第2巻 小説版水星の魔女(2)感想・アニメ未読者にはやや入りにくい内容か

 水星の魔女のノベライズ第二巻が発売されたのは六月末ですが、私が注文して手元に届いたのは七月末でした。そこから水星の魔女フェスに参加したり、他の本を読んだり……としているうちに気が付いたら八月末に。そして感想を書くべくこのページに戻ってきたのは年明けの二月末。これだけ時間が経っていれば、ネット上に多少のネタバレ要素を含む内容紹介をしても大丈夫だろうと思い、筆をとりました。


※(感想置き場全体がそうですが)本編4~7話およびノベライズ版オリジナルエピソード「双線のラングランズ」のネタバレを含みます。未読の方はご注意願います。


◆全体の感想

・各話の扉下にシェイクスピア作品からとった一文が掲載

 第一巻に引き続き、それぞれの話数が記された扉ページの下部に、シェイクスピアの戯曲からとられた一文が掲載されています。今回の引用元は『マクベス』『ロミオとジュリエット』『リチャード二世』『ヴェニスの商人』『夏の夜の夢』となっております。各話の主役が明確だった第一巻と異なり、今回は各フレーズが誰のことを示しているのか悩みました。一応下記の通り予想してみましたが、まったく自信がないです。既読の方のコメントをお待ちしております。

第4話  =ニカ(※第4話はチュチュの回だがなんとなくこの文章はニカっぽい)

第5話  =エラン(4号)?

第6話  =エアリアル?

第7話  =プロスペラ?

オリジナルep2=ユーシェタス


 個人的には、ミオリネの「ロミジュリったら許さない」の台詞が飛び出す第5話の引用元がちゃんと『ロミオとジュリエット』だったのがポイント高いです。製作陣、おそらく意図して選んでいますよね。それゆえこの台詞が誰を指すのかはっきりしなくなってしまっている面もあるのですが。


・サントラを聞きながら読んでみる

 小説を読むのが遅くなった理由のもうひとつがこれです。サントラの到着を待っていたら遅くなってしまったという次第があります。やはり曲を聞きながらだと世界観により没入できていいですね。初回限定生産盤なので、各曲に関する簡単な解説も付されていて、より世界観に没頭できたように思います。レコードサイズの台紙にCDが4枚くっついている形式なのでかさばりますが(CD置き場に入りません……)、買って損はないと思います。


◆個別感想

・寮の数は5つじゃなかった

 第5話「氷の瞳に映るのは」で、エラン(4号)が3対1のMS戦をしていました。このときの対戦相手がp61に明記されています。その名はダイゴウ寮。対戦しているMSの名前も同じページに「ダイゴウ社製モビルスーツ<クリバーリ>」と明記されています。

 作中で御三家以外のモビルスーツが登場するシーンは本編でも何度か見られましたが、アニメで見た際、このシーンはペイル寮同士のバトルだとばかり思っていました(エラン(4号)が対戦しているのは、ザウォートのグレードダウン機だと思い込んでいました)。しかし本書で相手のモビルスーツ名が明記されたことで、アスティカシアに存在する寮が5つ(御三家+ブリオン寮+地球寮)だけではないことが明らかになりました。

 7話のインキュベーションパーティーでも、御三家のMS+デミトレーナーが展示されているシーンがあったので、この四社が四強であることは間違いないのでしょうが、それ以外にも寮が存在するのは新たな発見です。アニメ本編では「スペーシアンvsアーシアン」の対決ばかりが描かれていましたが、スペーシアンが所属する寮の中でもカースト関係が存在しそうですね。うがった見方をすれば、地球寮のメンバーに嫌がらせをしていたスペーシアンたちは、もしかすると御三家+ブリオン寮以外の、スペーシアンの中でも地位の低い寮の出身なのかもしれません。カースト争い(もとい、親同士の会社の争い)に敗れた者が、より地位の低いものをいじめる構図。社会の縮図のようで闇を感じます。

 御三家以外の寮についてはかなり掘り下げる余地があると思うので、いずれ外伝などで取り上げられる可能性がありますね。


・エラン(4号)「あんたの見立ては間違ってたよ(p144)」の意味

 第6話「鬱陶しい歌」におけるスレッタvsエラン(4号)の宇宙での戦闘シーン。ここでエラン(4号)が呟く「ベルメリア・ウィンストン。あんたの見立ては間違ってたよ」という言葉。アニメを見ていた時はベルメリアのどの「見立て」に対する発言なのか分りかねていました。私の予想は、

①「次の段階フェーズに移行できる結果(p65)」という見立て

②「スレッタも同じ強化人士だと考え、エラン(4号)が嬉しく思っている(p75)」という見立て

③「エアリアルのタスクレベルでは、膨大なパーメットの流入でパイロットは即死する(p75)」という見立て


のいずれかでした。①の場合、エラン(4号)が新たな任務、すなわち対ガンダム戦に挑めるということを意味します。実際エラン(4号)はベルメリアのこの報告の後、エアリアルとの決闘を取り付けているので矛盾はありませんね。

 そして②は、ベルメリアとエラン(4号)が直接会話しているシーンがあることから、エランが聞いたベルメリアの「見立て」として成立しそうです。しかし、その前のエピソードでエアリアルの構造がファラクトとは違う=スレッタは強化人士ではないということはエラン(4号)は既にわかっています。ゆえに戦闘シーンであえてこの発言をするのは若干不可解です。自分にはできない有機的な動きをするエアリアルを目の当たりにして、「スレッタは自分とは違う」という意味で放った発言だとしたら理解できなくはないですが。

 最後の③。エラン(4号)とベルメリアの会話シーンで、彼女が放った言葉です。エアリアルが本来の動きをしたらパイロットは即死するはず、という彼女の「見立て」は、高機動が売りのファラクトに肉薄してもなお、パイロットの疲れを感じさせないエアリアルの動きから否定された。すなわち「エアリアルはこういう動きをしても、パイロット(スレッタ)が即死することはない」と結論付けたがゆえのエラン(4号)の発言だと思われました。②と③はスレッタと自分(4号)を比較した発言という意味で、ニュアンスが近いですね。


 しかし書籍版を読むと、それらいずれとも異なることがわかりました。というのも彼の発言の次の行にこうあるのです。

『ベルメリアは、エランがあと一度は決闘に――パーメットスコアを上げる本気の戦闘に――耐えられると言っていた。しかしそれは不可能なようだ』

 つまり、エラン(4号)はこの戦いでパーメット流入値が限界を超え、命尽きることを覚悟していた、その上での発言だったということになります。私が予想していたよりもだいぶ重い発言ですね。それを踏まえると、エラン(4号)が戦闘中にスレッタにぶつけていた様々な発言も、重く捉えられます。

「(僕はペイルの命令下にあり、身体的にも限界だ。この決闘に勝っても負けても死ぬしかない。だからせめて)勝利くらいくれよ」

勝利くらい僕にくれよ、の発言の裏にはこんな思いが込められていたのではないのでしょうか。



◆双線のラングランズ感想

・㈱ガンダム設立後の話だと判明

 さて、次はオリエピに移ります。こちら、第1巻に付いていたエピソード(ニカがスレッタを呼び捨てしている)からして、時系列が第1巻より明らかに後ろだということはわかっていましたが、具体的にどのあたりに挿入される話なのかは不明でした。しかし今回、㈱ガンダムを設立し、経営理念(医療としてのGUNDの活用の道を探る)を確立した後、すなわち本編第8話あるいは9話より後のエピソードであることが明らかになります。ミオリネがプロスペラ&ペイルCEO陣と「㈱ガンダムCEO」として話し合いをしているシーンがあるので。

 やはり第1巻より後ろの話だろうなと思っていましたが、思っていたより後ろでした。となると第1巻についていたオリエピ「ユーシュラーの遊園地」におけるスレッタとミオリネの関係はよそよそしすぎる気がしないでもないですが。そのあたりはあくまでオリエピとして割り切った方がよさそうですね。そもそも外伝として別展開されてもいいレベルの話を公式ノベライズに入れ込んでくれているだけ感謝した方がいいかもしれません。


・単なるサイドストーリーではなく、本編の裏話になりそうな予感

 上にも少し書きましたが、今回のエピソードは㈱ガンダムの経営に関する話が多く出てきます。もちろん、ラングランズ社のCTO、ユーシュラーに巻き込まれる形でスレッタ、チュチュ、ニカが遊園地を駆け回るエピソードがメインではあるのですが、その裏ではミオリネやラングランズ社のCEO達が動いています。そしてそれは、㈱ガンダムがどういった形で世に出ていくか、どんな成果を出して世間に認めてもらうかという話に繋がっていきそうな予感がします。

 アニメ本編において、㈱ガンダムの存在は重要ではありますが、具体的な活動内容が語られるシーンは限られていました。しかし本作では、それがしっかり描写されそうです。㈱ガンダムが名ばかりの存在ではなく、ちゃんとした会社として動いている。それをしっかり見せるのが、このオリジナルエピソードの真の目的なのかもしれません。


 水星の魔女は全25話と、最近のTVアニメシリーズのガンダムにしては短い作品です。ゆえに描写不足を感じるところも正直多かったのですが、少なくとも㈱ガンダムについてはこのオリジナルエピソードで深堀してくれそうです。続きを読むのが楽しみになりました。


・ディランザはジェターク社以外も使っているらしい

 盛大なネタバレになりますが、ラングランズ社の人間がディランザを使うシーンが出てきます。これはすなわち、ディランザが他社にも販売されていることを示しています。地球を制圧するシーンでもディランザ・ソルが出ていたのでジェターク社が占有しているわけではないのは以前から明らかだったのですが、ラングランズ社はベネリットグループの中でも業績が良さそうな会社です。そんな有力な競合他社にまで幅広く自社製品、それも主力商品を卸しているとは思わなかった次第です。


 とはいえシーズン1の終盤で、ジェターク社の旧型MSデスルターをテロリストが使っていたことからも察せられますが、ジェターク社製MSは入手難易度が他の会社のMSに比べて低いのかもしれません。見た目と幾多もの戦闘シーンをみる限り、ほかの御三家のMSに比べてディランザは頑丈さとパイロットの安全性にメリットがある印象を受けます。ゆえに整備コストが低く、他社から好まれやすいのかもしれません。他社製品を自社で使う場合、整備に関わるランニングコストが低いに越したことは無いですからね。その辺りも、ジェターク社が御三家筆頭である所以なのかもしれません。




 以上、第2巻の感想となります。やはり話数がかさむにつれて「視覚情報の補助」的な側面が色濃くなってきている気がします。アニメ作品の公式ノベライズを、アニメを見ずに読む方はあまり多くないとは思いますが、個人的にはその読み方はおすすめしません。前触れもなく出てくる情報が多すぎて、原作未視聴の方からすると「???」な内容がたくさんあると感じるからです。

 この感想置き場を訪れる方は基本的に「水星の魔女」視聴済みという方が殆どだと思いますが、万が一、アニメを見ていないという方がいらっしゃって、さらにこの感想を読んで興味を持ったという方がいた場合はぜひ、アニメから先に見ることをおすすめします。それと併せてノベライズ版を読むことで、より作品の理解が深まる、そんな作りになっていると感じている次第です。

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