるかもしれない策だ。乗っかる以外の選択肢はない。
私も同じ。ハンドガンを握る手に力がこもる。
さあ出てこい、出てこい。
出てこい――!
「――出た!」
深緑のボディが夕焼けを反射した。ためらわずトリガーに指を掛ける。
爆竹はもうない。相手も無傷のトンネルもどきを見て、爆弾ではなかったことを看破するだろう。
同じ手はもう通用しない。ここで仕留めきれなければ終わりだ。
金属音が響き渡った。
弾は当たったけど浅い。銃身がゆがんだだけだ。
装甲をへこませるだけじゃ足りない。無人兵器を止めるには、
らちが明かない。
「佐上さん、前に出よう!」
「よし来た!」
私は樹木の陰から飛び出す。近付くのは危ないけど、再びトンネルに引っ込まれたらどのみち全滅する。だったら危険を
敵も撃ち返してきた。耳元で風切り音が通過する。怖い、足を止めたい。噴き上がる衝動に蓋をして疾走する。
誰かの弾が履帯に命中した。不穏な音に遅れて、無人兵器の移動スピードが低下する。
「おりゃっ!」
佐上さんが跳躍した。後ろ回し蹴りが円筒部位にヒットし、無人兵器の照準をくるわせる。すぐさま後ろに回り込み、無人兵器を羽交い絞めにして履帯を地面から離す。
「玖城!」
「うん!」
万が一にも誤射は許されない。スライディングして距離を詰め、装甲の隙間に銃口を突っ込んでトリガーを引く。
バヂィッ‼ 乾いた破裂音に次いで、ショートした音が聴覚を刺激した。
無人兵器に灯っていた光がすーっと消える。殺人兵器が無害な瓦礫と化した瞬間だった。
「や、やった!」
達成感と歓喜が泉のごとく湧き上がる。周囲で歓声が上がった。
「な? 役に立ったろ爆竹」
佐上さんが満面の笑みを浮かべる。
嫌味のない無邪気な笑顔。思わず苦笑で応じる。
「もう、調子いいんだから」
あまりにも大胆で相手任せの策。次同じことをしても、同じ結果が得られるとは限らない。
だけど今回は上手くいった。全部佐上さんの功績だ。今までのあれこれには目をつぶって労うのが筋だろう。
「ねえねえ、アレやろう。手を打ち合わせるやつ!」
「いいよ」
ハンドガンをホルスターに収める。
右腕を掲げて――。
「いえーいっ!
いえーいっ!」
手の平を打ち鳴らす。ハイタッチして勝利を祝った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます