第7小節

 夜の街にはポップスが溢れている。


 カラオケや商店の音楽は、濁った音で形作られている。


 灯里の耳には毒よりも身体に障るものだった。



 灯里は十月も終わりを迎える街を、一人歩いていた。


 コンビニに立ち寄り、目的のあんまんを手に入れる。



 冬になるとあんまんを求め、夏になるとかき氷を求める。


 ストレスを溜めない事が、コンディションを保つ事の一番の策である事を自分でよく知っている。


 体力も精神力も使う運動の途中に、こういった甘味を取り入れるのは灯里なりのルーティーンでもあった。


 コンビニの前であんまんを口にしながら、時計を確認する。


 もう少しでレッスンの時間だった。


 自由になる時間は自由に過ごしたいと考えるが、結局のところ、灯里は自由な時間もピアノの事を中心に置いてしまうのだった。


 この日も、音を探して街中を散策する。


 レッスンの時間まで、あと数分だけある。


 その数分も無駄には出来ないと、探しものをする。


 先日見つけた音を求め、街を歩くと、目の端に天音を見つけた。


「天音ちゃんだ……」


 灯里は天音に声をかけようとした。


 ところが、天音の手には小さな猫が抱えられていた。


 子猫の手には傷があり、天音に訴えるように鳴いている。


 天音は人間だけでなく、動物にも関心がない。


 そんな天音の手に、猫が抱えられている事に違和感を覚えた。


 灯里は天音に声をかけるタイミングを見失い、行方を見守っているうちに時計のアラームが鳴ってしまった。


「あ、レッスンの時間だ……」


 天音の行方を見届けたい気持ちを押し殺して、灯里は帰路についた。

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