第4話 この世界のためにできること

「お話したいことがあります」


昨日、メイにそう言われた。


「どうしたの、メイ。」


メイはベッドに座っているあたしの横に腰掛けた。


「アオイ様はなぜ魔族と人間の間で

戦争が起きているのかご存知ですか?」


「知らない」


「実は魔王陛下のお父様は勇者アデルによって殺されたのです。」


「!!」


あたしは思わずメイの顔を見る。

メイは悲しそうに目を伏せた。


「ホントなの?」


「はい。本当のことです。」


それから、メイはアデルとロイスのことを

全て話してくれた。


ひどい……人の話を信じないで、ロイスのお父さんを殺すなんて。


魔族たちが血を流し、倒れている姿が脳裏によぎる。


それに関係の無い人まで殺すなんてどうかしている。


「ですから、アオイ様、どうか王妃となって、この国と民をお守りください。」


祈るようにあたしの手を握るメイ。

その手は微かに震えていて胸が痛くなった。


どんなに怖かっただろう。


「もう大丈夫だよ」

あたしは、メイを抱きしめた。


月が見守る夜。

あたしはこの国と民を守ると決めたんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あたしは目の前のアデルを睨みつける。


「ロイスの話を聞こうともせず殺そうとするなんて!それに魔族だって悪人とは限らない!」


「アハハハハハハハ」

ロイスは狂ったように笑う。


「何がおかしいのよ」


「お嬢さん、随分と魔王のことを

信頼しているようだね。彼は人々を恐怖に陥れ、

殺したんだよ。それでも、君は魔王のことを信じるのかい?」


「そんな噂話信じない」


あたしはロイスに向き直った。


「ロイス、あたしと結婚して」


まさかの逆プロポーズにみんな呆然としている。


ロイスは吹き出した。


ここに来て初めて笑ったロイスに胸がときめく。

あたしの心に何かが芽生える。


「普通は男性から言うものなのだが……」


「で、返事は?」


「イエスに決まってるだろう」

照れ臭そうに笑うロイス。

メイは顔を真っ赤にしている。


「結婚するだと?笑えるな」


アデルは炎の剣でロイスを突き刺そうとする。


ロイスはそれをひらりと躱し水を出現させ

炎を消火した。


「ちっ」

アデルが舌打ちする。


そして炎の鳥をロイスに向けて飛ばす。


「ロイスッ」


あたしは思わず声を上げる。


ロイスの魔法で水の龍が現れ炎の鳥を飲み込んだ。


炎の鳥は跡形もなく消えた。


だけど、アデルは数えきれないほどの炎の鳥を

放った!


「きゃっ」


危ない!


メイに炎の鳥がぶつかりそうだ。


あたしはメイを庇って前に出る。


すると、何かに弾かれたように炎の鳥は

跳ね返された。


「なに、今の……」


もしかして、聖女の力ってやつ?


「アオイ様、ありがとうございます」

メイが頭を下げた。


ロイスとアデルは睨み合い、攻撃を続けていた。


その光景に戦争で死んだ人々の姿が思い起こされる。


「もうやめて!!!」


気づくとあたしは大声を上げていた。


彼らは、攻撃の手を止めた。


「何の罪もないロイスを攻撃しないで。

このクラウディウス王国では罪もないたくさんの人たちが死んでる。どうして、そんなことするの?」


「決まってるだろう、魔族は悪だからだ。」

冷たい目をするアデル。


するとメイが何やらロイスに耳打ちした。


「なんだと? アデルが、実の両親を……?」


メイが頷く。


「なんだよ、コソコソと」

苛立った様子でアデルが言う。


「今、入ってきた情報だ。

貴様は実の両親を殺したそうだな?」


ロイスの顔が歪む。


実の両親を殺した……?


「どういうこと?」

あたしはアデルの方を見る。


「……バレちゃったか」


アデルはにっこり笑う。

その笑顔に背筋が凍る。


「そうだよ。僕は実の両親を殺した。でも仕方ないだろ?地位や権力、人気を手に入れるには、魔王に両親を殺された哀れな少年を演じるしかなかったんだから」

サイテーだ。

実の息子に殺されるなんて、アデルの両親は

思いもしなかっただろう。


「ひどい」


「己の罪を父上になすりつけるな!!」

ロイスが憎々しげにアデルを睨みつけた。


「アデル……あなたは許されないことをした。

今からでも自首しなさい」


「うるさい!!お前も殺してやる!」


アデルは血走った目で炎の剣を持って突進してきた。


刺される!


そう思った瞬間、


ロイスがあたしを抱きしめた。


「……ロイス?」


「うぅっ……」


ロイスの背中を触ると、濡れていた。


おそるおそる、手のひらを見ると、血で濡れていて。


彼はあたしの腕の中で気を失った。


「ロイスッ!!」


「陛下!!」




















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