第3巻 小説版水星の魔女(3)感想・パーメットスコアの区別がついたかもしれない
月日が経つのは早いもので、2023年11月25日に、水星の魔女のノベライズ3巻が発売されました。予約していたので比較的すぐ手に入れることができたのですが、カクヨムユーザーはお馴染みのイベント、カクヨムコン9を間近に控えたタイミング。しかも今回、私はカクヨムコン参加作品のストックが充分でなく、常時自転車操業での対応を強いられることになりました(自業自得)。ゆえに到底本書を読むことは叶わず、手を付けることができたのは年が明けて2月の末でした。
中を開けてみると、本書にはアニメ版第8話から第12話までのエピソード及び、オリジナルエピソード3が含まれています。これでシーズン1が終わりなので、シーズン2と併せてノベライズ版は全6巻である可能性が高くなりましたね。本の形式が違うので一概には比較できませんが、角川スニーカー文庫からノベライズされた機動戦士ガンダム00は、ファーストシーズン全25話で3巻だったので、同じエピソード数で倍の分量を割いていることになります。それだけ、追加で補足すべき情報が多かった作品と言えるのではないでしょうか。
やはり、水星の魔女は全4クール、50話編成で作っていただきたかった感があります。時間が経てばたつほど、「あの辺情報不足だったよな」とか「キャリバーン唐突すぎたよな」とか、話数が長ければ解決したであろう疑問点が噴出してきているのでせめてノベライズ版にて、ある程度の補足をしていただきたいと考える所存です。
前置きが長くなりましたが、早速本編へと参りましょう。
※(感想置き場全体がそうですが)本編8~12話およびノベライズ版オリジナルエピソード「星群をみつけて」のネタバレを含みます。未読の方はご注意願います。
◆全体の感想
・各話の扉下にシェイクスピア作品からとった一文が掲載
第一巻に引き続き、それぞれの話数が記された扉ページの下部に、シェイクスピアの戯曲からとられた一文が掲載されています。今回の引用元は『ヘンリー六世 第2部』『リチャード三世』『アテネのタイモン』『ジュリアス・シーザー』『テンペスト』『恋の骨折り損』となっております。一応下記の通り予想してみました。第2巻よりは自信のあるものが多いです。個人的に、第10話の引用は「水星の魔女」の世界観を色濃く反映しているように感じられてお気に入りです。そして遂に、「水星の魔女」の元になったと思しき『テンペスト』の引用が登場しましたね。既読の方のコメントをお待ちしております。
第8話 =ベルメリア
第9話 =シャディク
第10話 =シャディク(内容はプロスペラっぽいが10話には登場しない)
第11話 =ソフィ&ノレア
第12話 =プロスペラ&スレッタ
オリジナルep3=ユーシュラー
◆個別感想
・興味深い「強化人士」の解説
p58、第9話の扉の裏に「強化人士」の解説が載っています。抜粋すると、「GUNDフォーマットのデータストームへの耐性が高い人間から選別される」「バイオ・ナノテクノロジーによって身体を改造された人間」だとされています。ここから読み取れることがひとつ。それは、データストームへの耐性には個人差があるということです。もちろん、それはprologueの時点で示唆されていたことではあります。エルノラ&エリクト母娘は耐性が高かった。だからエルノラはヴァナディース機関の一員としてテストパイロットに選ばれていたのだし、エリクトはそんなエルノラですら突破できなかった「レイヤー33」をクリアしてルブリスを起動させることができました。
しかし、データストーム耐性が高い人間がこの母娘だけだと、二人がヴァナディース機関で何らかのGUND手術を受けていて、その影響で耐性が付いていた可能性も否めませんでした。しかし強化人士の説明からは、そうではなく「データストーム耐性には広く個人差が見られる」ということがわかります。
となると、先の話になりますが最終話にて、プロスペラやスレッタの周りに現れた死者たちは皆、「データストーム耐性が比較的高かった人々」なのではないかという風に思えてきます。確かあそこにいたのはエラン(4号)とソフィ&ノレア、それにナディムとウィンディ、ナイラでした。彼らの共通点は皆、ガンダムのパイロットだということ(ナイラは搭乗シーンがありませんが、ナディムとウィンディの会話からしておそらく、「ガンダム・ルブリス 量産試作モデル」の本来のテストパイロットだと思われます)。
皆出自は違えど、パイロットとしての選任基準が「データストーム耐性が高いこと」だったのであれば、エアリアルらが生み出した空間で彼らが邂逅したことにはなんらかの意味があるように思えてなりません。単純にスレッタやエルノラ(プロスペラ)にとって都合のいいメンバーが現れたのではなく、データストーム耐性が高かったメンバーだけが、あの空間に存在できたのではないか。カルド博士が現れなかったのがその証左です。エルノラの心を取り戻すために最も効果的なのは、博士の言葉だったでしょうから。そんな博士が現れなかった理由として、このデータストーム耐性の有無があるのであれば納得できます。この話は終盤も終盤なので、からくりが明かされるかどうか楽しみにしています。
・トマトの描写、もうひとつの意味
第9話のトマト描写といえば、最後にシャディクがミオリネに遅すぎる想いを伝えたとき、ミオリネが切り落とした青いトマトの印象が強いです。しかし、本話ではもうひとつ、トマトエピソードがあったのでした。私はすっかり失念していたのですが、文章ではっきり示されていると意識させられますね。
それというのが、グラスレー寮との決闘前、シャディクがミオリネの温室を訪れ、決闘を辞めさせようと説得するシーン(p76)です。温室ではミオリネがトマトを並べているのですが(それすら私は忘れていました……)、こう描写されています。
「五つまとまったトマトのうえに置かれた一つのトマト、そしてその向かいには二つ――グラスレー寮の六人と、スレッタとチュチュのふたりに見立てているのだ」
たったこれだけの描写ですが、色々と意味がくみ取れます。まず、ミオリネはグラスレー寮の六人の関係を対等に見ていないが、スレッタとチュチュに関してはそうではないということ。 これは、戦闘能力の差ではなく、信頼関係の差を測っているのではないかと推察されます。
グラスレー寮はシャディクが孤高の存在で、シャディクガールズ五人はそれを支えるため戦術的な連携能力は高いが、信頼関係という意味では実は薄い。戦闘能力において抜きんでているシャディクが、ほかの五人を信用していないからこそ五対一(一個だけ高さが違う)という関係性になっている。対してスレッタとチュチュは戦闘能力的にはスレッタのほうが明らかに上(機体性能の差の問題な気もしますが)でありつつも、スレッタはチュチュのことを「チュチュ先輩」と呼び、後輩ですが一定の敬意を払って接しています。だから大将戦になったとき、地球寮チームは「スレッタが他のみんなを信頼して任せることができる」が、グラスレーチームは「シャディクがガールズを信頼して任せられない」。そこに勝機があると考えた上でのトマトの配置だったのではないでしょうか。
これは、全て決闘終了後のミオリネのセリフ、「結局、あんたは誰も信用してないのよ(p110)」を踏まえた予想に過ぎませんが、他の四人のパイロットすら決まっていないこの時点でミオリネはグラスレーに対して勝ち筋を見出していたのではないか、と感じさせられるシーンです。
また、このときのトマトの色が何色だったのかも非常に気になります。全部赤だったのか、青いトマトがあったのか。ことシャディクにおいては、トマトとミオリネの心情が強くリンクしている傾向にあります。故にこの時点でシャディクを表す「一つのトマト」の色が何色だったのかは、気になりますね。小説版では描写されていないので、アニメを見返したいところです。時間があれば第9話を見返して追記しておきます。もし、私より先に見返した方がいたらこっそり教えてくださいm(__)m
・「エアリアルの操作がマニュアルモードになった」(p101)の意味
――ガンビットの操作だけ? それともエアリアルの操縦すべて?
私が水星の魔女の戦闘シーンで最も好きだと言っても過言ではない、第9話のグラスレー戦。もっとも好きなのはチュチュ先輩のラストシューティングなのですが、ここで着目すべきはアンチドート→エアリアルの再起動です。元々ここは、アニメ視聴時から違和感を抱いていた部分でした。
というのも、12話でソフィが「アンチドートで無効化できるのはパーメットスコア3まで」と言っています。しかし、対ファラクト戦でエラン(4号)がガンビットを展開させる際に「パーメットスコア3」と言っています。ファラクトのスコアをエアリアルにそのまま当てはめていいのだとすれば、常時ガンビットを使っているエアリアルは、1話の時点で「パーメットスコア3」だったということになります。
そして、9話の決闘後に回収されたエアリアルの前でプロスペラは、「エアリアルはパーメットスコア6に達している」と言っていました。第9話で決闘中のエアリアルは一度アンチドートで活動を停止し(=スコア3)、青い光をまとって復活(=スコア6)しました。では、スコア4・5は具体的にどの状況を指すのか? おそらく青い光をまとって再起動した時点では実はスコア4で、4~6には明確な差があるのではないかというのが私の現時点での考えです。
そのヒントになりうるのが、上記の文章です。アンチドートを受けてガンビットが無力化されたエアリアルのは「機能を停止した」のではなく「マニュアルモードに切り替わった」と書かれているのです。これを文字通りとるならば、「完全にスレッタが手動で操縦すれば、エアリアルは動く」ということになります。これはprologueでアンチドートを受けたルブリスの挙動とはまったく違います。
ここから予測できることは二つあります。ひとつは、ガンビットの操作も含めマニュアルモードになったので、今まで「みんな」がスレッタの意志をくみ取って勝手に動いていたのができなくなった。しかし、ガンビットの中にいる「みんな」の存在はエアリアルオリジナルなので、これは薄い説です。
もう一つは、「パイロットの意志に従い、機体が有機的に反応して(=オートで)動いてくれる」段階がスコア3で、「パイロットの操縦技術とGUNDフォーマットが完全に組み合わさって、全てがパイロットの主導で動く」段階がスコア4なのではないかという説です。言葉で説明するのが難しいのですが、「マニュアルモード」という言葉からはパイロットが手ずから機体を動かさなければならないという意味合いが読み取れるものの、実はその延長線にこそパーメットスコア上昇の鍵があるのではないかと思うのです。
パイロットの操作のくせを予測し動くシステムが、元々ガンダムには組み込まれていたものと思われます。ガンダムに対抗すべくジェターク社が作ったダリルバルデが、そういったAIを組み込んでいることからもその予想はできます。しかしダリルバルデの場合、何度も戦闘を重ねることで機体がパイロットの性質をくみ取り最適化していきますが、ガンダムはその逆をいくのではないでしょうか。つまりパイロットが意図せずとも勝手に思うがままに動いてくれるが、ある程度のパーメットスコア(4以上)に到達した場合は、GUNDフォーマットが従ってくれる己(=パイロット)の意志に自覚的になる必要がある。
平たく言うと、基本的な操縦難易度はある程度オートでやってくれるので易しいが、乗るごとにパイロットに熟練度(=マニュアル操作)を要求してくるのがエアリアルで、最初は機体が言うことを聞かないから操縦が難しいが、乗れば乗るほど思い通りに動いてくれるので乗りやすくなるのがダリルバルデ、という差があるのではないかと思うのです。開発コンセプトが逆ですね。
――「一緒に? いいの?(p104)」の意味
さて、前の言説……パイロットがGUNDフォーマットの操作に自覚的になり、自発的な指示ができるようになった段階を仮にスコア4としましょう。となると、次に問題になるのはスコア5と6の違いです。
注目すべきは、「①ガンビッドの操作がきかない状態で、エアリアル本体は動ける(p103)」状態から、「②スレッタがエアリアルの中にいる“何か”の声を聞いて安心する(p103)→ガンビッドがエアリアル本体を取り囲む」状態、そして③上に取り上げた「一緒に? いいの?」と“何か”に話しかけている状態と目まぐるしく三段階の状態に分けられているということです。この3つは明らかに段階が異なります。私の予想では、
①=パーメットスコア4
②=パーメットスコア5
③=パーメットスコア6
なのではないかと思うのです。もしこの仮説が正しいとすると、スコア4は前述した通り、パイロットがマニュアル操作で機体を動かしている状態。スコア5はガンビット(=みんな)に自由意志が宿り、ガンビットからパイロットへの指示通達ができる状態。スコア6はガンビット(=みんな)とパイロットが双方向にやり取りができ、ガンビットとエアリアル本体が別の機体であるかのように連携が可能となる状態だとそれぞれ説明がつきます。
②の段階では、明らかに「スレッタが一方的に『みんな』の声を聞いている」、③の段階では「スレッタと『みんな』が会話していることがスレッタの話しぶりからわかります。この描写からも、上記の分類に説得力が生じるのではないでしょうか。
また、この区分が正しいのだとすれば、他のガンダムがスコア5以上に到達できない、到達している描写がない理由も説明できます。他のガンダムのガンビットには(そもそもウルとソーンにはガンビット自体存在しませんが)『みんな』が宿っていませんから、対話が存在するはずがないのです。パーメットスコアをどんどん上げていくというのが、エアリアルにしかできない所業だということがここから読み取れます。
・その他、細かいところ
――ホルダーの決闘義務の明記(p120)
前の項目で熱く語りすぎたので、ここから先はさらっと流していきましょう。パーメットスコアは本作の根幹にかかわる設定なので流せなかったわけですが、ここから先はそうでもないので。
まず着目したのは、シーズン2の序盤でレネがロウジに尋ねていた、「ホルダーの決闘義務」の内容が具体的に描かれていたこと。確かロウジもここまで明確に説明していなかった気がするのですが、第10話には「ホルダーは原則的に2週間に一度は決闘を受けなければならない(p120)」と書いてありました。グエルは戦いすぎにしても、ホルダーになったから決闘は断り高みの見物、というのは許されないのですね。細かいところですがすっきりした部分でした。
――クールさんとホッツさんの設定が明記されていた!(p130)
いきなり登場して、その後何故かキーアイテム(文字通りの意味で)になった子のマスコット。監督の趣味なのか高島さん(=ノベライズの筆者)の趣味なのかはわかりませんが、無駄にちゃんとした設定が記されています。
「ミントチリ味のスナック菓子<クール&ホッツ>のイメージキャラクターで、CMも流れているものの、人気はいまいちのようだ。(p130)」
このくだりを読んだ時、思わず「その設定いる?」と突っ込んでしまいましたが、彼らの微妙すぎるビジュアルに説得力をもたせるには充分な設定ですね。そもそもミントチリ味のスナック菓子というのがあまり美味しくなさそうなので。
しかし味まで指定されているなら、今後関連商品としてグッズ展開があるかも? ありえそうなのはエアリアルコラボですが、さすがにこんな売れなさそうな味は展開しないでしょうし、やっぱりアド・ステラ世界内に留まっておくべき存在なのかもしれません。
――宇宙議会連合の説明(p137)
簡潔ではありますが、アニメ本編にはなかった宇宙議会連合の説明が記されています。曰く「フロント間で起きる政治問題に対する“調停機関”として存在している。(p137)」とのこと。ざっくり言うと宇宙裁判所といったところでしょうか。その役割からして、原理本質的にはどこのフロントにも属さない、中立的な立場であると考えられます。だからこそシーズン2で、連合がオックスアースを密かに支援していたことが問題視された、という流れがあるのですね。
アニメを見ているだけだと、宇宙議会連合の本来の立ち位置が不明だったので謎のフィクサー的存在に見えてしまっていたのですが、この一文があることでだいぶすっきりした気がします。
◆星群をみつけて 感想
・㈱ガンダムの事業計画、始動
前話からして、㈱ガンダム主体の話になりそうだという期待があったのですが、その予想は裏切られませんでした。今回の話のメインは㈱ガンダムの初の事業提携がうまくいくか? というところです。そこに新キャラやユーシュラーたちが関わって……というお話でした。
やはり㈱ガンダムは、歴代ガンダムシリーズでも独自性のある設定なので、ここを掘り下げてくれるのは嬉しいですね。願わくばこのエピソードはノベライズが続く限り(おそらく第6巻まで?)続けて、より水星の魔女の世界観を深めていただきたいと期待しています。
・宇宙議会連合についての突っ込んだ説明がなされるのか?
さて、前の話でユーシュラーの花婿についてちらっと触れられましたが、どうやら彼は宇宙議会連合の関係者な様子。こちらもまた興味深いです。
先ほど本編の感想で述べた通り、宇宙議会連合の存在意義はアニメではほとんど言及されず、どんな組織なのか分らずじまいでした。最後、色々と唐突感があったのもそれが原因の一端だったと私は考えています。このオリジナルエピソードで、そんな宇宙議会連合の全貌をあぶりだしてくれるのであれば、本編の解像度もかなり上がりそうです。こちらに関しても、期待が持てますね。
私は00からガンダムに入った人間なので、「公式外伝」といえば主人公たちが直接出てこないエピソード(過去編や同時間軸の別の組織の人物にスポットを当てる等)が主だという理解でいました。しかし、水星の魔女の「オリジナルエピソード」は思いっきり主人公たちが登場し、短かった本編では描けなかった、物足りないと感じていた部分をごりごり補足してくれるつもりのようです。
まさか、00の公式外伝的な立ち位置だと思っていたオリジナルエピソードがここまで充実しているとは思わず、嬉しい誤算です。私と同じように㈱ガンダムの活動がもっと見たかったという方、宇宙議会連合についてもっと知りたかったという方は是非、小説版を手に入れられることをお勧めします。作品の理解がぐっと深まります。
さて、今回はパーメットスコアについての話を軸に感想・考察を書いてきましたが、相変わらず小ネタもたくさんあって楽しむことができました。ここまでお読みいただいてなお、購入をためらっているという方はぜひ一読をお勧めします。
次の巻からはシーズン2に入ります。ここからも怒涛の展開で、アニメ版だと正直置いていかれた感のあるエピソードもありましたので、どれくらい補足をしてくれるのかが楽しみです。発売を楽しみに待ちたいと思います。
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